半径のシャボン玉

二木なつめ

第1無職、はじめてハローワークへいく

ハローワークへ行ってきた。

2回連続転職に失敗している。

情けなさ、不甲斐なさ、こだまする「お前はだめだ」という声・・。

ハローワークへ行けば、ここのところ少し持ち直していた心の状態が悪くなってしまうことはわかっていたが、得なければならない情報があった。

これから屠殺場に連れていかれるような牛の気持ちで電車に揺られていた。


ハローワークは駅すぐだった。

どんな人でも辿り着かせることが、ファーストミッションのような目立った看板。

 

—ハローワークへようこそ


午前10時過ぎの平日、すでに待合室はいっぱいだった。

病院に似ていると思った。


予期せぬ解雇、私のように心を病んで退職した人、家族を抱える人、独身の人。

この先が不安・・その感情だけは共有される場。

 

そんな人々の心情を長年見続けているであろう、受付の女性。

母に年が近そうだった。教会のシスターみたいだと思った。


一連の手続きを聞き終えたあと、とても心地の良い距離感で一言彼女は「どうぞお大事にしてください」と声をかけてくれた。




社会との繋がりは怖い。

上司からの嫌がらせ、従業員からの恫喝まがいのクレーム、深夜近くの残業の日々。

引きこもれるなら、引きこもっていたい。

もう傷つきたくない・・。


たとえ会社を辞めたとしても、社会は何かの形で私に関わってくる。

逃げても、人がいる限り、社会がある。

人がいないところは鬼が住む処だ。


きっと、もう少し元気が出たら、お金を稼ぎにどこかへ転職するのだろうけれど、私がしたいのは、あのハローワークの女性のように、誰かに「お大事にしてください」と声をかけることなのだと思う。


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半径のシャボン玉 二木なつめ @nikinatsume

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