第十二話 聖人と魔人
「まず、お話をさせて頂く前にお二人について確認をさせてください」
ブレンダは、ルーカスとマヤの目を見据えて言った。
全員で庭にあるテーブルを囲んで椅子に座った。
マヤは家に戻ってお茶の用意をして戻ってきて、皆に振る舞う。
「お二人はこの森に住むと言われる『聖人様』でらっしゃいますか?」
真剣な表情でブレンダは単刀直入に聞いた。
「……」
問われた二人は静かにお互いに目をやる、そしてルーカスが口を開く。
「ふむ。質問に質問を返して申し訳ないが、この森に住むのはなんと聞かされている?」
「この森に住むのは、聖人とも魔人とも……」
質問にブレンダが答える。
「あらあら、魔人ねぇ」
微笑みながらマヤがこたえた。
「では、その剣はなんと聞かされている?」
再びルーカスが聞く。
「この剣は、勇魔の剣……かつて勇者が愛用し、第二次聖魔対戦の折に振るったと言われている剣です」
今度はオリビアがこたえた。
「ふむ、『聖人とも魔人とも』か、まぁ、当たらずとも遠からずだな。
何しろ、このマヤは『”元”魔王』だからな、そして、この剣は……懐かしいなぁ、何しろこの剣は……」
そう言って、オリビアから剣を受け取ると、しげしげと見て、両手で掲げて持った。
「もともと私が使っていたものだ、んぬぅ?」
剣は鞘から抜けなかった。
「ふんっ!あれ?ふんっ!あらら?」
うんともすんとも言わないようである。
「なんだ?じいちゃん、その剣、鞘から抜けないのか?」とユウキ。
「え、元魔王??マヤ様って名前が聞いたことがあると思ったら、先々代の魔王のマヤ様ですか??」とブレンダ。
「その剣をルーカス様が使っていたということは、ルーカス様は『勇者様』でってことですか?」ケイトリンが言う。
「にゃにゃ!それって言ってもよかったの??」そして、ミケが驚いた声をあげた。
「えーっと、つまり、『当たらずとも遠からず』というのは、聖人様は勇者様で、魔人は元魔王様ってことでしょうか?」
皆の反応をよそに冷静にマヤに向かって質問をするオリビア。
「まあ、そういうことになるかしらね?二人でそのように名乗ったことはないけれど、この人と私がここに住むことになってから、剣と杖に箔を付けるためにこの森を『聖魔の森』と呼ぶことにして、この人のことを『聖人』と呼ぶことにしたみたいね、魔人は私のことなのかしらねぇ、いやねぇ魔人だなんて」
魔人という響きが全く似つかわしくないおっとりした口調で話す、柔らかい雰囲気のこの女性が『元魔王』ということが信じられない様子でオリビアは見つめた。
「まぁ、ばあちゃんが魔人ってのは、あながち……いや、間違っているね!こんなに優しいのにね!だから、さっきみたいな
柔らかい笑顔はそのままなのに、先ほどのおっとりした雰囲気からは打って変わり、マヤは禍々しい魔力を感じさせはじめたのを察知し、ユウキは慌てて発言を訂正する。
「ふんぬぅ〜!!!……ハァハァ、抜けん!なぜだ!」
ルーカスは荒げた声を上げて、剣をテーブルの上においた。
「にゃは〜ん、つまり、ルーカスはもう『勇者』じゃないってことね〜」
ミケはニヤニヤしながら言った。
「うーむ、まぁ、もう勇者っていう歳ではないし、仕方がな……」
ルーカスは驚いて言葉があとに続かなかった。
「え〜、なんで抜けないんだよ、こんなに簡単に抜けるじゃんか」
それは、ユウキがテーブルに置かれた剣を手に取りサッと鞘から抜いたのを見たからだった。
「ユ、ユウキ、お前……」
ルーカスは振り絞るように言う。
「にゃにゃーん、そうよ〜、ユウはこの剣を抜くことができるのよ、つまり、今はユウが『勇者』ってことになるのよねぇ」
誇らしげにミケが言った。
「え!?この剣が抜けると『勇者』ってやつになるのか?なんだよ『勇者』って?」
ユウキは、抜いた剣を鞘に戻し、テーブルの上においた。
状況が未だに飲み込めない三人は唖然として、二人と一匹のやり取りを見ているだけだった。
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