第四話 アオイヤの食堂

「……カァー!やっぱりこれだな!」


フィルとブレンダは黒ビール、オリビアとケイトリンはサイダーとリンゴのサイダーを頼んでちびちびとお互いに飲み比べをしている。

ビールというのはエールと違いシュワシュワ感が強い飲み物らしい。


フィルはジョッキの半分くらいを一気に飲んでしまった。


フィル曰く一度ビールを飲んでからは、タンサンのシュワシュワした喉越しに病みつきになったらしい、黒ビールなのは、普通のビールでは軽すぎるそうだ。


「……ふむ……これは……たしかに……」

ブレンダは、一口飲んでは確かめるように「グビグビッ」と喉に流し込む。

喉にシュワシュワとした刺激が感じられる。今まで飲んだエールも確かにシュワッとするような感じはあるが、これほど口と喉に刺激を感じることはなかった。


「ほう、嬢ちゃん、いける口だな」

フィルはジョッキの残りを飲み干しておかわりを頼んだ。


注文した料理が運ばれてきた、ジュー という音と湯気を出しながら運ばれてきたのは、ブレンダが頼んだ『角切りステーキ』とオリビアたちが頼んだ『テゴネバグー』だ。


オリビアとケイトリンは「わ〜」と声をあげて ジュー と音をだす眼の前の料理を見つめる。


ブレンダも声は出さなかったものの同時に「わ〜」と心の中で言ってしまったことに気がついて、聞こえていないはずのフィルの顔をふと見る。


「こんなの見たことないだろ?

あっついうちに食うのがいいんだ、食え食え」

フィルがブレンダの心の声を知ってか知らずかニヤニヤしながら言った。


王城で出てくる料理はだいたいが冷え切っていた。

調理のあと毒味係が毒味して、しばらく様子をみて問題がなければ食卓に上がるのだから、食べるものが冷えてしまうのは当然だ。


ここでは身分も関係ないし、そもそも命を狙ってくるような人間が厨房にいるわけがないのだから、出てきたものを気にせず食すことができるのだ。


体にあわなくてお腹を壊す懸念は捨てきれなかったが、ブレンダもそんなことをいちいち気にしていてはこれから先の旅が立ち行かなくなるのでわざわざ言うことではない。と考えている余裕があったかなかったかは定かでないが。


それにしてもこんなにアツアツで出てくるのは見たことも聞いたこともない。一緒に運ばれてきたソースを上からかけると、更に ジュー という音が大きくなり、湯気がモクモクと上がって、三人は一層目をキラキラさせながらその様子を見ていた。


音と湯気が一段落したらナイフを入れてカットする。

『角切りステーキ』一つ一つがすでにカットされているのでフォークを刺す、口に入れる、噛みしめる、噛みしめるほどに肉から汁が溢れ出てきて、肉の旨味とソースが口の中で混ざっていく、飲み込むのがもったいなくなると思っているうちにふわっと消えてしまうように溶けてなくなるような感覚で口の中から喉へ流れていってしまった。


初めて食べる肉の味だ、もう一口と手をかけようとして、ふとオリビアに視線を走らせる。


「ーー!ーー!!!」

オリビアが涙目になりながら口を手で抑え、声にならない声をあげているのをみて、ケイトリンはソースの音が落ち着く間に運ばれてきた『テゴネンチ』を切っているのをそのままにして、オリビアの前の『テゴネバグー』を一切れパクっと口に入れる。


「んーー!んんーー!!!」

ケイトリンも声にならない声をあげる。


「はふはふ、こへ、あふひ、あふふひへふ」

オリビアが口をハフハフさせながらしゃべっている、どうやら想像以上に熱すぎるということが言いたいらしい。

ケイトリンを見ると、同じようにハフハフしながら涙目になり目を赤くしている。


どうやら、感動して声が出なかったのではなく、熱かったから声が出なかったようだ。ブレンダはステーキはそれほど熱く感じなかったのにと、不思議に思っていると、


「わははは、そうなんだよなぁ『テゴネバグー』は牛と豚の細かくした肉が混ざっているから、熱をしっかり通すためによく焼かないといかんらしい。牛の肉の方はそれほど熱を通さなくてもいいらしいんだけどな。
今更だが、熱いから気をつけろよ〜」

わはっはっはと笑いながら、三度来たばかりの黒ビールをグビグビと飲み、『タッタ』という鶏の揚げたものを口に一つほうりこむ。

蓄えたフサフサのひげも相まって、身長がもっと低ければドワーフと勘違いしかねない飲みっぷりだ。


「フィルさん、わかっていて注意しませんでしたね?」ブレンダは聞くが、

「いやいや、言いそびれたな面目ない。でも、これはこれでいい体験したろ?」

明らかにすっとぼけた返事が帰ってくる。


「フィルさん、ひどいです〜」

少し涙目になりながら、ケイトリンが軽くやけどをしたらしい舌をだして、手で扇ぐような仕草をする。


ブレンダも笑いながら次のステーキを口に入れて、消えてしまうと、黒ビールを飲んだ。


オリビアとケイトリンは今度は『テゴネンチ』に挑戦している、『テゴネンチ』は、パンをすりおろしたもので『テゴネバグー』を包んで揚げたものだそうだ。


こちらはナイフで切ると湯気とともにジワーッと肉汁が溢れ出てきたので、今度はちゃんと「ふーふー」と冷ましてから食べる。

まわりのサクサクとした衣の食感とお肉のジューシーな食感が『テゴネバグー』との違いを楽しめる。


二人も美味しい食事に満足しているようで、仲良くサイダーとリンゴのサイダーを再び「カチン」とあわせ、今度はブレンダも交えて三人それぞれお互いの注文したものを食べあい食事を楽しんだ。

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