第18話 Can't Help Falling In Love

「ねぇねぇ! バクエ!起きてよ!もぉ!お昼になるよ!」


 誰だ?朝っぱらから……。ん?昼?


「いつまで寝てるのよ!早く広間に来なさいって!」


 まったく…。いつになくウルサイ女だ!


「広間に何があるんだ?ヤシタ……。」


「シレーヌが戻ってきたんだよ!」


「シレーヌ?私は 陰気いんきな女は嫌いだ……。

 別に話すこともなければ、会いたくもない……。」


「いつまでイジケてるのよ!!颯太だったら、もうすぐ迎えに来てくれるって!」


「もうすぐって何時だ?!なかなか来ないじゃないか!!イジケて悪いか……。私は…。」


 しまった…。これじゃただの八つ当たりだ。


「良いから来なさいって!」


 ヤシタに連れられ、渋々しぶしぶ広間に行く。




 広間に入ると、 先ほどヤシタの言っていたシレーヌが、父様と話しをしている。


「おー! セルスの娘! 久しいな!」


 どうした?シレーヌ…。何だか垢抜あかぬけた感じがするな…。


「本当…。久しぶりだな。神に楯突く魔人よ…。」


 嫌味に受け取ってくれてよいぞ…。


「まあ、そう言うな!私はお前の彼氏にトリシューラで斬られてな…。浄化されてこちらに戻れたのだ。

 セルスの娘よ。あの男は強いな!私は本気だったが、あのガキ、颯太と言ったか?奴には勝てなかった!たいした男だ。」


「颯太が?シレーヌと闘ったのか?」


「あぁ…。私は惨敗した…。」


 いてもたってもいられない様子のバグエ。


 そして。バクエは下を向き、両手を握り拳にしてセルスに言う。


「父様。お話があります。」


 バグエの言いたい事は だいたいわかっている様子のセルス。


「なぁ。バグエ。先日、日向子ひなこが来て、言っていただろう?


 バグエの…。その…。好きな男は 一人前になったら迎えに来てくれるって。」



 ガチャ…。

 扉が開き、ルシエールが広間に来た。



「あらあら。シレーヌじゃない?いつ戻ってきたのかしら?」


 ルシエールは貫禄のある口調でシレーヌに話す。



「ルシエール様…。その…。あの時は…。

 今日は…。その…。謝罪に来ました。」


 場の雰囲気に負けそうなシレーヌ。


「トリシューラで、浄化されたようね。あの坊や、凄いわね…。

 それから、あの時の事なら気にしないで良いわ。」


 ルシエールの、貫禄のある口調が増してきた。


「そう言えば、貴女がこちらに戻れたのは、姉様と日向子のおかげでもあるのよね。ねぇセルス?」


 セルス王は 王という肩書きを忘れたかのように、ギクシャクしている。


 ルシエールは ルキエラが人間界にいる事を 妻であり、ルキエラの妹でもある自分に内密にしていた事を未だに怒っているようだ。



「ルキエラ様?ルキエラ様もいたのか?」


 驚くシレーヌ。


「貴女だけじゃ、こちらの世界に戻れないでしょ?

 逆もしかりで、こちらから人間界にも行けないでしょ?」


 納得したようにうなづくシレーヌ。


「そうだわ、シレーヌ。貴女に1つ頼みがあるの。良いかしら?」


 うなづくシレーヌ。


「実はね。東の遺跡の跡地に住み着いているゴブリンなんだけど。そうねぇロードクラスだったかしら?手下を200人程、連れているのよ。

 あっ!退治をしようなんて考えないでね。様子を伺って来てもらいたいの。なぜかと言うと、近くの街 ウサミックスに夜な夜な出没するらしくてね、エルフやドワーフの若い娘を拐って行くこともあるらしいの。

 東の滝の魔女が、不在を良いことに、やりたい放題なのよね…。

 そしてね、ここからが問題で。実はそのゴブリン達、そのほとんどが元は人間よ。」


 驚くシレーヌ。


「またあの時のような…。誰がそんな事を…。人間に怨みを持つ者でもいるのか?」


 ルシエールは ふふっと笑う…。


「人間に怨み?そんな事、関係があるのかしら?

 貴女は意味もなく、人間を惑わし。大海原で遭難させ。その挙げ句、意気消沈させて…。操られていので、しかたがなかったのかしら?

 そうそう!最後は 人間を足から食べていたじゃない?人間が恐怖に満ちた顔を見ながら、それはもう楽しそうにね。

 貴女はその時、人間に対して怨みでもあったのかしら?」



「………。」

 何も言い返せないシレーヌ。


「いい?この世界の住人はね、人間界の者と共存なんてできないの。例えそれが、獸となった人間でもよ。」



 しばらく考えた後、シレーヌは言った。


「足を…。返してもらえないでしょうか…。そうすればできるかと……。」


 ルシエールは不適な笑みを浮かべた。

「アリゼー!いるのか?」


 空気が揺れたと同時に現れるアリゼー。

「お呼びですか?ルシエール様。」


「シレーヌが足を返してもらいたいそうよ。」


「承知いたしました。」


 そう言ってシレーヌに近づくアリゼー。


「私はそなたを 信用してはいないからな。」


 吐き捨てるように、シレーヌに言うアリゼー。


 シレーヌはうつむいたままだ。


 アリゼーはシレーヌの背後に周り、呪文のようなものを唱えた。


 シレーヌを包み込む、満月のように丸い光…。それがおさまると、シレーヌは以前のダークエルフとなった。


「ありがとうございます。もう二度とあのような事は致しません。」


「あら?もう気にしていない、と言ったはずよ。

 そうそう。セルフィーの偽者にせものも連れていくといいわ…。」


「かしこまりました。」

 そう言ってシレーヌは 大広間を後にした。




「バグエ。こちらにいらっしゃい。」


「はい。母様。」


 バグエは 母、ルシエールの隣に座る。


「先程の話だけど…。愛し合えば別よ…。」


 一瞬考えるバグエ…。だが、すぐにわかった。私達と人間が一緒に共存する…。


「母様!」


 バグエはルシエールに抱きついた。



「おい!何を言っている!ルシエール…。」


 セルス王は ハッとする。

 なぜなら、ルシエールが睨んでいるからだ!


「ねぇセルス。貴方も私と婚儀を交わすとき、色々と物議を交わしていたでしょ?

 私達、エルフもだけど。そしてこの娘…。バクエの幸せって何かしらね……。」


 そう言ってルシエールはバグエを抱きしめた。



 ヤシタは涙ぐんでいる。






 その頃、人間界…。


「違うって! カプセル怪獣は全部で5個だよ!」


(カプセル怪獣 = ウルトラセブンにて、ウルトラ警備隊の諸星もろぼしダン隊員が持っていた、カプセルに入った怪獣。設定は 今回はこいつらで充分じゃね?的な考えの時に使用。だが、基本的に目立ちたがりのウルトラ兄弟なので、このカプセル怪獣の登場回数は少ない。)


 僕は本気モードだ!


「でもさ、実際は3体しか怪獣はいないぞ!」


 笹目部長も本気モードだ。


「確かに、映像で出たのは3体です!

 でも、カプセルは当初5個なんですよ!!


 アギラ、ウィンダム、ミクラスです。」


「ほら!3体じゃん!」


「違うんです!実は残りの2体、4体目は 投げた瞬間に異空間に持っていかれたんです。」


「あ!それ知ってる!ダンがさ!悲しそうな顔をする場面!あれは、笑えた!!」


 中原さんも話に入ってきた。



「そして5体目は 空だったんですよ。」


「は?」


 笹目部長と中原さんは口をそろえた。


「覚えてないですか?ダンがカプセルを投げたら、中身が空っぽだったんですよ。」


「うーん…。それは思い出せないな…。」


 大掃除が終わり、僕達がそんな会話をしていると、所長が本社から戻ってきた。


「はーい。お疲れー!今年の仕事納めだな!今夜、時間のある奴いるか?」


「所長。今夜は大榧さんも大丈夫だって。そう来ると思って、お店予約しておいたぞ!」

 待ってました!と言わんばかりの、笹目部長。


「アハハ!そうかそうか!それじゃ戸締まりをして行くか!」

 こちらも。待ってました!と言わんばかりの所長。


「それじゃ大榧さん。僕は2階を見てくるから、1階をお願いね。」

 僕はそう言って2階に向かった。


「はーい。」



「なぁ大榧。最近、椚田と普通に話しているな。」


 小声で言う中原さん。


「ん?普通って?前からこうだと思うんだけど?」


「そうか?まぁ。それならそれで良いけど。」



「終わりましたよ!」

 そう言って僕は1階に降りてきた。


「部長達は先に行ったよ。駅前の 兎留賦うるふっていう居酒屋さんだって!」


 楽しそうに大榧さんが言った。


「ゲッ!」


「中原さん?どうしたんですか?」


「いやぁ。そこは親父が良く行く所なんだよね…。」


「さぁ行きましょ!大榧さん!」


「うん!」


「おい!無視するんじゃねぇって!何か最近のお前ら仲が良いな!」


「そうですか?」

 とりあえず返事をしておこう。


「中原さん。さっきも言っていたけど、変わらないですよ。」

 大榧さんも、とりあえず的な?


「まぁ別にかまわないけど…。それに、ここに日向がいたら、大榧は椚田と話す事もできないからな。」


「最近はそんな事無いですよ。」


「そうなのか?その話。長くなりそうだから兎留賦で聞かせてくれ。」




 僕達はバス停に向かった。


 停留所に着くと、相変わらずの遅延。大榧さんは寒そうに背中を丸めながら、話しかけてきた。


「椚田君。」


「何ですか?」


「高校の時の事って覚えてる?」


「うーん…。あまり覚えていないかな。何で?」



「何て言うか…。私もハッキリと思い出せないんだけど。私ね、椚田君と一緒にいる写真がたくさんあるんだよね。」


「そうなの?例えばどういった写真?」



「文化祭とか…。あとね、日向さんに頭をゴリゴリされている、椚田君の写真…。」


 頭をゴリゴリって…。


「お、大榧さん?出来ればそういう写真は破棄していただきたいのですが…。」


「えぇ…。 嫌だ!」


「おい! お前ら!いい加減にしろ!何なんだよ!そのラブラブトークは!」


「別にラブラブトークじゃないですよ! 椚田君に質問しただけじゃないですか。」



「あっ!バス来ましたよ!」

 今日の中原さん、何だか鋭いな…。


「今日は10分遅刻のバスだな!」

 既に別の事を考え始めた中原理恵…。



 僕達はバスに乗り、各自忘れた事はないか、携帯やタブレットで確認をしていた。


「椚田君、これこれ…。」


 そう言って、大榧さんは1枚の写真をタブレットで見せてくれた。



「あれ? これって修学旅行? 同じ班だったんだ?」


 当時、僕はクラスで友人と呼べる人はいなかった。その為、爪弾つまはじき者 同士が先生に勝手に決められた班。

 男子のみの班だった。


「なんとなくだけど思い出してきた。 確か、僕の班は、クラスに友達がいない者同士が集まったんだよね。」


「アハハ。そうなんだ!? でも、帰りには皆で話していたよね。」


「でも、何で大榧さんが同じ班でいるの?」


「それがね、私も思い出せなくて…。 それでね、この一緒に写っている娘。この娘は今でも連絡取り合っているから聞いたんだけど…。」


 と、そこまで言って、いきなり黙ってしまった大榧さん。


「やっぱりいいや! 駅着いたね! 中原さん起きてください!着きましたよ!」


 この短時間で寝れる中原さん。恐るべし…。


 僕達はバスを降りて、所長達の待つ兎留賦に向かった。居酒屋に着き、あらためて見る看板。


「ねぇ。 最初から気になっていたんだけど、これってさ…。ウルフじゃなくてトルフだよね…。」


 ぷっ!思わず吹いてしまった!


「確かに。漢字は兎だけど、ウルフって読ませるのなら、この兎じゃなくて、こっちの卯だね…。」


「ハイハイ!さぁ!飲も飲も!」


 中原さんは 「んなことはどーでもいーよ!」と言わんばかりで扉を開けた。



「へぇ!らっしゃぁい!」


 威勢の良い大将が迎えてくれた。


「こんばんは。満点ホームです。」


 中原さんがよそ行きの声で言った。


「おっ!中原さんのお嬢さん!いつも美人さんだね! 奥の席でお待ちです!」


 僕は大榧さんと顔を見合わせて笑ってしまった。



 個室に行くと、所長と部長は既に飲んでいた。


「5人揃うのは、忘年会依頼だな!さあ!お疲れ様です!」


 そう言って所長はジョッキを持ち上げた。


 席に着くと同時に、用意をされた中ジョッキを僕達も後を追うように持ち上げる。


「お疲れ様でした。乾杯!」


 明日から休みだ!嬉しい!


(主よ。明日はツーリングか?)


((明日は寝る!))


(主は堕落だらくした若者だな…。)


((Fayrayはどこかに行きたいのか?))


(独り言娘をこの先、主はどうするのかと思ってな…。)


((申し訳ない気持ちはあるけど。当分僕には接触してこないだろ?))


(果たしてどうだろうな…。)



 僕達は19時という時間もあり、腹ペコ状態だ。次から次へと来る料理を堪能した。



「ねぇ。椚田君。」


「何ですか?」


「姉さんのcatch the waveはどうなったの?」


「あぁ…。あの後、新しい図面を持っていったんだけど、連絡がない。 て言うか、持っていった時もいなかったし。」


 大榧さんは申し訳なさそうな顔をしている。しまった!大榧さん、メンタル弱すぎだよ…。


「あぁ! 気に入らなかったのかな!それに、 依頼しているのはうちだけじゃないだろうからね。年明けにでも連絡来るんじゃないかな!」


「そうなんだ…。 最近ね、美梨ちゃん…。姉さんに会ってないから、わからないんだけど、どうなのかなと思って…。」


「会ってないって?同じ家に住んでいるのに?そうなんだ。」


「ねぇ椚田君って、美梨ちゃんの事を前から知ってるの?」


 えっ?何を突然…。


「前からって?」


「えっと…。学生の時とか、そうそう! ひかりさんの結婚式でピアノを弾いていたって!」


「ごめん…。兄さんの結婚式は 色々な人に挨拶をされて…。実際、ピアノを弾いていたお姉さんの事もわからないんだよ。」


「そうなんだ…。」


「何で?」


「ううん。別に」


 そこに中原さんが、楽しそうに登場した。

「よう!お二人さん!何を真剣な顔で話しているんだ?」


「僕が大榧さんのお姉さんの事、以前から知っていたのか?って。」


「あー! そうだよな! 高校に入学したてのころ、大榧の姉さんは颯太の所にしょっちゅう来てたもんな!」


「あー。それさー。覚えてないんだよね…。

 あの頃ってさ。クラスの女子とか、隣のクラスの女子とか…。とにかく、女子が兼太君の事を僕に聞きに来ていて…。どの人が、大榧さんのお姉さんかは覚えていないんだよ。

 おかげで僕はクラスの皆に 女好き と勘違いされて…。男子には 避けられていたし…。

 それに、日向ちゃんが、しょっちゅう来るから、クラスで友達がいなかったんだよね……。

 だからかな、中学と高校はあまりいい思い出がないんだよ…。」


「そうだったのか? 兼太かねたの奴!」


 笹目部長が話に入ってきた。


「そりゃ災難だな…。日向ひなたの奴!」


 何で所長まで?


「なんとなくだけど、私も椚田君に話をしに行ったことがある気がする…。」


 大榧さんが半信半疑で話す。


「えっ? そうなの? 大榧さんも兼太君のファンだったかぁ~!」


 僕は冗談っぽく言った。


「うーん…。 何だか思い出せないな…。 でも、これだけは言えるけど。

 椚田君のお兄さんって、私は好きなタイプじゃないんだよね…。

 あ!ごめんなさい!そう言う意味じゃない!」


「アハハハハハ!わかるわかる!」

 大笑いをする笹目部長。


「それな!ほんっと、それな!」

 中原さんが大榧さんを指差して言う。


「ひかりちゃんがスゲーよな! マジ天使だよ! 博愛主義者の天使だよ!」



「あの…。身内で遊ぶのはやめてください。」


「いいじゃん!どうせ颯太は誰とも血が繋がってないだろ!」


 大榧さんはビックリしている。


「理恵! お前言い過ぎ!」


 笹目部長も笑いながら言っている。


「何で?! 何でそんな酷いことを言えるんですか!!」

 大榧さんが突然キレた…。


「大榧さん。 別にいいんだよ。本当の事だから。気にしないで下さい。」


「椚田君…。」


 大榧さんは下を向き 悔しそうな顔をしている。この人って、いい人だな…。


「大榧、突然聞くと酷いことを言っているようだけどさ。椚田家って違うんだよ。こいつらは血の繋がりなんて関係ないんだよ。」


「そうそう! だいたいさ! 俺こいつが言った、凄い言葉を未だに覚えているぜ!」


 所長が興味津々な表情だ。


「ああ! 言わないで!! お願い!!」


 僕は笹目部長に懇願した。


「颯太の父親が亡くなってさ、1週間位した頃かな…。

 お母さんもやっぱり落ち込んでいて。そん時に 色々な手伝いで俺も兼太の家にいてさ。確か、中原もいたよな?」


「うん。いたよ。」


 大榧さんは早く続きを…、と言う顔をしている。


「それでさ。颯太がお母さんの所に近づいて言ったんだよ。

 僕は本当の家族じゃないのですが、いつまでここにいていいのですか?って。もぉ大変だったよ!そん時はさ!日向が颯太の事を抱き締めながら泣いちゃってさ!」


「そうそう! 私が颯太を引き取るって言ったら、日向が私にマジギレしたもんな!冗談で言ったのにだぜ!」



 あぁ…。恥ずかしい…。って大榧さん?


「大榧!そんな泣くほど笑うなって!」



「椚田君…。そうだったんだ…。」


「や…。あの…。大榧さん?昔の話なんで…。多分ここは笑う所だと思うんだけど。」


「笑えるわけないじゃん! どこが笑える話なのよ!」


 大榧さんは僕の肩に手をおいて涙ぐんでいた。


「大榧さんは こいつらと違って、心が綺麗なんだな。」

 所長の言葉が心に響く…。


「大榧さん。その時の僕はね、父さんがいなくなったから、僕はこの家にいてもいいのか不安だったんだよね。

 でもね、今は違うよ。兼太君も日向ちゃんも母さんだって、僕の事を心配してくれているし。それにね、僕には父さんの妹。叔母さんがいて、この前の連休の時も、その叔母さんの嫁ぎ先の旅館に行ったんだ。

 そうそう!その帰り道で、大榧さんのお父さんに会ったんだよ!凄い酔っぱらっていた!」


「ゲッ?!」


「「「ゲッ?」」」

 僕達は声を揃えた!


「大榧? お前…。 もしかしてネコ被ってる?」

 楽しそうに言う中原さん。


「あっ! やだ! つい…。」


 大榧さんは恥ずかしそうだ。


「何だか今日は嬉しいな! 大榧さんの素顔が見れたな笹目!」


「アハハ! いやー良かった良かった! 今夜は楽しいな! 大榧さん。俺達に気を使わないで、素でいいんだぞ!」


 笹目部長も楽しそうだ!


「なんか…。もぉやだ!!」


 大榧さんは素で恥ずかしいみたいだ。

 立て膝で顔を隠している。


「颯太!お前さ、彼女がいなかったら、絶対に大榧と付き合ったろ?」


 おい!中原!何を言う!


「何を言っているんですか!すみません大榧さん!気にしないで下さい!」


 大榧さんは相変わらず顔を伏せている。そして小声で言った。


「彼女がいなかったら私だって、付き合いたいよ…。」



「え? 何?何? 聞こえないぞ!」

 デリカシーの無い中原さん。



「何でもないです!!さぁ!もう一度乾杯です!」


 そう言って、大榧さんのテンションは上がった。そして突然、所長の携帯が鳴る。


「どっかのスナックじゃね?」

 笹目部長が言う。


「ありゃ? 大榧さんの自宅?

 はい。お世話様です。満点ホームの…。はい…。いえいえ。お世話様です。明日からお休みなんですよ。」


(主よ。 どうやら独り言娘のようだな。)


((ああ…。))


(どうするんだ?)


((おそらく、ピアノ教室に呼び出されると思う。 妹もね。))


(主よ。こりゃ面白くなってきたでゴザル。)


((ゴザル? どうしたんだ?))


(前にじいさんと見ていた水戸黄門で、ポニーテールのおっさんが言っていたのを思い出してな…。)


((飛猿か?))



「椚田…。明日12時から時間あるか?」

 所長が申し訳なさそうに言ってきた。


「明日なら大丈夫ですよ。 もしかして、ピアノ教室に行く的な感じですか?」


「良くわかったな!?」


「何となくです。でも、こうなったらうちで決まりですね。大榧さんありがとう!」


 大榧さんは面白くなさそうな顔をしている。そして席をたった。


「すみません、ちょっと席を外します。」


 そう言って、携帯を持って部屋の外に行った。


「椚田。良かったな!明日は大榧さんも来てくれるぞ!」


 所長がニコニコと笑顔で言った。


「本っ当に、わかりやすいお嬢様だな…。」

 中原さんも笑っている。


「颯太!良かったな! 大榧さんがいれば心強いだろ? 」


 笹目部長もニコニコとしている。


「そうですね。色々と助けてもらえそうです。」



 そして、大榧さんは戻ってきた。


「椚田君、明日姉さんのピアノ教室に行くんでしょ?」


「うん。」


「私も顔を出すね。」


「うん。ありがとう!心強いよ!」


 僕の一言に大榧さんは赤くなった。


「もぉ。調子が良いんだから!」


「所で、図面はあるのか?」

 笹目部長が言う。


「はい。クラウドに入ってます。」


「んじゃ、大丈夫だな。」


 僕は笑顔で返した。



「さぁ! そろそろ次に行くか!今夜は大榧さんも大丈夫だろ?

 ていうか、今夜はまだ帰らせないぞ!」


 笹目部長は珍しく酔っているようだ。


「はい! 大丈夫ですよ! 今夜は口煩くちうるい父もいないので!」


 お父さん、うるさいんだ…。


「颯太と理恵さとえも大丈夫だよな?」


「バッチグーだ! な!颯太!」


 バッチグーって…。


「理恵ちゃん!バッチグーは古いよ……。」


「バカ! お前な! 中原さんって言え!」


「だって! 理恵ちゃんが颯太って言うからだよ!」


「ハイハイ! 兄妹喧嘩はよそでやれ!」


 あれ?この前と同じだ…。デジャブか?


「大榧さん、はい!」

 僕はそう言って、大榧さんのアウターをもってあげた。


「え? え? ありがと。」

 僕は大榧さんにアウターを着せてあげた。


「おい! 颯太! 私にも着せろ!」

 ハイハイ…。


「椚田! 俺も…。」

 所長…。


「じゃあ俺も…。」

 笹目部長まで…。


「僕には?」


「はいはーい!」

 所長…。



(主よ。 何となくだけど、次に行くお店はアリゼーの所ではないか?)


((アハハ! 僕もそう思うんだけど。))


(今夜は酔っていないようだな。)


((当たり前だ! この前の事があるからな。))


(主よ。私は主のことがほこらしく思えるぞ。)


((Fayray。ありがとうでゴザル。))



「椚田君。 何かニコニコしてるよ。」

 大榧さん?


「えへへ。ちょっと酔っちゃった。」


「実は私も酔っちゃった。」


「お互い、お酒はセーブしないとね。」


「そうだ!椚田君。私が歩けなくなったら送ってね。 てか、椚田君の部屋に泊めてもらおうかな……。」


「おい! 大榧おおかや!今のは日向に報告だな!」

 中原さんナイスツッコミ!


「よし! 日向も呼ぶか!」

 笹目部長!何を言っているですか!!!


「「やめてください!!」」

 僕と大榧さんはハモってしまった。


「え?何をハモってるんだ?冗談だし…。」

 中原さんの一言に赤面する僕と大榧さん。



「ここだぁ!」

 所長、楽しそう…。てか、正解だ。魔の巣、やはりアリゼーの所か…。


「うわぁ! エマニエル・ベアールのところかよ!」

 中原さんが叫んだ!


「理恵。来たことあんのか?」


「ああ…。親父と来た。」


「ママ美人だよな!」


「私は苦手だ…。」


(私も苦手だ…。)


((僕も苦手だ…。))



 カラン。

 カラン。


 扉のベルを響かせ、入店した。



「あらぁ! 所長、いらっしゃい!あら?皆さん、お知り合いでしたのね。どうぞ、こちらへ。」

 アリゼーは僕たちを席まで案内してくれた。


「所長。お久しぶりね。笹目さんと理恵さんも。そして颯太さん。 そちらのお嬢さんは?」


「椚田と同期の大榧さん。」

 所長。鼻の下がノビりんこ…。


「あら? それじゃ大榧さんのお嬢さんね?」


「はい、父がお世話になっております。父は粗相などしていないでしょうか?」

 大榧さんは相変わらず低姿勢だ。


「中原さんも大榧さんも、とても紳士な方々ですよ。」


(主よ。あそこにサモハン・キンポーのそこないがいるが?)


 ブハー!!!

 ヤバい!

 僕は先に頂いていたチェイサーを思い切り吹き出した!


「どうしたの?椚田君!?」

 驚く大榧さん。と言うよりも、他のお客さんまでこちらを見ている。


「スミマセン! 申し訳ないです。」


((オイ!! Fayray!!!))


「颯太どした? いきなり?」

 中原さんが半笑いだ。


「いえ!ちょっとムセてしまって……。」


(主の笑いのツボは広大こうだいだな。 ヤリがいがあって楽しいですぞ。)


((Fayray! マジでやめろ!マ・ヂ・で・だ!))




(相変わらず使い魔と仲が良いのね。私とも仲良くしてくれないかしら?)


 アリゼーが僕の心に入ってきた。


「ねぇママ。 カラオケいっちゃおうか!」

 笹目部長はノリノリだ!


「すみませーん。デンモクいただけますか?」

 アリゼーは透き通るような綺麗な声で言った。持ってきたのはサモハン・キンポーだ。


「ハァイ。どうぞー!」


「あら、ありがとうサモちゃ…。あけみちゃん!」


 ブハー!!!

 しまった!

 僕は二口目のチェイサーも吹いてしまった!


「颯太!マジで大丈夫か?」

 笹目部長が本気で心配してきた。


「すみませんです。 大丈夫です。もう笑いません。」


「椚田君? 何を笑っているの?」


 あっ…。やば…。


「本当にすみません! 笑ってないです!」


「どしたんだよ颯太。」

 中原さんもマジで心配している。



 アリゼー!やめて!お願い!


(アリゼーは僕を見てニコッとした。本当に可愛い子ね。ルキエラ様が入れ込むのがわかるわ……。)



「そっそうだ! 僕も歌おうかな!」


「僕もって…。まだ誰も歌ってないぞ?」

 鋭い中原さんのツッコミ。



 その時、僕の携帯が鳴った。携帯の画面を見ると、うわぁ。日向ちゃん?


「すみません!ちょっと電話してきます!」


 僕は急いで外に向かった。早く電話にでないと怒られるからだ。



 颯太「もしもし?」


 日向「おーい!颯太ぁ!」


 颯太「あれ?酔ってるの?」


 日向「アハハ!酔ってるぞ!颯太の声が聞きたくなってさ!電話しちゃった!」


 颯太「そっ、そうなんだ…。あまり飲みすぎないようにね。」


 日向「颯太。お願いがあるのだが。」


 颯太「どうしたの?」


 日向「向かえに来てくれないか?」


 颯太「何?何?どうしたの?」


 日向「お金がないの…。てへ。」


 颯太「………。どこにいるの?」


 日向「兎留賦っていう居酒屋よん。」


 颯太「え? 僕もさっき迄いたのに!?わかったよ。今から行くね。5分位で行けるから。周りの人に迷惑をかけないでね。待っててね。」


 日向「ハァイ!」


 僕はため息をついた。

 お店に戻ると、みんな何となく察しているようだ。


「あの…。すみません。姉が、お財布を忘れたようで…。今からそのお店に行ってきます。

 ついでに送ってきます。だいぶ酔っているようなので…。」


「アハハ! 年末に弟に迷惑をかけるなんて、さすが日向だな!」

 笹目部長が大笑いをしている。


「そうか…。残念だけど、しかたがないな…。」

 所長が言う。


「……日向さん。」

 大榧さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「それでは皆さん良いお年を…。大榧さん。明日は宜しくね。」


「う…うん。 それじゃまた明日!」

 大榧さんは笑顔に戻った。


「おい。これ、日向に渡して。」

 中原さんが化粧ポーチを僕に渡した。


「それじゃな!良いお年を…。」




「あら?帰るの? じゃあ下まで送りますね。」


 そう言ってアリゼーもついてきた。所長と笹目部長は羨ましそうだ。



 エレベーターホールで待機する僕とアリゼー。アリゼーはニコニコしながら言った。


「先ほどシレーヌに足を返したわ。」


 ん?!僕は言っている意味がわからない。


「ふふ…。貴方が浄化させたシレーヌの事よ。」


「足を返すって…?」


「やだ…。シレーヌはもともと、東の大地に住むダークエルフなのよ。」


「え?そうだったの?だってシレーヌって、セイレーンの事でしょ?」


「クトゥルフ神話? 人間が考えた魔物を神が創っただけの話…。シレーヌは ある事がきっかけで、人間界に送り込まれたのよ。」


「そうでしたか…。ねぇアリゼー。僕が目障りですか?」


「うふふ。ずいぶんストレートに聞くのね。」


「誤魔化さないで下さい。」


「調子にのるな! 人の子が! 私はシレーヌのようにはいかないぞ!」


「調子になんて…。本心ですよ。バグエと仲良くなったし…。ルシエールさんも僕の事はあまり良く思っていないようでした。」


「まぁ良い。美梨みりという女には気を付けることね…。坊やは女に甘いようだし…。」


「美梨さんとは 明日会います。」


「そう。それじゃセルフィーの偽者もいるはずよ。あのセルフィーにも気を付けなさい。偽者でも私と同等の存在よ。」


「どう気を付ければ良いのかわかりませんが、警戒はします。助言、有難うございます。それと…。会社の仲間を宜しくお願い致します。」


「本当に可愛い子ね。貴方の家もわかった事だし。近いうちにお邪魔するわね。ひょうたさん。」


 僕は驚いた!


「え? 何で……。」


 アリゼーは フフッと微笑んだ。

 その微笑ほほえみは微笑びしょうの魔女にふさわしく、恐怖を僕に感じさせた。


「結界も張らずに、トリシューラを出せば低級のけものでもわかるわ……。」


「そうでしたか……。以後気を付けます。重々かさねがさね、助言をありがとうございます。」


「本当に可愛い子ね。 バグエに飽きたら私の所にいらっしゃいね。」



 僕はアリゼーの最後に言ったことを無視し、魔の巣を後にした。


((なぁFayray。僕がセルフィーに稽古を付けてもらった時に、セルフィーはルキエラに頼まれたと言っていたけど…。))


(主よ。私にもわからない。ただ、ひとごとむすめとセルフィーはやはり親密のようだな。)


((ルキエラに聞いた方が早いけど、正直…。))


(会いたくなさそうだな…。日向子に迷惑がかかるからか?)


((うん。そうだね。あとアリゼーの事だけどさ…。みんなが、僕と接触をさせないようにしていた意味がわからない。))


(確かにそれは私にもわからないでゴザル。)


((お主もわからぬでゴザルか…。))


(主よ。着いたでゴザル。)


((なぁFayray。日向ちゃんが歩けなかったら背中に乗せてね。))


(了解したでゴザル)





 そして僕はお店の扉を開けた。


「あれ?忘れ物ですか?」


「すみません。姉を向かえに来ました。お財布を忘れたようで…。」


「ん?団体部屋の方かな? おーい! こちらの人、団体部屋に案内してあげて!」


「どうぞ、こちらです。」


 そう言ってアルバイトの人が部屋に案内してくれた。


「失礼します。すみません。弟さんがおみえですが…。」


「キャー!」


 突然の黄色い悲鳴…。


「おー!颯太ぁ!」


 あぁ…。泥酔だよこの人……。


「こっちこっち!」


 こっちこっちって…。向かえに来たのですが…。


 どうやら、日向ちゃんの職場も納め会のようだ。女性だけの職場なので、正直このシチュエーションは地獄だ。


「こんばんは。失礼致します。いつも姉がお世話になっております。日向の弟の椚田颯太です。」

 お座敷のため、僕は正座をして挨拶をした。


「ねぇねぇ颯太君。彼女いるの?」

「ねぇねぇ颯太君。何飲む?」

「颯太君。満点ホームなの?凄いね。」


 もぉ……。

 辛い……。


「日向ちゃん!向かえに来たんだけど!」


「そうだ…。すまん!みんな!私はこれで失礼します。」


「日向ちゃん。お金…。」

 僕はそう言って日向ちゃんにお金を渡した。


「あとこれ。理恵ちゃんから。」


 化粧ポーチを開ける日向ちゃん。中には紙が入っている。


「あぁ…。理恵…。」


 日向ちゃんは頭を抱えた。


「颯太…。ごめん…。帰ろう…。みんな。それでは良いお年を…。」


 僕も挨拶をして部屋を後にした。


「失礼致します。」

 大将に挨拶をして僕達はお店を後にした。



「日向ちゃん。歩ける?」

 僕は日向ちゃんの肩を抱きかかえながらゆっくりと歩きだした。


「歩けないよん。だからぁ、こうやってぇ、ゆっくりと歩いて帰ろう。」

 日向ちゃんがこんなに酔っているのは初めて見るな…。


「Fayrayに乗る?」


 日向ちゃんの顔が満面の笑みに変わる。


「あぁ~~。どうしよう…。でも、もうちょっとだけ、このままがいい。」


「はいはい…。日向ちゃんは酔うと可愛くなっちゃうんだね。」


「アハハ…。こんな姿は颯太にしか見せないけどな。」


 僕達は裏通りに入った。


「ねぇ。日向ちゃん。あそこの公園で少し休もうか? 自販機もあるし。」


「うんうん。 ベンチに座ろう!」


 僕は日向ちゃんを座らせて、自販機に向かった。


「日向ちゃん何飲む?」


「あたたたいあちゃ!」


 ぷっ!思わず笑ってしまった。


 僕は自分の分と2本買ってベンチに戻った。日向ちゃんの足元にはFayrayがいる。倒れないか見張っていたようだ。


「はい。どうぞ。」


 僕はあたたたいあちゃ…いわゆる、温かいお茶のキャップを開けて日向ちゃんに渡す。


「ありがとう…。」


 日向ちゃんはそう言って、お茶を一口飲んで、きりだした。


「化粧ポーチに紙が入ってた。」


「紙?」


「年末ぐらい弟を解放してやれ!バカ女!って書いてあった…。」


「理恵ちゃん…。」


「颯太、ごめんな。ダメなお姉ちゃんだな…。」


「うん。」


「うん。とか言わないで!」


「アハハ!日向ちゃんはバカじゃないよ。僕の大好きなお姉ちゃんだよ。」


「颯太ぁ! うわぁん!」


「主は女を泣かせるのが上手だな。」

 Fayrayも会話に混ざってきた。


「Fayray! 颯太に泣かされたよぉ~!」

 日向ちゃんはFayrayを抱き締めながら泣いている。

 でも、その表情は満面の笑顔だ。もう…。日向ちゃんはお酒に飲まれるんだな……。


 その時!

「主よ!何か来るぞ!」


 何だ?この気配は?!


 最高レベルの気配。これは僕にでもわかった!


 空気が揺れる!

 

 僕とFayrayは 立ち上がり、日向ちゃんを背にした。僕はトリシューラを出して構える。


「何?何?どしたの?」


「日向ちゃん!動かないで!」


 目の前で竜巻が起こる!


 荒れ狂う砂ぼこり。中心に人影…。

 そして…。竜巻がおさまり、人影があらわになる。

 余韻よいんの残る公園の広場。落葉樹の葉がいまだに舞っている。


「天王様!」

 Fayrayが叫んだ。


「天王様?!」


(天竜鬼神衆てんりゅうきじんしゅう八部衆はちぶしゅうの一人。その他、竜王りゅうおう夜叉王やしゃおう乾闥婆王かんだっぱおう等がいる。)


「シヴァの子よ。今回ばかりは神々も傍観者ではいられなくなった。」


「あわわわ……。」


 僕は言葉にすることができない位に緊張した。天王様って、八部衆。天竜鬼神衆の一人でしょ!神様でしょ!神様が目の前にいるよ!?


「椚田の血族。そしてシヴァの子。名を申せ。」

 天王様が僕に話しかけてきた。


「主よ。緊張するのはわかる。だが、自己紹介はしないと。」

 Fayrayが、僕を落ち着かせようとしている。情けないが、今の僕は まるでダメ夫の まダ夫だ!


「は…初めまして。」

 僕は深々とお辞儀をして続けた。


「椚田颯太と言います。B型の23歳です。 身長は…。」


「もうよい。」

 天王様は僕の自己紹介を遮った。


「颯太でよいか?」

 顔色一つ変えずに天王様は言う。


「はい!」


「取り急ぎ、私はお前。颯太と融合する。良いな?」


 取り急ぎ?融合?


「理由は後でゆっくり聞かせる。いくぞ!」


 そう言って天王様は僕に近づくと消えた。


「どう言うこと?何?何か聞こえる…。」


(天竜鬼神衆と融合しやがった! クソ! 人の子め!)


 声のする方を見ると、魔物?のような大群。いつの間に?


「いくぞ!颯太!」

「はい?ははは…はい!」



「主が…。独り言坊やに……。」



「トリシューラを出せ!」

「はい! Fayray!」


 身体が…。

 何だ?

 軽い!

 スピードも段違いだ!


 僕はトリシューラを出し、魔物の群れに突っ込んだ!


 取り乱す魔物たち。先頭の団体はゴブリンだ!

 おそらくロードクラス。40~50人程の団体。


 僕は一心不乱に、現世うつしよに来た魔物たちを切り伏せた。

「右奥にいる殿しんがりは最後だ!左のデカイのを先にる!」

「はい!」


 僕は天王様に言われるがまま、青い身体の巨人に向かった。


 巨人はを振り上げる。

 僕はバリアを張ろうとした。

 が、

「バリアなどいらん!トリシューラで弾き返せ!」

「やってみます!」


 僕は巨人の降り下ろしてきたを トリシューラで、思い切り弾き返した。


 砕け散る大きなこん棒。近くで見る巨人は一つ目だ。ゲームではよくいるタイプ。

だが、実際リアルで見ると、ゲームでは感じる事のできない恐怖が、心の底から込み上げてくる。


「よし!脳天から切り伏せるぞ!奴の頭上へ跳べ!」

「はい!」


 僕は青い巨人の頭上へと、高く飛び上がった!


くだ飛竜ひりゅう!」



 そう言って、僕は分身した。

 分身した僕達は 各々おのおの、巨人を頭から切り伏せていく!


 巨人の断末魔が聞こえ、巨人はその場で仰向けで倒れる!


「何ですか!?今のは!!」

「私の技だ! カッコいいであろう?」

「名前はさておき、カッコいいです!」


 そのすぐ後、Fayrayが雷のような轟音とともに、巨人を自分の身体で貫いた。


 巨人の恐怖を食べたようだ。


「さぁ!殿しんがりだ!」

「はい!」


「Fayray!奴の後部に回り込め!おそらく撤退するはずだ!逃がすなよ!」


「承知しました!」

 Fayrayは返事と同時に殿、マジックキャスターらしいアンデットの後部に回り込んだ。


「颯太よ!奴はマジックキャスターだ。おそらく第6尉以降の魔術を使う。マジックシールドを教えるのでその場で覚えろ!行くぞ!」

「え?マママママジですか?!りょ、了解です!!」


 Fayrayがマジックキャスターの背後に着くと同時に僕は特攻を始めた。


「自分の身体、半分位でシールドを張れ!」

「はい!」

「上出来だ! 奴の攻撃はシールドで受けるのではなく、左右後方どちらかに受け流せ!」

「はい!」

「来たぞ! ほのおだ!」


 僕は天王様に言われたように、シールドの角度を変え左後方へ流した。


 受け流した僕の身体は右前方へと大きく移動する。


「天王様!わかりました!この要領で移動や攻撃をするわけですね!」


「おのれ!ナメるな!人の子よ!!」


 怒り狂ったように絶叫するマジックキャスター。


「Fayray!奴は隠世かくりよの住人だ!何度も言うが逃がすなよ!」


「誰が貴様等から逃げるか! 第6尉のいかづちを喰らえ!」


 マジックキャスターは詠唱えいしょうを始めた。


「少し卑怯だが、今のうちに斬れ!」

「はい!」


 僕は詠唱中の無防備なマジックキャスターを斬り伏せた。



殲滅せんめつ成功だ。」

「はい…。」


「あっ!日向ちゃん!」


「主よ。背中に乗れ!」

 僕の横についたFayrayが言う。


 僕は言われるままにFayrayの背中にまたがった。

 そして先ほどの公園に猛スピードで到着した。


「良かった。」


 日向ちゃんは寝ていた。


「仕方がない。」

 僕は日向ちゃんは背負い、実家に向かった。


「天王様。ありがとうございます。僕とFayrayだけではどうにもなりませんでした。」

「これからは当分一緒だ。宜しくな。颯太。」

「こちらこそ宜しくお願い致します。」


 そして、Fayrayが僕を見ながら言う。


「主が…。独り言坊やになってしまった……。」




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