梅雨の思い出

二木なつめ

第1話 15年前の梅雨

 15年前の今日という日も、同じく肌寒く、しとしとと雨が降っていた。

大学入試には失敗し、学生生活に馴染めない上に、手術を受けることになり出端を挫かれまくって落ち込んでいた。

 卵巣膿腫で済めば話は早かったが、さらに進行して悪性腫瘍だった。若いと元気もいいので、病気の進行も早い。そこは空気を読んでいただきたいものではあるが、病魔は空気など読まない。ある日突然襲ってくる。人も選ばない。

 

 手術そのものは、なんて事もなく終わった。両親は、摘出した腫瘍を見たらしいが、子供の大きさくらいあって、ゾッとしたという。

 その後の抗がん剤が長かった。1分が1時間くらいの苦しみだ。それでも、治るというゴールがあるからこそ、耐えた。生きている事が嬉しいから、苦しみも受け入れようとしていた。生きているから、苦しい。苦しいから生きている。そう言い聞かせて耐えた。

 

 結局、2年後に再発。

 今度はもっと厳しい抗がん剤治療が待っていた。子供を産む力を失った。もう大分記憶は薄れているけれど、時々夢に出てくる。

 

 生きているってしんどい。

 

 けれど、しんどさもいつかは終わりがくる。


 本当の終わりは死ぬ時だけだ。


だから、まあ多少色々あっても、気楽にいこうと思う。

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梅雨の思い出 二木なつめ @nikinatsume

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