雨のベビーカーのお話
蒼生 都記
第1話 叶えたくない願い事
「鬼子母神さま、そんなに困った顔してどうされました?」
「この願い、叶えて良いものか迷っておる」
「でも、ここまで想いが届いたということは、とても真剣な願いなのでしょう」
「そうじゃな。わしに頼む位にな
…本人の望みなんじゃから叶えてやるか」
昨日からずっと雨が降り続いている中で、アジサイの花だけは生き生きと華やかな光を放っている。
幼稚園の前では若いお母さん達がそれぞれの子供を預けた後に、足取り軽く帰っていく。中にはまだ入園できない下の子のベビーカーを押しながら歩く者もいる。
だが最新式のベビーカーなのか、まるで宇宙脱出カプセルのようにしっかりとレインガードされていて、押している若いお母さんは余裕の片手でフリルの付いたカラフルな傘をさしている。
そんなお母さん達から少し遅れて歩く1人のお母さんがいた。若いとは言いにくい、アラフォーのお母さん。さしている傘も地味でシンプルな紺色だ。
『やっぱり年取ってからの出産は辛いわ。若いお母さん達との会話も』
アラフォー母さんの歩く前をおばあさんが、大きな傘を不自然に前に傾けて歩いていた。よく見ると、旧式の新生児用ベビーカーを押している。
『あちゃー。あれ、重くて歩きにくい奴だ。孫を押し付けられたお祖母さんかな。それにしてもこんな雨の日に散歩しなくても。よほどの急用?』
自分よりも年上が、重そうなベビーカーを押しながら前屈みに歩くその姿に同情して、思わず声をかけてしまった。
「何かお手伝いできますか? 駅までだけでも傘をさしましょうか?」
「いえ、結構です」
ピシャリと答えたおばあさん。
「ただの気晴らしですから」
「スミマセン!」
ちらりとベビーカーを覗いたアラフォー母さんは、軽くのけ反った。
ベビーカーの中には、中年のオジサンが、ケラケラと笑って寝ていた。
びっくりし、声をかけるんじゃなかった、と後悔した顔のアラフォー母さんを残して、おばあさんはてくてくと歩き去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます