動乱のメソポタミア(紀元前2017〜1792年ごろ)
エラム人の侵入によってウル第三王朝が滅んでからというもの、メソポタミアからシュメール語を話すシュメール人は消え、アムル語を話すアムル人が残った。
・偉大なるシュメールの後継者は誰か?
紀元前2017年のことである。
ウル第三王朝最後の王、イビ・シンによってイシン市に派遣されたイシュビ・エッラは、王に反旗を翻して独立を勝ち取った。経緯は前話で書いた通りだ。
イシン市に興ったイシン第一王朝はメソポタミア北部において一定の覇権を有した。エラム人の圧力を受け滅びかけているとはいえ、裏切った相手であるウル第三王朝から同盟を持ちかけられるほどに。
ウル第三王朝が滅んだ時、イシュビは果たしてどう思ったのだろう。飢饉の惨状を見て裏切って相手とは言え、文明国家として敬意を抱いていた国家が、東方の蛮族エラム人に滅ぼされたのである。
偉大なシュメール文明の後を継ぐべきはエラム人ではなく、我々であるアムル人だ——そう思ってからはわからないが、イシン第一王朝は自らをウル第三王朝の後継国家とし、治世八年目にして敵対的なアムル人を撃破。第三王朝無き後の南部メソポタミアを支配した。
エラム人との抗争も引き継がれ、メソポタミア東部では盛んに争いが起こる。イシュビの息子、二代目シュ・イリシュの時代になると戦況は有利になり、月神の神像すら取り戻し(?)た。
またエラム人の侵攻で破壊されたウル第三王朝の首都、ウルの復興にも尽力した。これにより自らこそウル第三王朝の正当な後継国家であるという威信を高めようとしたのだろう。
四代目イシュメ・ダガン、五代目リビト・イシュタルと政治改革を推し進め、減税や徳政令(借金帳消し)で社会の安定を図った。イシン第一王朝がこのままメソポタミアの天下を取ると思われた。しかし上手くいかなかったのか、いってもイシン市周辺だけなのか、徳政令なんてのが地雷だったのかはわからない。
リビト・イシュタル法典の作成も虚しく、紀元前一九百三十二年にイシン南東の都市ラルサが独立したのだ。率いたのはラルサ五代目国王、グングヌムである(五代目なのは、それより前はイシンの支配下にあった可能性があるため)。
・イシン・ラルサ時代
イシンとラルサの覇権争いが始まった。特に対立が激しかったのは古都ウル、イシンによって復興した第三王朝の都である。ウルを支配することこそ第三王朝の後継国家である証であり、王権を支える権威だった。
独立したばかりの振興国家ラルサがイシンに勝てるとは思えない。しかし五代目ラルサ王グングヌム(シュメール王名表)シュメール独立するやいなや、矢継ぎ早に策を打つ。
まずは東方の蛮族であるエラム人を共通の敵として、離反の相手であるイシンと婚姻関係を結び、同盟を結んだ。この流れは末期ウル第三王朝がイシンと同盟を締結したことにも似ている。同様にして、イシンの権勢は弱まっていたのかもしれない。
グングヌムは王となってすぐにエラム人の住むバシメ(現イラン西湾岸部)に攻撃を加え彼らの富を奪い、破壊した。新しい王の門出は勝利によって祝福されたのだ。
ラルサはその後もエラム遠征を繰り返して勝利を挙げる。エラム人はもはやラルサに対抗する術を失い、山奥へと後退した。ウルナンムはほくそ笑んだかもしれない。「次はイシンだ」と。エラム人を撃退したことで当面の敵を一つに絞れたラルサは、イシンがウル第三王朝の後継である証であるウル市への攻撃を開始した。
ウルを巡って始まったイシン=ラルサ戦争は、より首都がウル市に近かったラルサが勝利した。イシンは権威の象徴たる都市を失い、王たるリビト・イシュタルの権威すら失墜させた。ウル第三王朝を意識して法典を作成したにもかかわらずだ。
古都ウルではリビトの臣下がグングヌムの臣下に道を譲るようになってからも、ラルサの快進撃は止まらない。キッスラ(奪い返されたとはいえ)、マルグイム、ウルク、そしてメソポタミアの宗教的中心地たるニップルまでも支配権を広げた。最終的にグングヌムはシュメールとアッカドの王とまで呼ばれることとなる。
最終的にイシン・ラルサ時代を制したのはラルサ王朝のほうだった。エラム系の名を持ちながらアムル人の父を自称したクドゥル・マブグのもとでラルサ王朝は南メソポタミアの支配者となったのだ。しかしイシンとの戦争で疲弊したラルサは、思いもよらぬ同族のライバルによって打ち倒されることになる。
イシン=ラルサ時代にひっそりと栄え、ハンムラビ王によって頭角を現した新興のアムル人国家、バビロン第一王朝だ。
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