霊界との対話(通史的)

 火、歌、ダンス、言語、そして芸術。人類は豊かな自然環境の中、欲しい時に欲しいものを取るという狩猟採取生活を送りながら文化を発展させてきた。

 今や地上の支配者は紛れもなく人間である。大型動物を次々と絶滅に追いやったかもしれない。これは後に、動物側の対応が優れていたアフリカや中東近辺と、動物の対応が遅れて絶滅した新大陸やオーストリアとの『家畜格差』が生まれることとなった。



・何故? が信仰心を生み出した。


 高い知能を得た人類は、道具の改良などを通じて多くのことに疑問を感じるようになった。さまざまな出来事に対して、「何故なのか?」という疑問を持つようになる。

 そうした疑問を解消するのにうってつけだったのは、言葉によって形作られる意味の世界だ。

 霊、精霊といった概念が生み出され、霊的世界のエキスパートが他の人々区別されるようになった。

 これが『アミニズム(精霊信仰)』の始まりであり、信仰の始まりとされる。ただし宗教の始まりかどうかは諸説あるところだ。


 霊的な世界という概念は、起きたこと全てを直感的に説明することができる。人間の感情、意識は全て精霊から得たものだとしたら、そうした霊が思いのままに世界を移動できるとしたら、夢や死、病気やトランス状態(普通じゃない意識状態の一つ。入神、脱魂、法惚などとも)などは、すべて特定の霊が体を出たり入ったりすることで説明がつく。人々が夢の中で死者と会えることは、この理論の経験的な裏付けだった。


 さらに動いているその他の事物も人間と同じように霊魂を持っているのだとすれば、当然もう一つの世界も人間と同じような社会があり、実体を持たない精霊たちの生きる世界が我々の世界と並行して存在するのだろうと考えられた。

だからこそ彼らとの対話は、人間同士での個人間、集団間と同じように気配りや慎重さが必要だとされた。

 そこで超自然を扱うエリートが活躍する。彼らは霊界と人間界の仲介者として人々に重要な情報を伝えた。不安を打ち払う方法、災厄や期待はずれを防止したり和らげるために何をする必要があるのかを教えたのだ。

良い霊の力を借り、怒れる霊や悪い霊を鎮める方法を習得することは、個人の世界観が集団、ひいては世界へと拡大できることを示した。

限界はあったが、多くのことが儀式によって解決可能なものだとしたことで、人類と自然界との衝突は和らいだ。

例えば森林は自分たちを守り恵みを与えてくれる神聖なものだと考えた狩猟採取民などが生まれ、一部は今も現存している。まるで神話に登場するエルフのような人々だ。


 一つ留意してもらいたいのが、アミニズムは宗教の先駆けであると同時に、現存する一つの宗教形態だということだ。

決して文明が古く劣っている人々がアミニズムを信仰する訳ではない。

シベリアに取材旅行へ行った人が、「ここには本当に悪霊(精霊)が存在する」と書籍に残したほどである。アミニズムはその環境に生きる人にとって、最適に合理化された宗教なのだ(個人的思想につき信憑性はない)。

私たちにおいても、「何かに取り憑かれたような」といった表現をすることがある。これは遠い昔に人類が発明した知的体系、アミニズムの名残を感じさせる。特に日本の神道はアミニズムに通じるところが多いので、感覚的にあらゆるものに精霊が宿るという考えが理解しやすいのかもしれない。


・と、ここまで書いてきて難ではあるが。


アミニズムが農耕と深く結びついているのに対して、狩猟採集民は一つの人格に対する信仰という一神教が多いことが判明している。これを理由に、近年ではアミニズムを原初の宗教と見る考え方は否定された。しかしそもそもでは代案があるのかといえば……なので、宗教の起源についての議論は今後も続きそうである。

またアニミズム原初説が否定されたといえ、霊的な概念が存在したのは間違いないようだ。宗教的な指導者が集団の支配者となる時代が到来しつつあった。


 アミニズム的なのか、神を讃えたのかはわからないが、なんらかの儀式は一年のうちの特定の時期に行われる祝祭へと繋がった。祝祭では集団のすべてのメンバーが一同に会して、同じ世界観を持つ他の集団と共に歌を歌ったり、ダンスをして楽しんだ。

こうした交流の中で、他の集団に属する相手との婚姻が始まり、後の政略結婚へと繋がることになる。

そして集団(部族)間での遺伝子交流は世界各地で行われ、人類の遺伝子をなおも単一の種でいさせることに一役買った。

ホモ・サピエンス以降新たな人類が生まれていない理由には、こういったことも多分に含まれているに違いない


 この後、世界史は新石器時代に突入していく。人類は農作物を育てるようになり、進化に手を加え、作物や家畜を都合の良いものへと変えていくのだ。




 さて、旧石器時代までの物語は如何だっただろうか? ネズミは猿に、猿はヒトに、そしてヒトは人となった。

 次回からは新石器時代を得て、いよいよ古代文明が興る。世界各地に十数〜数十の文明が興る中で、その後の世界に格別の影響を与えた文明は『古代オリエント文明』だった——。




(あとがき的な何か、本編とは一切関係ありません)


次章の題は、「文明の黎明期」です。ようやっと世界史らしくなるので、筆者の方も気合を入れ直して書いていきたいと思います。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

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