第21話・はたらく聖女さま その1
「今日のはとびきりきつかったなー…」
「同感…アコの手際だけは最高によかったけどね」
「お褒めに預かり恐縮ですわ、おほほ…」
「………(コツン)」
「あいたっ」
…冗談じゃないですか。本気でそんなこと思うほど増長してませんて。
わたしの頭を小突いたゴゥリンさんを、ちょっぴり恨めしげに見上げるのでした。
でも今日のところは我ながら上手いこといったとは思います。
予言で指定されたのが日帰りで行って帰ってこられる場所だったため、朝早くに街を出て、お昼を済ませてしばらくした頃に、穴に遭遇したのです。
ただいつもと違ったのは、穴が一つではなく二つだったところ。それ自体は珍しいことではあるそうですが過去の事例がないわけでもなく、わたしのやり方の無い頃は力任せも二つの穴の魔獣が入り乱れてとんでもないことになっていたそうで。
じゃあわたしが針を刺す今なら大丈夫なのか、というとそんなことも全くなく、こまかいことは省きますけど、最終的に時間差でなんとか二枚、縫い上げることが出来たのでした。
アプロたちがひろーこんぱいしているのは、その「時間差」にうまく魔獣たちを追い込むのに四苦八苦してたからでして。
まあわたしにしても、今回は人間の身長よりも長い縫い仕事が二枚、ということもあって、少し焦りはしました。前回から使っているまち針が無ければ、また途中で失敗してたんじゃないですかね。
うん、わたし、役に立ててます。お役に立つ女、神梛吾子を今後ともよろしく…なんて言ってると死亡フラグとかいうのが立って、次回あたりで調子こいて致命的なミスをやらかすというのがお約束でしょうし。今後とも是非気を引き締めていきましょう。
「…で、どーする?荷物置いたら酒場にでも行くか?」
「そうですね…たまーには打ち上げみたいなことするのもいいかもですね。でもお酒はダメですからね、アプロは」
「まーたアコはそーゆーこと言うー…じゃあたまにはアコが呑めばどうだろう?」
「どうだろう、じゃないですよ。あなたわたしを酔わせて何する気ですか」
一度、禁止してるにも関わらずアプロがお酒もってきたことがあったんですよねー…もちろんわたしは取り上げてしまったのですけど、もったいないからアコが呑め、とアプロがしつこく勧めるものですから、仕方なーく呑んだんです。
…気がついたらベッドに横たわったわたしの上にアプロがのしかかり、わたしの顔に自分の顔を寄せようとしてました。冷たい目と声で「なにやってるんですか」って言ったらバツの悪そうな顔して引き下がりましたけど。
まーそういうわけなので、アプロの前ではお酒呑まないようにしようと、固く誓ったのでした。
ちなみにわたし、日本にいた頃お酒は多少たしなみ…というか、お父さんに「教育だから」と呑まされたことがありまして。
なんの教育なのやら、と聞いたら「女の子が大学に入って初めて呑むのは危ない。実家にいるうちに、自分がアルコール摂取したらどうなるか体で覚えておけ」だそーで。
なので、あんまり強くないのは分かってたんですよね。まさかアプロにいたずらされそうになるほど弱いとは思ってませんでしたが。
それはさておき。
「それじゃあつまんない。帰って寝よう」
「普通に皆で食事をしにいく、とかではダメなんですか。いちいち言うことが極端なんですよ、アプロは」
「でももうゴゥリンもいないしさー」
「え?」
言われて気がつきました。街の門をくぐった時には確かに一緒だったのですけど、いつものように一人静かにしてると思ったら、姿が見えません。
「…何か気に障ったんでしょうかね?」
「ゴゥリンはあまり人の多いところに行きたがらないからね。気にしなくてもいいよ、アコ」
「…そうですか」
マイネルがそう取りなすように言ってくれるのはいいんですが、いくらなんでもゴゥリンさんのこと知らなすぎじゃないか、って思ったもので。
「ゴゥリンさんてこの街のどこに住んでいるんですか?」
「ん?あー、石関係のギルドに居候してるとかって言ってたな。励精石の取り引きで繋がりがあるんだろ」
「僕は一度行ったことあるけどね。意外にいい生活してたし、心配することないんじゃないかな」
ふむ。興味が沸いてきました。お邪魔でなければ今度遊びにいってみてもいいかもですね。アプロ誘って視察とかいう名目なら、袖の下狙ってお小遣い稼ぎとか。
「アコ…冗談でもそんなことしたら怒るからな」
「アプロの前でやったら冗談にならないでしょーが。しませんよ、そんな真似」
「ならいいけど」
一瞬、ものすごーい怒った気配がしたので、慌てたように見えないように慌てて誤魔化すわたしでした、って何言ってんでしょうね。
「ははは。まあでも、僕も今日は遠慮するよ。マリスに呼ばれてるからね」
「あら、お惚気ですか。安くないですねー」
「あのね、アコ…」
「それいいな。私も最近そっちに顔出してなかったからついていこうかな」
「決まりですね。あ、どうせなら何か差し入れでも買っていきましょう」
「あ、ちょっ……おーい…」
日帰りなので大して荷物もありませんし、わたしとアプロは当事者そっちのけで、教会に足を向けることにしました。
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