ノーモアロンリネス
リコリコ
必然か運命か
第1話 その出会いは奇跡
純血竜神という種族は美しく強い種族と聞いている。
海より広い心を持った森林のように穏やかな方。
たくさんの知識を備え、何者にも慈悲の心を持って接する方。
組織の長として常に冷静に指示を出し、末端までいたわることのできる方。
すべてを愛し、慈しむことのできる海のような方。
そして、ダンジョンには赤毛の純血竜神が潜り込んでいるのだと。
雪のような素肌に炎のような赤毛。紅玉のような瞳を持つ、気まぐれで我儘で傲慢な純血竜神。
彼ないし彼女を知る人物はあまり少なく、メディアにあまり出てこない。
純血竜神はこのロントート帝国の王族で、その一人が帝王陛下なのだ。
それを取り囲む極々一部の者以外は混血竜神と呼ばれる上流貴族のみ。そのため、メディアに出たがらない赤毛の純血竜神の話は、傲慢で我儘というものしか伝わって居なかった。
幼い日、一度だけあったことのある赤毛の美しい人がそのはずだ。
おぼろげに覚えている、『生まれたのか。おめでとう。』という言葉を。
・・
「おや、目が覚めたかい?」
パチパチと音を立てる焚き火の明かりに照らされた。半竜人と思しき赤毛で陶器のように白い肌をした幼い12歳ほどの子供が一糸纏わない姿で私を覗き込んでいた。
大事な部分は鱗で完全に覆われている為か、恥じらいもなく全裸状態の彼女?は無害そうに笑う。
「いやーびっくりしたよ。君がいきなり滝の上から流れてきたからね。で、スリリングな滝流れはどうだったかい?この私が受け止めなければ君は今頃召されていたね。確実に。あぁ、動かないほうがいいよ。頭を打っていたら大変だからね。」
おしゃべり好きなのか、相槌を打たせない速度で喋り通した少女は無害そうな笑顔のわりに純粋に人の不幸を愉しんでいるようなだ。
「私はカティナ。」
「私は、うつはと言います。ロントート中央ギルドに所属する冒険者です。派閥は『赤き皇太子』です。助けてくださってありがとございます。なにか、お礼できることは……」
ロントート中央ギルドはロントート王都にある一番大きなギルドだ。
育った孤児院を助けるために私は上京してきて冒険者となった。
『できるだけ人の少ない派閥をお願いします。』と行ったときに紹介されたメンバー一人の派閥。
ギルドとは冒険者が身を置かなければならない組織で、この国に多数存在する。その中でも最も大きなギルドで、派閥というのはその大きなギルドの中で、明確に誰が誰と管理するための制度となる。
私の所属する『赤き皇太子』は何かと敬遠されて居るらしく、ダンジョン出会った、同ギルドの先輩に追われてここに落ちてしまったらしい。
「当然のことをしたまでさ。君のことはカティルから聞いてたからね。まぁ、探す手間ってのも省けたしぃ。」
「え?」
カティルとは、私の所属するギルド長の名前だ。
聞いていた?何を聞いていたのだろうか?
「君がこの私の新しいメンバーだとは。危なかった。まぁ、この私の日頃の行いが良いからだなぁ。助けられたのは。」
「えっ?」
「ギルド長をしてるカティルとは双子でねぇ。何分ダンジョンに潜りっぱなしだから、メンバーがなっかなか増えなくて。一人いた私の眷属ちゃんは、事務作業に行っちゃって、派閥自体を脱退しちゃったもんだからよろしく頼むよ小鳥ちゃん。」
安心してよ、脱退理由は結婚したからなんだ。と、付け足してニヒヒとカティナちゃんは笑う。
「とりあえず君も起きたことだし、荷物を取ってくるから、大人しくここに居なね。」
そう言っててちてちとどこかに向かってしまう。歩き方は孤児院の弟や妹たちにそっくりだが、どこか堂々としている。
ここは多分、滝の高さから中層と呼ばれる深さだろう。このダンジョンは上から下に下がるほど出てくるモンスターとドロップ品等のレベルが上がる。基本的に人間や獣人以外の亜人と呼ばれる種族はパーティと呼ばれる小隊を組んで潜ってくる域だ。ソロだと手練の獣人か神霊類ぐらいだろう。
ギルド長はあの純血竜神だ。ならば彼女はメディアに出てこない赤毛の竜神と言う事になる。
彼女、めちゃくちゃ強い。確信を持ってそう言える。
「てか、枕は何なの?すごく痛い。」
服も髪も乾かしてくれたのだろう。濡れていないがやけに頭が痛い。
少し湿っていて………
「そうだ!アイテムは?アレがないと何にもできない!」
起き上がって周囲を見渡したがバックが無い。
武器としていた短刀はすぐ手元に置かれていたが、バックが無い。あんなにいっぱいにしたのに………
「嘘でしょ?そんな……あっ!」
いや、今見つけた。私の枕がカバンだ。
慌てて持ち上げると勢いよく水晶が転がり落ちてきた。
むりやりこの水晶をカバンで包んで即席の枕にしたのだろう。
そして私のお腹に申し訳程度掛けられたのはゴブリンと呼ばれる魔物のドロップ品。腰布。
スライムの下位種族、ジェリーのドロップ品ジェル。ダンジョンコウモリのドロップ品の皮翼、蜘蛛の糸、鉄鉱石などすべてなくなっている。
「うぅ、生臭い。」
ゴブリンの腰布は凄く臭っている。
ゴブリンの血を洗い落とす前に固まってしまったのか、硫黄のような臭いがほのかに香る。気がついたからこそ臭いのかもしれない。
「おえ"っ!ゔっ!やっぱ、やっぱ臭い。」
緑色のワンピースに見を包んだカティナちゃんが大きな荷物を持って戻ってきた。
「人に掛けておいて、そんな。」
「お腹は大切だから。お兄ちゃんもそう言ってた。でももうそれは使い物にならない。臭いもん。」
教育の行き届きの幅が凄いことになってる。お腹は冷やしちゃいけないけど、モロ局部に当たっていた腰布(生臭い)を人の腹に掛けていいとは。
「そう、ですよね。」
「その水晶はすごいね。ほとんどのドロップ品が藻屑となって行くのを見ていたけど、それだけは君、離さなかったし。加工したらいい武器になるし。換金すればアイセイ孤児院にも莫大な金を持ち帰ることができるしね。」
なんと?
今、なんと?
ドロップ品が藻屑となって行くのを見ていたけど?
「い、今なんて?」
「え?お金が一杯だよ?」
「そうじゃなくてっ!ドロップ品が?ドロップ品が、どうなったと?」
「藻屑と消えたね。」
「」
あんなに頑張って、あんなに頑張って、集めたドロップ品が藻屑となって消えた?
そんな、初ドロは皆に自慢したかったのにっ!
「うーん、エライ!孤児院出身が初ダンジョンで死亡する確率は6割。4割引けたのエライ!それにでっかい水晶手に入れた!えらい!」
「は、励ましになってないよ。」
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