第7話 チン

 タマ子は5歳になっていた。

 今日は少し離れた公設市場に母親佐和子とタマ子が買い物にやって来た。

 まだスーパーというものは無く、肉は肉屋さん、野菜は八百屋さん、果物は果物屋さんなどなど一店舗ずつ買い物カゴを下げ廻る。


 買い物が全部終わった時に佐和子が犬を見つけた。首輪もなく飼い主も見当たらない。


「タマ子犬について行き!」


 タマ子は素直について行く。


「これチンや!たっかいやつやで」


 犬の後を2人でついて行きやがて公設市場を抜けた。


「タマ子今や!捕まえて走るんや!」


 タマ子はわけも分からず犬を抱きかかえ一目散に走る。タマ子は足が速かった。その後を佐和子もゼーゼーいいながら追った。


「タマ子、もうええわ。ここまで来たら大丈夫やろー」


 そのチンは家に連れて帰り飼うようだ。


 その夜、チンの飼い主が家にやって来た。


「あ~マリちゃん!良かった」


 飼い主は安堵の表情を浮かべた。


「すいませんね~うちのタマ子が勝手に連れて帰って来てもうて~タマ子謝り!」


「ごめんなさい…」


 タマ子は訳が分からず謝った。


「まだ小さいもん。分からんよね~」


 飼い主はタマ子を見てそう言った。


「そやけど首輪くらい付けといた方がいいですよ」


 佐和子は腹いせか、飼い主にそう告げ飼い主達は帰って行った。


「ちっ…なんでバレたんや!なんか腹立つわ」


 佐和子は大きな独り言を言った。

 大人は分からないとタマ子は感じたのであった…。


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