第4話 マリッジブルー


 春人の仕事が忙しくなった。帰りも10時を過ぎることが多く、私の方が先に夕食を済ませた。


 春人は帰るなりシャワーを浴び、食事を済ませるといつも缶ビールを2,3缶開けそのままソファーで寝てしまうことが多くなった。


 「あのう式のことなんだけど・・・」私から相談を持ちかける。


 「うん、今日は疲れているから日曜日な」春人は本当に疲れているようだった。


 日曜日は日曜日であって春人はなかなか起きてくれない。昼過ぎに目を覚ますと、そのままサッカーの試合をテレビで見ている。そして缶ビールを開けると夕方まで寝てしまう。


 やっと話ができるのは日曜日の夜だ。


 「式のことなんだけど、年内ならそろそろ式場選びとか大変だと思うの」


 「ああそうだね、花音はどんな式を挙げたいの?」


 「お金のこともあるし、山形ですることもできないから、こっちで身内だけのささやかな式にしたいと思っているんだけど・・・」私はわざわざ山形から友人を招待することもはばかられ、親戚だけでも来てくれればそれでいいと思ってそう答えた。


 「うん、ああ、いいよ。それで進めよう。貯金はいくらあるんだっけ?」


 「200万くらいかな、これでも結構切り詰めた結果なんだけど」


 「花音さあ、俺、夢があって新築戸建てがほしいのよ」春人は言った。


 「まあ、素敵、でも遠い金額ね」私はそう答えた。


 「そこで提案なんだが、資金が貯まるまでオヤジのいる実家で暮らさないか」


「え?結婚したら?」私は動揺した。


「いや、もう早い方がいいと思って。オヤジも戸建で1人寂しがってるし、ここの家賃も10万って馬鹿にならないだろ? 夢のマイホームは2世帯住宅にするからさ、それまで我慢して貯金しないかい?」春人は矢継ぎ早にこの先のことを語った。


 「私はてっきり春人と2人でマイホームって考えたけど」私の動揺は隠せない。


 「オヤジもああ見えて結構貯金してる。500万は出すんじゃないかな。この際だから式を挙げて籍を入れたら夢のマイホーム建てようじゃないの」春人は言った。


 「お義父さん、嫌がらないかしら?」私はやんわり嫌がったつもりだ。


 「孫だよ、孫。2世帯ならしょっちゅう孫の顔が見えるしさ、きっとオヤジも受け入れてくれると思うんだ」春人の計画はいつも自己中心的だ。


 「うーん、考えておく」私は「孫」という言葉に動揺した。


「そうか赤ちゃんもできるかもねー」私の心は複雑だった。


(ついに孫? 結婚、マイホーム、赤ちゃん・・・)私は春人のあまりにも早い人生計画に圧倒されてしまった。


 「だから貯金のためにも式は簡単に済ませよう、来月には実家に引っ越さないか?」


 「う、うん。でももうちょっと考えた方が・・・」私はまだ動揺している。


 「まあいいよ、オヤジには俺から話をつけておく、大丈夫だって、こういうのってこんな機会がないと進まない話だよ、花音は俺についてきてくれればいいんだ」春人は言った

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