禁断の愛の果て

青鷺たくや

第1話 2045年4月




 桜も葉桜になり始めた4月の日曜日。


「そんなにメイクしなくてもいいんじゃないの?もう1時間も待ってるんだけど。」

そう言うと春人はるとはその手で私の映る鏡の前で私のポニーテールを揺らした。



「そうじゃないの、気持ちの問題。少しでも淑女に見せたいのは女心ってもんでしょ。春人はいいわよね。無事にあたしの両親に気に入られて。『花音かのんをよろしくたのむ』なんて言われちゃってさ、あんなしおらしいパパ見たこともなかったわ」



そう今日は私が彼の義父(お義母さまとは離婚していた)のところへ結婚するご挨拶に伺う大切な日。



派手にならないか、服装はどうするか、前の週からずっと悩んでいても結局今日に至っても勝負服は決まらない。



「花音、もう1時だよ。大丈夫だって。オヤジは俺の選んだ女なんだからきっと喜んで歓迎するよ。それに見た目じゃないし。」そういって春斗は自分の髪の毛をぐちゃぐちゃとかき混ぜてイライラを私に見せつける。



「待って。わかった。あと10分!」私はいらつく春人に言い聞かせるように言った。




     *




私が春人と出会ったのはちょうど2年前の桜の咲く頃。22歳の時だ。不動産の事務をしている私の会社のお花見パーティーの時だった。


偶然となりのパーティーが知り合いの施工業者さんだった。お酒の宴ともあって一緒に合流することになってそこで春人と出会った。


「よかったら隣いいですか? お話がしたいんです」たしかそんな風に声をかけられた。


春人は背が高く、少しカールがかった髪の毛、顔はシュッとした鼻立ちに透き通った目、そして知的な感じのメガネが似合う好青年。マンションなどの修繕業者の職人さんとは思えない感じの人だった。


私はドキッとして何を話したか覚えていないくらい緊張したが、春人とのおしゃべりが楽しかった。



「これ花音さんの手作り? すごーい料理上手なんですね」そう、お花見の食事は私が担当して鶏の唐揚げだの、卵焼きだの、巻きずしだのを作ったっけ。



そんなに見事ではないけれど春人はすんごく私の料理を褒めてくれたしいっぱい食べてくれた。



「花音さん、もしよかったら今度は僕がご馳走させてください、恵比寿にいいイタリアン料理の店があるんです」



 彼氏がいるのか、結婚していないのか、そんなことも訊かずに春人は私を次のデートに誘った。(強引な人・・・でもなぜか惹かれる・・・)




気がつけば夜の帳のなか、彼は私の膝の上を枕にして酔っ払ったようで寝てしまった。



会社のみんなはこれで公認のカップル誕生だと、宴会は盛り上がっていた。



 それから食事を重ねて私たちは付き合い始めた。


私は山形からの上京娘なので1人暮らし。春人は実家で父親と暮らしていた。。さっきも書いたが母親は春人が18歳の時に離婚して出て行ってしまったとのことだった。

 


 「もしよかったら俺、花音と一緒に暮らせないかなあ、もちろん結婚前提でさあ」

そう提案してきたのは春人の方からだった。


 「本気で考えているんでしょうね」私は問いただした。


 「もちろんだよ、俺もあと数年で親方になれる、そうしたら結婚も考えるよ」


 「じゃあこの際、私も引っ越してもう少し広いところに引っ越そうかな」


 こうして私たちは同棲を始めた。田舎の両親には内緒にしていたが。


    



     *




 2045年4月。春人と私は順調に愛をはぐくんできたと思う。春人が職場でリーダー的な地位になったのを契機に彼からの告白があった。。


 「僕と結婚してください。生涯僕の傍にいてほしいんだ」

 

 私は涙ながらに「はい・・・」と答えた。言われるままに左手を差し伸べると指輪がはめられていた。人生最高のイベントに私の胸は幸せでいっぱいだった。



 私の故郷、山形にも挨拶に来てくれた。「娘さんと結婚させてください」正々堂々たる口上だった。父も母も喜んで涙を流してくれた。もっともこの時も宴会の末、彼は私の膝の上で酒に酔って寝てしまうのだったが。



 そして今日は私からのあいさつの番・・・。

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