深淵:昏睡

ゆめまつげ

ファサ。

「はぁ…下まつげ伸びたなぁ…あっ!」

あの人が目の前を通り過ぎる。


ファサ。

「また伸びた…。」

あの人を見るたびに胸がきゅっとなって、下まつげがファサと伸びる。


ファサ。

どんどん伸びる。

どんどん伸びて、ある日、あの人に届いた。

あの人は右から四番目の下まつげをやさしく握り、こう言う。

「僕もなんだ。」


ファサ。

見る間にあの人の上まつげが伸びる。

どんどん伸びる。

どんどん伸びて、ファサ、私に届いた。

私は左から三番目の上まつげをやさしく握り、こう言う。

「二人で一つの眼になりましょう。」


私は目頭あなたは目じり。

私は結膜あなたは網膜。

私は黒目であなたは白目。

そして始まる二人の虹彩。


あなたは言う。

「僕らは一つの瞳だね。」

私は言う。

「そうね。さあ、世界を見渡しましょう。」


あなたは言う。

「ここじゃあ視点が低いなあ。」

私は言う。

「そうね。じゃあ宇宙に行きましょう。」


ファサ。

あなたと私は地にまつげを突き立て、お互いを想う。


ファサ。

あなたは120本。


ファサ。

私は40本。


ファサ。

高度四千フィート。


地球をしり目に瞬きをする。

「これ以上はドライアイになっちゃうよ。」

「そうね。瞼がほしいわん。」

あなたは上瞼、私は下瞼、可動するのは主にあなた。


地球を傍目にウインクをする。

「地球は乾かないのかな。」

「そうね。地球にも瞼をつけてあげましょう。」

あなたは北半球、私は南半球、稼働するのはどの部分?


「目じりってどこだ?」

「目頭はどこかしら?」

赤道に沿って瞼を合わせたら、くるりと一周。

あなたと私は目と目を合わせて、くるりと目を回す。

「大きな瞼には大きなまつげを。」

「そうね。私たちのを分けてあげましょう。」


ファサ

「君を想うよ」


ファサ

「あなたを想うわ」


ファサ、ファサ、ファサ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る