淀みし眠りの沈降

八咫鑑

上層:就寝

眠りにつくとき、私は思う。



眠れない


一切寝付けない。体調が悪いわけではない。何か変わったことをしたわけでもない。


ドン ドン ドン ドン


いつものように仕事をし、布団にもぐる。


ドン ドン ドン ドン


仕事と布団を行き来する日々。なんの乱れも障害も存在しない。


ドン ドン ドン ドン


布団に横たわって目をつむる。しかし意識が途切れることはない。

7時間近くもの間、そうやってベッドに横たわり思索にふけるしかない。


睡眠薬や呼吸法、音楽に温性の料理、試せるものはすべて試した。

しかし、この意識が途切れることはない。


ひとつ眠りについて考えてみよう。


眠りとは何か。私は経験したことがない。噂によれば、

意識レベルや心拍、体温が下がり、身体的・意識的な能力がゼロに近くなる状態。


ゼロに近い身体・意識の可動域は、

具体的にどれくらいからどれくらいを指すのだろう。

いつから眠りは始まるのだろう。


わからない。


眠りに落ちる瞬間、それをどう知覚すればよいのだろう。


わからない。


眠りに落ちる瞬間、何が起きているのだろう。


わからない。


眠りに落ちる瞬間、何かが必要なのではないだろうか。


何かが私を眠りに突き落とす。

私にも“何か”が必要なんじゃ…


あぁ、もうこんな時間なのか。

私は布団を出て仕事に向かう。


果てしなく、どこまでも続く海に面した崖で、

終わりなく、どこまでも長い行列が私を待つ。


海はどこまでも深い色を湛え、

人々はみな一様に覇気がない。


ドン ドン ドン ドン


私は歩く。彼らを突き落としながら。


ドン ドン ドン ドン


彼らは落ちる。崖から海へ。


ドン ドン ドン ドン


海へ落ちる彼らが、なぜだか羨ましい。


ドン ドン…


私も背中を押されてみたい。

押されて崖から飛び出したい。


だから私を突き落としてほしい。

あの海へ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る