私のお兄ちゃんは完璧すぎる

朱雀 蓮

Prologue-まもるものができた日

時代は現代から近未来へと進化する手前


某国、戦場のど真ん中、幼い東洋人らしい少年は立っていた。

周りは焼け野原、もとい戦場跡地、数時間前までここでは小規模の戦争が起きていた。

数時間前までここでは銃声と悲鳴と雄たけび、爆撃音その4つの音しか聞こえなかった。

少年は戦争を終わらせるトリガーとして雇われ、送り出された。

簡単に言えば敵の大将の暗殺。

それが戦争の終わらせ方の一番手っ取り早い方法だった。

少年は云わば殺しのプロだった。

常人離れした戦闘能力と精神力、彼一人で武装した100人の兵士に値するレベルだった。


そしてほんの数時間前、少年は敵陣の本丸の施設に難なく侵入し、戦争中だというのに自室で女性とお楽しみだった敵軍の大将と数名の女性の首をもろとも吹っ飛ばした。

施設を出る際にも兵士たちに同じような対処をしてまるで当然のように出た。

よくスパイ映画で『だ、誰だ貴様!?』『侵入者だ!』などというセリフがあるが、現実でも大体そんな感じで言葉を発する、少年はその言葉を聞く前に出会った瞬間、声も上げさせぬまま腰に付けたナイフで首を斬りとる。まるで稲刈りの様に。

そのまま正面から敵陣を出て戦闘中の場に敵大将の首を見えやすい高い位置に飾り付ける。

それが任務だった。


そして、任務が終わり少年は歩いていた。目的も無く歩いていた。

その少年は戦場で血に濡れていた。右を見ても死体左を見ても死体、先程この少年の持つナイフによって命を奪われてしまった。

自分に降りかかる火の粉を払いのけるように立ち塞がる者を容赦なく殺した。

少年は血に塗れた手を見る。その虚ろな目は何も感じることもなかった。

通常の人間なら精神崩壊を起こしてもおかしくない血の量と死だったが少年は何も感じない。

何も感じず、何も考えず、ひたすらに何もない先へとのらりくらりと歩を進めた。

ザッザッという足音にピチャリピチャリと血の音が交じる、まるで雨の日の地面の様に。


少年はしばらく歩くと微かな音が聞こえてきた。死にかけの男たちの低いうめき声の中、高い声が聞こえた。

それはピンク色のタオルに巻かれていた。薄い息、消えかけの命、小さな命、それは、ひとりの赤ん坊だった。

少年は物珍しそうに赤ん坊のもとによると血に塗れた手で赤ん坊を抱き抱えた。

少年は試しに所持していた水とバナナと乾パン、そして愛用している栄養補給用の粉ミルクをぐちゃぐちゃに混ぜ簡易離乳食を作り、震えている口にいれた。

少年は自分が何をしているかも解らなっかった。

しばらくすると赤ん坊の呼吸は落ち着き弱々しかった心音もトクントクンと聞こえた。赤ん坊は少年の手をぎゅっと握った。


 「あったかい・・・」


柔らかくその小さい手から感じる暖かさは血よりも、また少年の体温よりも何十倍も暖かく感じた。

その瞬間、少年胸に初めての感覚が走った。

スッーと、少年の頰に涙が流れた。

感情という概念を捨て去って早数年・・・それから初めて流した涙に少年の虚ろな目に微かな光が灯った。


 「そうか・・・これが命か・・・・。」


今まで奪うだけの人生だった。生きるために他者を殺すのが当たり前の人生だった。だが、初めて人を助けた、自分の意思で。命の暖かさを知った、赤ん坊に教えられた。少年は赤ん坊を抱きしめて再び歩き始めた。


一歩一歩、歩くごとに赤ん坊と自分の心音を感じる。


 耳障りだった血の音や呻き声が小鳥のさえずりの様に感じる位自分とその赤ん坊の心音は少年の耳を支配していた。

そして少年はこの時誓った。


〜俺の命は・・・この子の為だけに使う〜


と。

 そして少年はただひたすらまっすぐ戦場を歩いた。

 赤ん坊の笑い声を聞き少年の心の氷は溶けていったのだった。

 そして少年の運命はこの出会いで変わったのだった。

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