鷹の目空賊団

石動なつめ

鷹の目空賊団

プロローグ


 今よりもずっと昔のことです。

 この世界には、とても偉大な魔法使いが住んでいました。 

 魔法使いの魔法の手は、奇跡のような力を持った、魔法の道具をたくさん作り出しました。

 望んだ願いすら叶うと言われたそれはまさに、夢を現実にしたかのようなものでした。


 ですが、そんな魔法使いの道具をめぐり、様々な人間が魔法使いの元へと訪れるようになりました。その中には魔法の道具を奪おうとする者も含まれています。 

 やがて魔法使いの道具をめぐって争いが起こるようになりました。


「ああ、どうして。こんなために作ったのではないのに」


 魔法使いは悲しくなって、自分が作った魔法の道具をどこかへと隠してしまいます。

 そしてその道具を隠すと同時に、誰の手にも奪われないようにと秘密の鍵をかけました。

 魔法使いが隠した魔法の道具。

 人々はそれを、七つ海の奇跡――――ロマンシングメロディ呼ぶようになりました。



―――――『××××・×××××』著 絵本・そらのえいゆうより抜粋――――――





 濃いブルーに染まった海上を一つの影が映った。

 空を統べるように飛ぶのは、銀色の鳥のような機械。あれはグライダーと呼ばれる小型の飛行機械だ。

 ゴンドラのような胴体と、その側面から伸びる鳥の翼に似た両翼。翼の上に畳まれて留められた白い布のようなものは、動力を用いず風の流れだけで飛ぶための、グライダーの第二の翼であった。

 グライダーは雲一つない青空を、風を切って飛んでいる。太陽の光に照らされた銀色の機体はキラキラと輝いていた。

 輝く鳥と、誰かが称した事がある。それほどにグライダーは美しかった。


 不意に、グライダーの前方から、一陣の強い突風が吹いた。風にあおられ、グライダーは大きく揺れる。

 すると頭がずず、と海の方に傾いた。そしてそのまま重力に逆らえず、斜めから垂直に機体が傾く。

 縦になったグライダーは、ぐんぐんと速度を速め、落下していく。

 立て直す事もできずただただ真っ直ぐ落ちて行き、やがて――――高い水しぶきを上げて海へと墜落した。


 落下場所からは行く得物波紋が現れては水面を揺らす。

 そしてその波紋が収まりかけた頃、グライダーはゆっくりと海面に浮かんできた。それと一緒に、グライダーの操縦者である人物も浮上する。


「ふう……」


 大きく息を吸って吐くと、操縦者はゴーグルを外した。

 少女だ。

 歳は十五、六くらいだろう。肩ほどの長さの薄茶の髪が、濡れて顔に張り付いていた。

 少女はその深い海のエメラルドをした目を瞬くと、グライダーの周りをゆっくりと泳ぐ。

 そして元いた場所の反対側で泳ぎを止めた。


「……あー……」


 少女は低く息を吐いた。

 彼女が見ているのはグライダーの左翼部分だ。そこには落下時の衝撃で出来たであろう大きな亀裂が入っていた。

 少女はグライダーをなでると、


「……飛んでくれてありがとう。ちゃんと直すからね」


 とお礼を言った。慈しむような眼差しと、手の動き。

 少女がこのグライダーを大事にしているという事は感じられる。


 ふとその時、その亀裂の入った左翼の端に、きらりと光る何かが見えた。


「うん?」


 少女は不思議そうに呟いて目を凝らす。

 きらり。

 また光った。

 何だろうかと少女はグローブを取ってから、その部分に手を伸ばす。

 すると少女の細い指先に、何やらチェーンのようなもが触れた。


 何あだろうと思いながら、少女はそのチェーンを慎重に外して引き寄せる。

 それはペンダントだった。ペンダントトップには、青い石が中央にはめ込まれたコインがついていた。

 綺麗。

 そう思って、少女はそれを頭上に翳す。

 その青は、空の青と海の青を合わせたような色だった。

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