第141話 「140話」

地面が、敵がいっぱいすぎて黒く染まってる。

それは遠目で見るとまるで小さな虫か何かが大量に這いよる様に見え、背筋に悪寒が走る。


「うわぁぁぁぁぁ」


あの数はやばい!

前回の指導者のときはここまでは……あ、いや前回は上から眺めて訳じゃないから……いや、そんなの関係ないわ、多い!



「や、やばい。あれやばい……こ、攻撃しなきゃ! タマさんっ?」


目視できる範囲だけでも万とかそういう単位で敵が見える。

ここまでくるともう銀に任せてとか言っている場合じゃないっ。


隣にいたタマさんをゆさゆさとゆすり参戦を促すが、こっそりお腹をさすったのがばれて手を噛まれる。

タマさんっ、今はそんなことしている場合ではないのですよっ。 悪いの俺だけどな!!



「いっぱいきたニャー」


「呑気だね!?」


何その、のほほーんとした反応。

タマさん呑気すぎませんかっ!?


「少しでも減らさないと……ん? あ、毒か。 むっちゃ効いてるじゃん!」


俺一人じゃたかが知れているけど、どうにか数を減らさないと……そう思って、敵のほうを見ると土煙とはまた違った煙が……俺の毒が舞っている。

じわじわと森から染み出すように出てきていた敵がその煙のところで止まっていた。


……思ってたより強力な毒だった!




強力なのは良いことだ。

でも、それでもモンスターの群れは徐々に徐々に街を守る壁へと近づいてくる。


敵の中には毒が効きにくい、それかまったく効かない連中もいるようだ。

じわじわと確実に仲間の死骸を乗り越え進んでいく。



数時間後、最初は色が混ざり黒く見えていた群れが、色が判別できるようになるまで近くに近づいていた。


「そろそろ魔法の射程に入るニャ」


タマさんの言葉を聞いて、周りを見渡せばバリスタを担当していないもの……魔法がつかえるものが壁際に寄るとそれぞれの獲物を構えていた。



「街から1km地点に来ました。 銀の魔法を使える方は魔法の使用をお願いします」


そしてリタさんの合図と共に、一斉に魔法が放たれる。


事前にどの属性を使うかは決めてあったのだろう。

魔法はやがて一つにまとまり巨大な火球となり、モンスターの群れへと飛び込んでいった。


「おぉっ!?」


着弾と同時に地面にさらに巨大な火球が生まれる。

火球は群れの一角を飲み込み、跡形もなく消し飛ばしていた。


「すっげえ威力! 見事にぶっ飛んでる」


これならいける!


……なんて思ったら、後ろから敵がどんどん前進し空いた穴をすぐ埋めてしまう。


しかも、何やらモンスターの群れのあちこちで、ピカピカと何かが光だした。



「へ?」


なんだあれ?

まるでさっき撃った魔法みたいー……なんて考えたのがいけなかった!?


まさか敵も魔法使うんかい!?

さっきこちらが放った魔法と遜色ない……いや、数が違う!もっと大量に魔法が放たれてる!?



「おおぉぉぉぉぉっやっばあああいっ!?」


バチバチと雷を纏い、黒煙をまき散らしながら巨大な火球が壁に向かって一直線に向かってくる!


いや、さすがにあれくらったらやばくね!?

あれ絶対燃えちゃう!燃えちゃううぅう!?



くそっ、死ぬ前にタマさんをもふって……と思ったら、火球がこちらに近づくにつれ、チリチリと散り、規模が小さくなっていく。

そして壁にあたる寸前に何か光の障壁のようなものに阻まれ、霧散した。


お、おぉお……?

何かで防御してる? なん減衰してたっぽいけどそれでもかなり巨大な魔法だった。

あれを防ぐとか相当だぞ。


世界樹のー……ではない気がする。

あのチリチリ散ってたのが世界樹の力なんじゃないかな、となるとあの障壁はダンジョンシーカーが用意したか、それとも街にあらかじめ掛かっていたとか? 


うむ、よー分からん。

でも守れたから良し!


なるほどなるほど、こんな障壁あるならわりとなんとかなりそうだね。

いやー、もうこんなのあるならあるって言ってよね! まじでびっくりしたじゃん!




「まだこっちの防壁の方が強いニャ。 でもその内突破してくるニャ」


「え゛!? と、突破されたらどうするの……?」


突破されるんかいっ!

あれ、突破されたらどうなるの……?


「避けるか自力で防ぐニャ」


「えぇ……」


まじかい。

いや、あのでっかいの避けられる訳ないんじゃ……? で、でっかい盾用意しといたほうがいいんじゃ? あとで盾借りておこう。 ……盾で防げる気はしないけど。


「後半戦になればこっちの被害も増えるニャ。 だから最初は銀だけで戦って後半は金が戦うニャ。 銀は途中から補助に回るニャー」


oh……今のところ被害ないけど、それはたぶん相手がまだ表層~中層ぐらいの敵でしかないからであって、これから中層~下層の敵が相手となってくると被害も増えるってもんか。


ということはさっきの魔法、見た目が派手なだけで実はそんなに威力なかったのかも知れないね。



「被害減らしたいならがんばって桃量産するニャ」


「……だねっ」


桃を量産するイコール敵を倒すってことだし、桃は味方のブーストにも回復薬にもなる。

とりあえず狩って狩りまくるのだっ。





そんな狩って狩りまくった翌日。

前日の夜中まで狩り続けていた俺は、徹夜組を残し一旦休憩……というか寝ていたのだけど……。



「壁に張り付かれてるぅぅぅ!?」


妙に騒がしいと思ったら、壁際までモンスターが迫っていた。

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