第133話 「132話」
ウッド達がその場を後にした後、分体は同化した木だけではなく、その周囲にある木にも根を伸ばし同化を進めていく。
そしてついには周囲に存在する木……というよりは森全体と同化を果たす。
次に分体は森全体からキンドリーが作った底なし沼へと根を伸ばしていった。
その根は全て太く、敵を拘束するのに十分な力を有していることが伺える。 そして根の数は普段ウッドが使用するそれよりも遥かに多い、これは木と同化した為であり、ウッド自身は気が付いていない能力の一つだ。
「……」
分体はしゃべることはない、それに自我らしき自我もなく、ただ与えられた指示を遂行するだけだ。
自身が力尽きるまで。
ウッド達を追うモンスター、その最初の1体が底なし沼へと足を踏み入れた。
足はずぶずぶと地面へと沈みこみ、モンスターはガクリと進む足を止めるが……そこはやはり下層のモンスター。 力任せに足を踏み出し、地面を爆ぜるように無理やり進みはじめた。後ろから続くモンスターも同様であり……その速度は沼にはまる前と後でさほど変わったようには見えない。
分体はまだ動かない、底なし沼の範囲は広く、待ち構えている根の数は凄まじい。が、より効率良く足止めするためにモンスターが底なし沼を抜ける直前まで待ち、一気にしとめるつもりなのだ。
モンスターも罠があると分かっていてただ進むほどバカではない、一度気づかれてしまえばモンスターは底なし沼を迂回し、再びウッド達を追い始めるだろう。故に分体は待つ、モンスター達がよりたくさん沼にはまるまで。
入り口向けて全力ダッシュ中の俺は、後方で分体がうまい具合に足止めしているのを根っこから情報を得て、理解していた。
最初は沼にはまった連中を殺しまくって、次に沼を迂回した連中が森のなかをある程度進んだところで一気に襲い掛かったようだ。
分体が周囲の木を利用して敵と戦っていたのは正直びっくりしたね。
森で戦うなら無茶苦茶強い能力ではあるけど……俺はちょっと使えないなー。
でもいざって時の切り札には使える……かも?
とか何とか考えていると、足止めされていたモンスター達が再びこちらに向かって動き出したのが分かった。
どうやら分体はやられてしまったらしい。根っこからじんわり伝わる熱からしてー……焼き払われたかな?
「やられたっぽい……んん?」
根っこが動き出したモンスター達に異変が起きたのを探知した。
「どうしたニャ?」
「いや、なんか敵がばったばた倒れて……毒でも巻いたか?」
モンスターが地面に倒れてもがいたあと、動かなくなる……いや、痙攣はしてるけどね。これたぶん死んでるでしょ。
この反応からして分体は死ぬ直前に毒でも撒いたんじゃないかな……たぶん敵を倒す際に根っこで吸いまくって、それを元に毒を作って森全体に蓄えて、で分体が死ぬと同時に毒をばら撒いた? 森が燃える熱で上空に拡散してそうだけど、それでもこの威力って相当やっばい毒なんじゃなかろうか。
いやー……分体のほうが本体より能力上手く使えてそうな気がしなくもないのだけど。
気のせいダヨネ?ハハハ。
「さっさと逃げるニャ」
分体とは随分距離が離れているとはいえ毒は毒である。
こっちに飛んできたらたまらないと、ようやくたどり着いた中層への出口へと皆で駆け込むのであった。
その後、俺たちはいくつかのショートカットを使いどうにか無事地上へとたどり着くことが出来た。
さすがに戦闘後にひたすら全力疾走というのは中々しんどいものがある。
気持ち的には今すぐこの場で倒れ込んで休みたいところではあるがー……。
「やっと着いたか……これからギルドに報告に行く、皆も来てくれ」
ギルドに報告しないわけにはいかない。
今回の件はまだ誰もはっきりと口にはしていないけど……指導者が現れたってことなんだろうしね。
とりあえず急いでギルドにいって報告しよう……皆もさすがに疲れてそうだけど、誰も文句言わずに動き出す。
俺も遅れずについて行かんと。
あー……疲れた。
「指導者が地上に出るまであと3週間かー……」
お布団でゴロゴロしながらそう呟く俺。
報告終わったし、指導者が地上に出るまで結構かかるって事でいったん家に戻って休むことにしたんだよね。
「早めに気が付いてよかったニャ。 今のうちに戦力集めて襲撃に備えるニャー」
俺の呟きに布団の隅で丸まったまま答えるタマさん。
もっとこっち来てもいいのよ?
しかしタマさん、指導者が現れたってのに余裕そうである。
……まあ他のダンジョンシーカーもわりと余裕そうだったけど。
ギルドで報告したらさ、ギルド内が一気に騒然となったんだけど……めんどくせーなとか、しばらくダンジョン潜れないじゃねーかって反応と、よっしゃ狩りまくるぜー的な反応ぐらいしかなかったんだよね。
あ、前者が比較的低レベルの人達の反応で、後者が高レベルの人達の反応ね。
「おー……でもさタマさん。 本当に大丈夫なのかな?」
高レベルの人にとっては率いている敵を狩ると、むっちゃレベル上がりやすいからそんな反応なんだろうけどー……俺は正直不安なんだよね。
「ニャ?」
「ここの指導者って無茶苦茶強いんでしょ? その取り巻きも」
「推奨レベルが120以上だニャ。 無茶苦茶強いニャ」
「タマさんより強いじゃん……」
推奨レベル高すぎる。
タマさんに桃食べさせて補助魔法かけても10足りないし、てか120以上ってことはもっと必要かも知れないってことだよね。
……俺じゃ話にならないし、タマさんだって危ない…………指導者の討伐参加は別に強制ではないらしい、それでもレベル上げ目的で各所から高レベルの人達がわんさか集まるそうだ。
……正直なところ参加せずに避難したいという気持ちが結構大きかったりする。でもタマさんは参加する気っぽいんだよなあ。
「世界樹のそばで戦えば大丈夫ニャ。 敵には弱体化、こっちには補助が入るニャ」
「そうなのかー……」
世界樹にそんな力が……それならいけるか?いや、でも……。
「不安そうだニャ?」
「そりゃ、あの大軍を実際見ちゃったしねえ……」
下層の敵があんだけいるってやばいでしょ。
奥の方にはもっと強い敵がいるだろうし。
……まあ、何だかんだいったけど参加するしかないかなあとは思っている。
この街は気に入ってるし、友人もきっと討伐に参加するだろう。俺がもし討伐に参加しなかったらその後合わせる顔がないってわけで。
あと俺自身の力はたいしたことないけど、桃は別だ。
あれを高レベルの人達に食わせるだけで相当な支援になるだろうし……うん、やっぱ参加するっきゃなさそうだ。
避難したい気持ちもあるけど……タマさん、それに友人、この街を一緒に戦って守らなきゃって気持ちはそれ以上にでかい。
よし……決めた! 俺もきっちり討伐に参加して世界樹を守ってみせる!
「…………ん?」
なんて?
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