第122話 「121話」
下着を回収し袋に詰めた俺たちはすぐに街へと向かった。
日が暮れちゃうし、お腹空いたし、宿も用意しないとだからね。
まあそれらをやるよりも先に、まずは証拠品持ってギルドにいきまっしょい。面倒事は先に片付けちまうのだ。
……んま、証拠品出さずに済むならそれにこしたことはないんだけどね。
これ、証拠品ですって下着の詰まった袋を差し出すとかさー……ちょっとねえ?
いざとなったらゴリさんに提出して貰おう。なんて考えながらギルドへと突入するとー……おや、何やら騒がしい?
「――ですから、討伐に向かったと……あ、戻ってきました!」
「は? ……て、てめぇっ!」
なんだなんだと騒ぎの元へと視線を向けると、そこには受付に何やら詰め寄っている複数の人物の姿があった。
俺たちがギルドに入ると受付がこちらに気が付いて声を上げる……やめてよぉ。
ほら、なんか騒いでる連中もこっち見るじゃん。
なんか顔真っ赤にしてこっち指さしてるしー。
……あ、下着剥ぎ取られた人だ。
消したはずの映像が脳裏にフラッシュバックする。うごごごご。
「終わりましたよ。 これでもう被害が出る事も無いでしょう」
見なかったことにしよう。
こっちを全身振るわせながら見てるけど、スルーですよスルー。
「ほ、本当ですかっ!?」
もちろんですとも。
俺の心の傷と引き替えにきっちり片付けてきましたよ!
「ああ、全部で10体。始末してきたぞ」
始末というとなんかこう語弊が……いや、あってるんだけどね?
一応殺さずに吸収したわけでー……ま、いっか。受付にあのこと説明する気はないし、いったらややこしくなるから始末したってことでいいや。
「ありがとうございます! これで魔石の回収を再開できます……が、その……何か討伐した証になるものはありますか?」
やーだー。
あるけど出したくない。
何型悲しゅうて証拠品に下着出さなきゃいかんのだ。ゴリさんパスパス。
「あー……ドロッドロになって溶けちまってな。 一応これは回収したが」
ゴリさんに袋をすっと差し出すと、顔をしかめながらも受付に提出してくれた。優しい。
「確認させて頂きますね…………あの?」
「そんな目で見ないでくれ。 それしか回収するもんが無かったんだよ」
袋を覗いた受付さん、え? こいつら何考えてんの?みたいな感じでゴリさん見てるけどー……いや、俺もそう思います。
モンスター退治してなんで証拠品が下着なんだよと言うわけで。
「そ、そうでしたか……あのリロイさん」
「……あ?」
「ちょっとこれ確認して頂けますか……?」
んでもゴリさんのドロッドロになって溶けちまったって説明を一応信じてくれはしたらしい?
さっきからこっちガン見してくる下着剥ぎ取られた人……リロイっていうのね。その人に声をかけるとすっと袋の口を広げて中身を見るよう促す。
「ちっ……なんだってんだよ、糞が」
袋を覗いたリロイさんの動きがびくっと固まる。
「っ…………確かに俺のだ、と思う」
すんごい複雑そうな顔してますね。
まあ自分の下着を確認させられるなんて普通思わないよねー……いやー、めんごめんご。
「ありがとうございます。 では、これで討伐完了と言うことで……こちら謝礼金になります。 どうぞ、お納め下さい」
「え、あ、でも……」
あいつら俺の分体な訳で。
てか原因は俺の腕を埋めたマリーさんにある訳でして。
ちょっと受け取りにくいよねー……なんて戸惑っていると、ゴリさんが謝礼金をがしっと掴むと俺に押し付けてきた。
「貰っとけ。理由はどうあれただ働きはダメだ」
「……うっす」
ただ働きはダメ。
うん、確かにその通りだ。
……自作自演っぽくなってるけど、俺たちみたいに高レベルの人らがただ働きってのは色々問題あるんだろう。
俺、そこまで頭良くないから詳しくは分からないけどねっ。
「……よぉ」
「あ」
受け取ったお金をいそいそと懐にしまっていると、横でガン見してたリロイさんが声かけてきたー……。
に、逃げて良い?
「あいつら討伐してくれたんだってな、ありがとうな。 それとさっきはすまん」
「いえいえいえいえっ」
おう……普通にいい人じゃん!
まさか礼を言って頭下げられるとは予想してなかったデスヨ。
なんかすっっごい申し訳なくなって、こっちも頭ぺこぺこ下げてたら……後ろからガシッと頭を鷲づかみにされた。
「ふっ?」
え、なになに??
と思って視線だけで振り返れば掴んだのゴリさんだった。
な、なんでしょう……?
「よし、飲むか」
「へ?」
「こう言う時はなあ、とりあえず飲めば良いんだよ! おらっ、お前らも付き合えっ」
そして始まったギルドでの飲み会。どういうことなの。
……まあ、みんな楽しそうだし良いか。
ちょっとギスギスしてたギルド内の空気も、アレがもう居なくなった事が広まると通常に戻って……今ではギルドのみんなが飲み会に参加してベロンベロンになってる。
気まずい感じだったリロイさん達ともお酒の力もあってか打ち解ける事が出来た。
お酒の力は偉大ですね。感謝感謝。
もちろんゴリさんにも感謝ですわ、俺だけだったら多分あの後宿に行ってそれでお終いだったろうし。
年の功というか何というか……お酒飲みたかっただけという可能性もちょっとあるけどね。ははは。
ここのお会計は俺が持とうかな、さっきの報酬使ってしまおう。その方が後腐れも無いし、良いと思う。
急いで出て来たからお金余り持ってきて無かったんだけど、報酬貰えて良かったわ。
「……タマさんお金貸してください」
「……」
足らなかった。
いや、だっておかしい。
みんな徹夜で飲んでるんだもん……。
くそぅ、締まらないぞ。
あ、ここの会計俺が持ちますからーつって足らないとか泣きそう。
「それじゃ俺たち帰りますね。 それじゃまた!」
まあ、そんな感じで締まらなかったけど仕事を終えた俺たちはギルドを後にして帰るのであった……。
飲み過ぎな状態で走るのはちょっと辛かったけど、走っている内にアルコールは全て分解されたようだ。
その日の昼過ぎには俺たちはギルドへと戻り、リタさんへの報告を終えていた。
報告を終えたけど、すぐには家に帰る気にもならず適当なテーブルへと向かい椅子に腰掛ける。
「あ゛ぁ゛ぁ~…………」
色々と主に精神的に疲れた。
ふと隣に座ったタマさんのテーブルに乗った腕が目に入り、そこに顔を押し付けようとするが、返ってきたのはゴツッという木の感触。
手を伸ばしてあたりを探すもタマさんの感触は無い。
顔を起こしてみれば隣に座っていたタマさんは俺の向かいへと移動していた。シャーっていってる。
うぅ……癒やしが欲しい。
そんな風にぐったりしていると、テーブルにコトリとコップが置かれる。
んー……? 誰かな。
「お疲れですね、ウッドさん」
リタさんだった。休憩時間かな? テーブルに置いたコップは3つ、俺とタマさんの分も持ってきてくれたらしい。
中身は濃いめの温かいお茶だった。
ありがてえありがてえ。
「あーリタさんどもですー。 ……いやあ、なんかもう精神的にボッコボコになりましてねえ。ふふふははは」
お礼をいって御茶を受け取り、ちょっと愚痴気味に話すが……いかん、なんかテンションおかしくなってきたぞ。
「そうでしたか……そんなウッドさんに良いお話しがあるのですが」
「良いお話し……」
そんな俺をリタさんは気遣わしげ見つめ、そう切り出した。
良いお話しってなんだろう……?
「複数のパーティー合同による最下層への遠征のお誘いが来てますよ」
「良いお話し……?」
良いお話し……なのかなそれって?
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