第82話 「81話」

夏も終わり、徐々に肌寒く……というか雪も降りだしてくっそ寒くなりだした今日この頃。

俺は宿のベッドの上でウンウンと苦しんでいた。


「うぅ……お、重い……はっ!?」


お腹の上にずっしりと重い何かが乗っていて身動きが取れず、呼吸も苦しい。

夢の中ではお腹の上に巨大なタマさんが乗っている……と思ったらギルドのおっちゃんが乗っていた。

そんな悪夢を見た俺はハッと目を覚ます。


「タマさんまた上に乗ってる……」


お腹の上のずっしりとした重みの正体。それはおっさんではなく正真正銘タマさんであった。

最近寒くなったせいかタマさんが暖を取るのにお腹の上に乗ってくるんですよね……羨ましかろう。


ただね、タマさんすっかりふくよかになられまして。

……具体的にいうと会ったころの倍ぐらいの体重になっているのです。


ちょっと果物あげすぎたんじゃないかなーと思うけど、まるいタマさんも可愛いので量は変わらずです……。


体壊したら大変だし、近いうちに相談しようと思う。



そんなタマさんを見ていたらお腹が空いてきたぞう。

なんか外もやたらと明るいし、これもしかして寝過ごしてない?


「あー……タマさんや、朝ご飯食べにいこっか?」


「うー……まだ眠いにゃあ」


「いやー、もう朝というか昼近いし」


いやいやするタマさん可愛いですね。

ついついこのまま過ごしたくなるけどお腹は空くし、トイレにも行きたくなるし……しょうがないね。


タマさんもそのへんは分かっている、なのでしょうがないにゃあって感じでもそもそと身を起こし――。


「……って、あだだだだぁっ!?」


俺のお腹の上で思いっきり爪とぎしてくれましたとさ。




朝食を食べに宿の食堂に行ったんだけど、やっぱ寝過ごしてたみたいでもう色々片付けたあとだった。

なのでとりあえずギルドの食堂にいって朝食とることにした。


ここは基本いつでも食えるからいいよね。 味も悪くないしボリュームあってお値段もお手頃。すばらしい。


「今日はどうするニャー?」


ギルドの前までのそのそ歩いてきたところでタマさんが今日の予定についてたずねてきた。


「んー、暫く下層に籠ってたしゆっくりしたいかなー?」


「ニャ。 ギルドでだらだらするニャ」


「おー」


しばらく下層で狩りまくってたし、そろそろお休み入れてもいいと思うんだ。

ちょうど良いタイミングで寝過ごしたし今日はゆっくりしようと思います。


そうそう、下層で一応狩れるようになってからは下層で狩りまくってたんだよね。

おかげでレベルは25まできましたよ。 普通は10年以上掛かるそうなんでやっぱペースむっちゃ早いぽい。


と言ってもいくらレベル差あって上がりやすいと言ってもレベル20超えたあたりからガクっと上がるペースが落ちてきてたりするんだけどね。


ゴリさんのレベルまでいくって一体何年掛かるんだーって話ですよ。


まあ、とりあえずギルド入ってご飯にしよう。

って、あれ?


「? 何か騒がしいね」


何かギルド内が騒がしい。

いつもなら一斉に集まる視線も少なめである。


「気にするニャー。 そこの席あいてるニャ!」


「あいあい」


が、タマさんそんなの知ったこっちゃないとばかりに空いてる席を見つけてダッシュで向かう。

さすがタマさんである。 俺はちょっと気になるけど……まあそのうち分かるだろうし、とりあえずご飯だご飯。




ご飯うめえ!


「相変わらず飯が旨い……またお魚食べたくなってきたなあ」


宿のご飯もだけどギルドのご飯もおいしい。

ただ、やっぱお肉と卵メインなので……そうなるとお魚が食べたくなってくるんだよねえ。


お魚食べたいなーちらっちらっとタマさんにアピールしてみる。


「ニャ。 いいけどそろそろお醤油切れるニャ」


「う、嘘でしょ……!?」


やべえ、血反吐でそうなぐらいショックだ……。

醤油がなくなるなんてそんなの嘘だと言ってよ! タマさん!


……あ、醤油だけどね。 お味噌もあるんだから醤油もあるんでないかなーと思って聞いたらやっぱあったんですよ。 ただタマさん的には味噌のほうが好みらしく、醤油の在庫は少なめだったのね。


で、魚食うたびにお醤油貰ってたらついに底をついたと……。

死にたい。


「そのうち補充しにいくニャ」


「はっ、そうか! ……ねえタマさん俺もついて行ってもいい? タマさんの故郷見てみたいんだ、俺」


そうだ! タマさんの故郷にいけば補充できるじゃないか。

それにタマさん見たいのが一杯いるんだ、まさに天国。 行くっきゃねえ。


「笑顔が胡散臭いニャ。 へんなことして追い出されても知らないニャー」


失敬な。

俺の且つてない程に良い笑顔を胡散臭いだなんて……ま、まあちょっとだけ触るぐらいならイイヨネ?





「タマさん、それにウッドさん。 いまお時間よろしいですか?」


何かそんな感じでタマさんとだべっているといつの間にかリタさんがそばまで来ていた。

横向いたら居たんだもん、びびるわ。


「ご飯中ニャ。 急ぎの用事かニャ?」


「……え? 俺もですか?」


てっきりタマさんに用事かなーと思ったら俺もだった。

なんだろね。 なんか真剣な表情してるしまじめな用事ぽい。

決してバナナくださいとかそんな内容では無いだろう。 あ、バナナ食べます?


「今から30分後に緊急のクエストの説明、その後クエストが発行されます。 お二方には参加をお願いしたいのです。 3階にある大ホールにお集りください」


「ニャ。 ならしょうがないニャ。 急いで食べちゃうニャー」


「俺、まだ鉄なんだけど……んんー?」


緊急クエストとな?

俺がこの街の世話になってからそれなりに経つけど、緊急クエストなんて初めてじゃなかろうか。

てか俺まだ鉄ランクなんだけど……え、この手のって金ランクとかが受けるんじゃ……あ、タマさんとセットだからか?


「いいから食うニャ。 あとで説明があるニャ」


おう……タマさんも結構まじめな顔になってますね。

とりあえずさっさと飯食って向かうとしますか。





「うっぷ……うお、何かむっちゃ人多い」


お腹いっぱいです。

タマさんてばがっつり注文してたもんで量が多い多い……って人多いなここ。

集まってる人は全部中堅以上の人だ。


鉄ランクの人もいるから俺だけが特別って訳じゃなかったぽい。



「そこ空いてるニャ。 そこに座るニャ」


タマさんの後についてホールに無造作に置かれた椅子に腰を掛ける。

周りからはひそひそと「タマさんが参加するのか、助かる……」とか「……あいつまだ新人だよな? なんで居るんだ」とかちらほら聞こえてくる。


俺の知り合いは木の体とか実力とか知ってるから何も言わないけど、知らない人からしたらまだこんな認識なんだよねー。

……やっぱもっと交友関係を広げるべきだろうか? 月下の荘園の人とはあれからもちょくちょくパーティ組む機会あったもんでそれなりに知り合いも増えてるんだけどね。 それ以外は相変わらずさっぱりである。


「しかし、緊急のクエストって何なんだろうねえ」


「たぶんダンジョン関係ニャー」


緊急クエスト初めてだからよー分からんのです。

ダンジョン関係……ってのは分かるんだけどね。


タマさんが続きを話そうとしたところで、扉を開けてリタさんが大ホールへと入ってきた。

あ、説明とかもろもろリタさんがやるのか。 大変だー。



リタさんはそのままスタスタと進んでいき、檀上に立つと軽く咳払いをして話始めた。


「皆さんお集り頂きありがとうございます」


リタさんが話始めた途端に一斉にだまるダンジョンシーカー達。

しっかり調教されてますね。


「もう察している方も居るかと思いますが、今朝方遠征に行っていたゴリアテさんからダンジョンを発見した報告がありました」


!!

おお、ゴリさん!


そっか、新しいダンジョンついに見つけたのかー……別れてから半年以上経つんだもんな。 懐かしい……今の俺を見たらなんて言うだろうか。 とりあえずまだボッチなのかよ……とは言われないはずだけど。


「ただそのダンジョンは既に指導者が現れた後だったようで、中はもぬけの殻だったそうです」


え゛!? そそそ、それって不味いんじゃ??


「その続きは俺が話そう」


もぬけの殻と聞いて内心焦りまくってたら、不意に聞き覚えのある声が……これはゴリさんだ!


俺はゴリさんの声を聞いて、すぐに顔をそちらへと向けた。

……そこに居たのはゴリさんなのだろう。だが俺の中にあるゴリさんの姿とはかけ離れた姿をしていた……ダンジョンから戻ってすぐこの場に来たのだろうか、全身を覆うようにつけていたマントはズタボロで所々焼け焦げている。 鎧も似たような状態だ、溶けてこそいないものの煤で真っ黒になってしまっている。


……そして何より。


「……そんな訳で最奥まで俺たちはたどり着いたんだが、そこに鉄竜が1匹だけ残っていてな。 何とか逃げ切ったがブレスを食らっちまった」




ゴリさんの頭がアフロになってる。

すっごい真面目に話ているのに参加者全員笑いをこらえるのに必死だ。


俺の前に居る人の肩が小刻みに震えているのは気のせいじゃない。

それに横に居る人なんか自分の指を食いしばって耐えている……かくゆう俺も結構やばい。唇噛んでるだけじゃ耐えられそうにない、これ誰かが笑い出したら全員笑うパターンや。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る