第43話 「42話」

とまあ、俺があほなことを考えているとリタさんの視線がすすすっとタマさんに向かう。

だがタマさん、冷たい視線を向けられようがまるで意に介してないらしい……というか単に気付いてない? 前足で顔をぐしぐしと洗っている。


んで、洗いおわって満足したのか今度は前足をなめ……タマさん。可愛いけど、リタさんの顔がちょっと怖いんですがその……。


耐えきれなくなった俺がタマさんの肩をツンツンと突くとそこでようやく視線を向けられていることに気付いたらしい。

最後にぺろりと顔を舐め、リタさんに向かい口を開く。


「余裕だったニャ」


「余り無理をされては困ります」


その答えを予想していたのか、リタさんは軽くため息をはいてそう一言だけ呟くように口にした。


「無理をする気はないニャー。 しばらくはオーガ狩りだから安心するニャ」


「安心……わかりました。 それでウッドさん少し伺いたいことがあるのですが……」


「あんしん……はい、なんです?」


安心って何だろう?

哲学か何かかな、俺にはさっぱり分からないよ……あ、はい何でしょうリタさん。急に真剣な目になって……あ、夕方であれば一応あいてはいますよ? デートのお誘いなら何時でもウェルカムですぞ。ふほほ。


「何でもウッドさんの体に果物がなったという話を小耳に挟みまして。まさかとは思うのですが……」


……


…………


………………あっ。


やっべ報告忘れてた。


「ええと……本当のことです。ごめんなさい、報告忘れていました……」


何がデートだよ、ちくせう。

あんだけ人がいるところでやったんだもん、そりゃリタさんの耳にも入るよね。

早めにいっとけばよかったー!


「いえ、報告はいつでも構わないです……しかし、本当なんですね?」


「はい。 ……後でお見せしますね」




怒ってなくてよかった。

今見せる事も出来るけど……うしろに列出来てるし、さっさと済ませろという無言のプレッシャーが殺意の混ざった視線と共に背中にぐっさぐさと刺さっている。


「お願いします。1時間ほどで交代の時間となりますのでその時に……では、次の方どうぞ」


なのでこの場は退散するのであった。




受付からそそくさと退散しぶらぶらと空いているテーブルへと向かう俺とタマさん。


「いやーすっかり忘れてた」


「別に強制じゃないし忘れても良いニャ。 それよりご飯にするニャー」


「ほいほい。今日はどっちにする?」


ご飯ときいてどっちにするかとタマさんにたずねる俺。

……別にお風呂にする?ご飯にする?それとも……とかいう意味では無い。


……いや、そういう意味なのか? 俺になった実を食べるわけだし。


「ニャ……リンゴ2個と梨1個ニャ。リンゴ1個はさきに食べるニャ」


「タマさん食べ過ぎてお腹壊しても知らないよー?」


「余裕ニャ」


いや、その体格で3個は多いと思うんだよね……まあ食えちゃうんだけども。

それにお腹ぽんぽんでよたよた歩く姿も可愛いし、まあいいか。なんて思う俺であった。





「働いた後のご飯は美味しい」


「だニャ」


いや、ほんとよ。

ひたすらオーガ狩りまくって体を酷使したからね、体がご飯を欲しているのですよ。


ただでさえ美味しいご飯がさらに美味しく感じられる。んむ、素晴らしい。



そんな感じで俺とタマさんがご飯をもっしゃもっしゃと食べていると、交代の時間となったリタさんがテーブルへとやってきた。


「おまたせしました」


「リタさんお疲れさまです」


「ニャ」


挨拶して空いている椅子を進める。

リタさんは椅子に腰掛けるとすぐに話し始めた。

ご飯の邪魔になるからとすぐに終わらせるつもりなんだろう。たぶん。


「それではウッドさん、お願いしてもよろしいですか?」


「はいっす」


リタさんに言われ、枝葉を伸ばし実をならせる俺。

もう慣れたもんで作業自体はすぐに終わってしまう。


あ、実はリンゴね。

一番作り慣れてるし、これいいかなーって。


「…………確かに実がなっていますね。とってもよろしいですか?」


「え……はいどうぞ。やるなら一気にお願いしますね」


「? ……ではいきますね」


それで少しの間、伸びた枝葉やなった実をみて固まっていたリタさんであるが……まあ、そりゃいきなり人?からこんなん出て来たらそうなるよね、普通。

んで固まってたリタさんだけど、すぐに再起動すると実へ手を伸ばし……やっぱ取るよね、そうだよね。


あれ地味にに痛いんだよね、自分でしたやる分にはまあ平気だけど……たまには他人に取って貰うのも良いか……いや、よくない。落ち着け、俺。最近思考が変態じみてるぞっ。




「んぎっ」


やっぱ痛いんっ。


「え、痛みがあるんですか……?」


「ええまあ、ちょっとばかし……」


「すみません、ポーションがあるのでこちらを……」


「鼻毛抜かれた程度なんで大丈夫ですよー」


痛みがあると聞いてポーション渡そうとするリタさん。

別にちょっと痛いだけで、血が出てるわけじゃないし正直ポーションがもったいない。


なので断ろうとするのだが。


「ですが……」


なかなかリタさんが引き下がらないもんで、結局は報酬の一部って事で貰うことになってしまったのであった。




んで、もいだリンゴなんだけど。


「食べないのかニャ? 食べないならタマがもらうニャ」


「いえ、食べます……」


「ニャ。 いらないなら何時でもいうと良いニャー」


もいだは良いがどうにも食べるには踏ん切りがつかないでいるリタさん。

タマさんが横からかっ攫おうとしたところで、覚悟を決めたらしくリンゴを手に取り口へともっていく……。


「!!!!?」


「あー、良い反応ありがとうございます」


「ニャ」


シャクリと一口食べ、ビクンッ身を跳ねさせ声にならない声を上げるリタさん。

じつに良い反応ですな。ふほほ。


この世界の人は甘味が貴重なせいで果物食べると皆良い反応を見せてくれる。

なもんで提供するこっちとしても嬉しくなってくる……とは言っても身近な人にしかあげる気はないけどね。あげ始めたらきりが無いだろうし。

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