第39話 「38話」

何度目かのショートカットを終え、タマさんが歩みを止めて振り返る。


「ついたニャ」


「おー……なんか雰囲気違う。あっちに建物あるし……中は入れるのかなあ」


今までの草原のような場所とは違い、そこは森もあるし、遠目に建物の存在も確認できた。


あ、そうそう。

ダンジョンの中層に足を踏み入れたといっても、その時の俺はそこが中層だとは分かっていなかった。

ただ何か雰囲気変わったなーとか、建物ある、すげえぐらいしか考えてなかったりする。


「ここはお金稼ぐのに結構いいニャ。 ウッドなら狩れると思うからいっぱい狩るといいニャー」


ほうほう、お金稼ぐのにいいのね。

服買うのに所持金の半分使っちゃうし、今後のことを考えるならお金は出来るだけあったほうがいいよね。


タマさんも俺なら狩れるっていうし、そんじゃぱぱっと狩ってみるかなー。

……なんて、考えるわけもなく。



明らかに雰囲気違うし、なんかこう表層とは出てくる敵のレベルが違う。そんな予感がするのです。

見る分には別にいいんだけど、狩りをするとなれば話は別なのだ。


「おーがんばる……と言いたいところだけど。ここ、推奨レベルはおいくつだったり?」


オークがたしか15とかそんなんだったし、20とかなのかねえ……タマさんだからもっと高いか?


「30からニャ」


「俺まだ10なったばっかデスヨ!?」


高いわ!?思ってた以上に高いわ!

30って俺まだ10になったばかりよ?


そういってタマさんに真新しい鉄製のプレートを見せるがそんなのどこ吹く風だ。

耳を足でバババッとかいて、顔を洗っておる。可愛い。



……いや、そうじゃなくて。

さすがにちょっと考え直して貰わないとダメな気がする。

ちょっとータマさん。さすがに無理だと思うんすよー。と訴えてみるが……。


「オークをあれだけ楽に狩れるなら余裕ニャ」


「そ、そうかなあ……」


思いっきりスルーされましたわよ。


……ま、まあオークは確かに楽に狩れたけどね。

でも30レベル推奨って一気にレベル上がりすぎでしょー。

もうちょっと浅い階層で狩りませんかね……?


なんて粘ろうとしたんだけど……どうやら話す暇は無いらしい。


「ウッドが嫌でも向こうからくるニャー」


「げ……」


タマさんの言うとおり、遠くから足音が徐々に近付いてくる……それになんか地面が揺れている気がする。


あ、あのタマさん? なんか妙に重量感のある足音がするんですが、ここ何でるんですかねえ……?


「ちなみにここで出る敵って……?」


「オーガだニャ」


オーガ……オーガ、オーガね。

定番だけどオークなんかよりずっと格上なイメージだ……人より体格もよくて強靱な肉体をもつ食人鬼。


それが俺が持つオーガのイメージだったんだけど……。


「……嘘やん」


木々の間から飛び出してきたそいつは思っていたのよりもさらにでかかった。

身の丈3m越え……しかも全身の肉厚が半端ない。まさに全身筋肉だ。

しかも最悪なのは2体同時ってことだろう。


「2体同時はあかんっ」


「がんばれニャ」


「お手柔らかにっていったのにいいいい!!」


ゴリさんもベルトラムさんもスパルタだったんだ。

ならこのタマさんだってそうである可能性はあったのに

見た目の可愛さにだまされた結果がこれだよ。ちくせう可愛いな!


つーかこのオーガむちゃくちゃ怖い!

デカいし、ゴツいし、顔怖いし!本当顔怖いな!?


って、そんなこと考えてる場合じゃない!

オーガのうち1体が腕を横殴りに叩きつけてきた!


「おっとおおぉおお!?」


ズシンと重い音が響いて構えた盾にオーガの拳が突き刺さる。

衝撃は……思ったほどじゃなかった。腕で受け止めたら痛いかもなーそんな程度の衝撃。


でもそんな印象に反して俺の体は宙に浮いて吹っ飛ばされていた。


「しっかり踏ん張るニャー」


なんとか体勢を整え着地した俺に対しタマさんからアドバイスが飛ぶ。


どうも自身や敵のもつ力に対して、体重やらのバランスが悪くなっているらしい。

オーガぐらいの巨体があればともかく、武器込みで100kgにも満たないであろう俺では簡単に飛ばされてしまうのだ。


「いや、踏ん張る、っていったって!」


踏ん張るがオーガの攻撃を受けるたびに吹っ飛ばされてしまう。

なら避ければいいのだが、2体同時だとさすがに全ては避けることは出来ない。


「根っこでもはったらどうニャー」


タマさんの言葉にはっとする俺。

そうだよ、根っこじゃればいいじゃん。


とはいえ急に振り向くときに邪魔になったらあれだし、千切れたら痛いし、太さとか地面に突き刺す深さを調整して……どうだ?


「ん……これなら吹っ飛ばない!」


オーガの攻撃を受けてみるが……吹っ飛ばない!

ちょっと地面がメコォッて感じでめくれそうになったけど、問題なし!


ならばこっちの番だ!


「どっせい!」


思いっきりオーガの横っ面……は高くて届かないので脇腹を腕ごとえぐり取るつもりでぶっ叩いた!


よっしゃいった!と思ったけど、さすがにそう上手くはいかない。オーガは腕を犠牲に攻撃を防いでいたのだ。


そう、犠牲にだ。

ガードしたオーガの腕はベキィッと骨が砕ける音がしてダランとぶら下がる。

あの腕はもう使えないだろうね。


てか、さすがにオーガは頑丈だ。推奨レベル30レベルなだけはある……根っこはって踏ん張れるようになった分威力上がってるはずなんだけどね? オークだったら腕は千切れてお腹もえぐれて上下で泣き別れになってたと思う。


とまあ1体は片腕使い物にならないし、向こうの攻撃は俺にはほとんど効果無し、でもこっちの攻撃はガードの上だろうがお構いなしにダメージが通る。

つまりは。


「このっくのっ!こんにゃろっ」


たこ殴りしてるだけで勝てちゃうのである。




「……終わった」


「お疲れニャー」


タマさんの声に力無く応える俺。

ぶっ飛ばされたり筋肉ダルマに囲まれたり、顔怖かったりで久しぶりに精神的に疲れた。まじ顔怖い。


「問題なく勝てたニャー?」


「まあ……うん」


問題はなかったね、顔怖かったけど。


「タマは出来ないことはさせないニャ。ウッドなら余裕だと思ったからここにきたニャ」


そういって俺の頭をぽふぽふと叩くタマさん。

褒めてくれてるのだろうか、肉球が感じられて幸せです。


現金なもんでたったそれだけで精神的な疲れは吹っ飛び、やる気マックスになるのであった。


俺、ちょろすぎない?

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