第17話 「16話」

久しぶりに食べたからと言うのもあるだろうけど、お昼ご飯は滅茶苦茶美味しかった。

パンのようなものは焼き立てでパリッと香ばしく、生地も牛乳とかバターいっぱい使ってそうな感じだった。正直なにもつけなくてもそれだけで美味しく頂けるものだった。

スープも具沢山で美味しかった。腸詰め入っててそれがまた美味しいの、何の腸詰めか分からんけど。

メインの肉料理はハンバーグぽいのだった、でかくて柔くてじゅーしー。 上に乗ってる目玉焼きとチーズ、それにソースが相性抜群でただひたすらに美味しかった。

前世で食ってたものより良い物食べてるんじゃないかって気になってきたよ。



まあそんな感じで異世界で初めてのご飯はすごく美味しかったんだけど……実は今、食べたことちょっと後悔している。具体的にいうとリバースしそうでふ……。


稽古はなかなか……いや、滅茶苦茶激しかった。

もう何度死ぬかと、死のうかと思ったことか……時刻はそろそろ夕刻、薄暗くなった裏庭でぼろ雑巾のようになって横たわってるのが俺です。吐きそう。



もうね、ゴリさんやばすぎ。

稽古って実践形式で武器と盾もっての打ち合いだった訳ですよ。

最初は本気で振って当たったら不味いと思っておっかなびっくり振ってたんだけどさ、それやるとゴリさんから手加減するなの一言と共にきっつい一撃が飛んでくるんですわ。それが痛いの何の。


こりゃたまらんと俺も武器を振るう威力を上げて……あ、もちろん刃引きはしてあるからね? んで威力を上げていった訳だけどあろう事かゴリさん素手であっさり受け止めたんですよ、奥さん。


「これで分かったろう。 仮にウッドの攻撃が当たったとしても俺にはダメージはない。 分かったら殺す気で打ち込んでこい」


そこから地獄が始まった。

もう……こっちの攻撃は全部防がれるし、変なとこに打ち込むとダメ出しの一言と共に一撃が飛んでくる。

向こうの攻撃は手加減してくれてるんだけど、それがまた絶妙な具合でさ。

俺がぎりっぎり防げるぐらいの攻撃をしてくるんだよね。 勿論防げなかったらモロにくらいます。ええ。


ゴリさんが新人の稽古してるってことで周りにいつの間にかギャラリーが出来てたんだけど、最初なんであいつ何かがって感じで見てたのが、俺がボロボロになるに連れ憐れみの視線に変わっていってた。 そんぐらいきつい稽古だった。


「まあ、何つうかあれだな……動きは多少ましになったが、剣は向いてなさそうだな。 良い剣が手に入れば別だが、安もんの数打ちじゃすぐダメになっちまうだろうな」


「ハイ」


んで死体に鞭打つかの如くゴリさんからさらにダメ出しが。

やめて! もう肉体も精神もライフはゼロなのよ!?


「どうも刃筋を立てるのが苦手なようだ、それ以外の武器……そうだなやはり鈍器系が相性はいいだろう。 その力があれば左に盾、右に重めの鈍器でも持っておけば十分に戦えるだろうさ。 腕力以外も反射神経やら動体視力あたりはかなり良い……ところでその右半身、大分萎んできてるが大丈夫なのか? 力も少しずつ弱くなっているようだったが……」



死んだ目しているところにゴリさんからお褒めの言葉がきたー! 気付くの遅れちゃったじゃないかい。 もっと褒めていいのよ? 俺褒められると伸びる子なんです。


って、はい。右半身ですね。

わー、見事に萎んでるね……途中から武器が重くてしょうがなかったんだけど、疲労だけじゃなくてこれも原因か。


……ゴリさんになら多少打ち明けちゃっても良いかな。



「……ハイ。 ……あ、この体なんですけど時間経過か力を使うと少しずつ萎んでいくんです。 それで補正?も少しずつ落ちてくみたいですね」


「補正がでかいと思ったがそんなデメリットがあったとはな……まあ、デメリットと言うほどでもないか、すぐ吸えるんだろ?」


「ええまあ……このムッキムキになるまで吸うと森とか枯れちゃうんですけどね、食事目的だけだと何ともないんですけど……あの、これってあまり周りに言わない方がいいんですよね……?」


ゴリさんは良くても他の人は別だ。


「枯れるまで吸うと体が強化されるのか……それについてはその内ばれると思うぞ? ばれたからってどうなるって話でもないが……逆に知られた方がパーティは組みやすくなるかもな? ただ、そうだな……その徐々に力が弱くなっていくことについては言わないようにしろ。 世の中どんな奴が居るか分からんからな、わざわざ弱味を吹聴する理由は無い。 その内ばれるだろうがそん時には今より大分強くなってるだろうさ」


「はい、そうします」


何かわりとあっさりした反応だったよ!


ただ徐々に弱くなるのは言わない方がいいみたい、そこはやはりと言うか何というか皆が皆、ゴリさんみたいにいい人では無いだろうしね。


「あとは隠し球も言わないように……それもその内ばれて広まってくがな」


隠し球とな?

やっぱ俺みたいな体の人って他にも能力あるのかなー……あ、それとも一般的なお話?


「隠し球……俺みたいに体が変わってしまった人達ですか?」


「ん、ああ。 石になった奴、壁になっちまった奴はそこらにある石やら壁を身に纏って巨大なゴーレムみたいになってたな。 んで水になっちまった奴はそこらの川やら池の水を自由自在に操ってたな。 おそらく一体化しちまった物質なら自分の体のように使えちまうんだろうよ」


ゴーレムかあ、人の技術と思考をもったゴーレムってことでしょ? 普通に強そうだ。


あと水も地味に強そう、相手を溺れさせたりとかできるんじゃないか? あと体がどうなってるのかすごく気になる。 スライムとか水の精霊的なことになってるのだろうか……。


「俺だと木ってことですか……」


んで俺の場合は木かぁ……あまりぱっと思い浮かばないけど、ウッドゴーレムとかやろうと思えば出来ちゃうのかな?

あと周りの木を一斉に動かして攻撃とか出来るかも知れない? それと蔦を触手みたいに……なるほど?


「たぶんな。 詳しくは石になっちまった奴……名前忘れちまったがそいつに聞いてみるといいさ。 連絡取れたのか?」


「いえ、まだです。 落ち着いてから連絡取ろうと思ってたので」


連絡まだ取ってないや。

落ち着いてからじゃないとねえ……てかゴリさん名前忘れたんかい。 石になってるんなら目立つだろうに。


「キンバリーさんです。 彼は今下層に潜って居ますのでしばらく戻ってきませんよ」


おや、この声は……。


「お、そういやそんな名前だったな。 んで、リタちゃん。ここに来るなんて珍しい、何かあったのかい?」


やっぱリタさんだった。

どうしたんだろう、もうすぐ夕飯時だし、仕事はもう終わりなのかな?


「いえ、やり過ぎていないか見に来ただけです……しっかり手加減出来るようになったみたいですね」


「え゛」


あれで手加減してた……んだろうなあ。

別にどこかが折れたとかそんなん無いし。

いや、心はぽっきり逝きましたけどね?

もうちょっと優しくしてもいいと思うんだ!

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