善行を積みまくれば異世界でチートできる！？〜最も善行を積んだ俺は時空魔法というチートを授かりました〜

第1話 プロローグ上

　こんな実験を知っているだろうか。

　実験参加者を監獄の中で看守役と囚人役に分けるとどうなるのかという実験。この実験はボランティアで参加した24人の学生を使って行われた。

　この実験当初、2週間をかけて行われる予定だった。だが、1週間も続けることができなかったという。

　なぜなら、これ以上続けると危険だと判断されたから。

　なんと、看守役の大学生達は時間が経つにつれ攻撃的になり囚人役を精神的にいたぶり始めたのだ。看守役は囚人役に断眠、素手で掃除などを強要させたという。

　善人は、そんなことを強要させるなんて最低だ、悪人だというだろう。

　だが、この実験に参加した24人の学生は進んでボランティアに参加するほどの善人だったのだ。

　だから、俺は悪いのはこの監獄の環境で、この実験に参加した学生達を悪人だとは思わない。

　人間という生き物は環境によって変わってしまう、そんなのは周知の事実だろうが。

　ーーー20××年×月×日

　歴史書には、この日はこう記されている。

　なんの変哲も無い、よくある1日。

　だが、その時が訪れた瞬間その日は人類最大の転換期になったと。

　その時が訪れたのは、日本の正午。

　日本が最も活発に動き回るその時刻に起きたそれは、世界中をパニックに陥れた。

　その瞬間全人類が全身の感覚を失ったような感覚に陥る。

　五感が失われた暗黒の中、全人類の脳内に人魂のような光が現れた。

　それは、7色の虹で包まれたような光。

　その光が現れると、何語かも分からないような言葉で、だが確かに意味だけは分かるような言葉でこの言葉を残した。

「この世界は作り物。私はこの世界を作りしもの、神。この世界には飽きた。ので、別の世界とリンクさせた。善行を積むものは異世界で祝福され、悪業を働くものは異世界で地獄に落ちるだろう。では。」

　そう言い残すと、神と名乗る光は消え全人類は現実に引き戻されたという。

　その後に起こるのは混沌の時代。

　混迷期と呼ばれるそれは、科学者と宗教と国がもつれる人類最悪の時代。

　下手をすれば歴史書の大半を占めることになるその時代を紹介するのは、また別の機会にしよう。

　混迷期が終わるのは転換期から1000年以上も経過した30××年×月×日。

　戦争やその際使用された核から生き延び、地球の再建にかかった1000年の時は人類を疲弊させきっていた。

　結果、たった一度人類に語りかけただけの光を人類は神とし、たった一つの教えを守る為だけに生きることになったのだ。

　この時代に生きる子供達がまず学校で習うのは神の教えについてだ。

　善行を積めば天国に行けるが、悪業を働けば地獄に堕ちると教え込まれ、善行を積むための勉強をする。

　その結果、世界は幾分か平和になった。

　誰かが落し物をしていたら、落し物を届けるのは自分だと落し物の奪い合いになるような世界だ。そりゃ嫌でも平和になるだろう。

　だが、全てがうまくいくはずもなく、来世の為に生きるこの世界に嫌気がさし、今を楽しみ生きる反抗派も多く現れた。

　その反抗派は、積極的に善行を積まず楽しく生きるというものが大半だが、一部はこの狂った世界を壊そうと企む秘密結社のようなものもいる。

　……で、それを防ぐのが俺の仕事って訳。

　はぁ……

　なんでこんなことわざわざ思い返してたんだっけ。

　そうだ。

　何でこうなってしまったか考えてたんだ。

　俺は、善行を出来るだけ積める仕事に就きたいと秘密結社対策部隊に加入したんだ。

　この部隊でも色々あった。

　仲間と共に秘密結社を一網打尽にしたり、仲間が死んだり、仲間が死んだり……。

　やめよう。

　こんなこと今更だ。

　今日で最後のミッションなんだから。

　俺の最終ミッションは簡単だ。

　世界最大級の秘密結社本部に潜り込み、その中枢部での自爆。

　つまり、自爆特攻だ。

　薄暗く、機械の冷たさに覆われたこの部屋は、この秘密結社の核となる中枢部。

　潜り込む際に一度しか使えない撹乱作戦を実行したので帰還は無理。

　だから、俺に出来るのはこの手にある真っ赤なボタンを押すことだけ。

　……押したら、またでかい善行を積めることになるなぁ。

　既に部隊1の功績者としている称えられているのに、こんなでかい功績残したら来世は神にでもなれるんじゃないか？

　そんな慰めをしながら、俺は覚悟を決める。

　……よし。

　もう覚悟は決まった。

　……だが、心残りが一つだけある。

　俺のような悪人を善人に変え、善人を悪人に変えてしまうこの環境に抗えなかったことだ。

　人間は環境によって変わってしまう。だから、俺は人の自由を閉じ込めたこの世界が憎い。

　そうだ。

　じゃあ、せめてこの世を呪いながら死のう。

　じゃあな。

　死んじまえ。