異世界に行った男
まどろみの中で声が聞こえる。これは夢か?
「おい……おい、目を覚ませ」
いや、確かに現実である。うぐ……目を、目を開けなければ!
「やあ、やっと起きたか206番!」
206? 俺は違和感を催す。生まれてこのかた、そのようなあだ名でよばれたことはない。別人のことをいってるのではないか。
薄く開かれた眼球の世界には、二人の人物がこちらを覗いてた。一人はでかい体型にプラスして、顔を白い布で覆っている。もう一人の方も同じように顔を隠しているが、こちらは背が小さい。
「変に思うかも知れないな」でかいほうの男がいった。「お前に授けられた番号だよ、206番。大事にするんだな」
「はい、あの、ここは……」
小さい方が答える。「あなたの世界でいう、異世界という場所ですよ」
「い、異世界……」
俺は信じられなかった。いきなりいわれても、どう反応していいのやら。そもそも、異世界などという概念がほんとに存在するなんて――。
「今は信じられないかもしれん」大きい男が、こちらに手を差し出す。「いずれわかることだ。だから、今は我々に協力してもらいたい。世界を救うために」
「俺が……救う?」
「そうだ」大きく頷く。「私は405番。こいつは691番」
「よろしくです」
俺は手をつかんで、むくりと上半身を起こす。温かくて鍛練されたような皮膚だった。
「それで、これからどうすれば……」
「まずは、周りを見渡そう。どうだい? 一面壁に囲まれているだろう?」
その通りであって、正方形の箱に三人は閉じ込められているような感じだ。ただし、一面だけ、光が差し込んでいる場所がある。
あれは、柵である。縦に並べられた鉄の棒が、外出を良しとしてくれない。
「ここから脱出するには、そう、あそこから突破しなければならない。それがただ一つの作戦だ」
「しかし、どうやって……」
「わたしに任せてください」小さい方が、手を曲げたり伸ばしたりする。「わたしの力さえあれば、鉄など一瞬で燃えるに等しい。敵が気づく前に脱走すれば万事解決です」
「頼もしいぞ、691番」
そう声援を送ると、彼はニヤリと笑った。「早速、作業に移ろうか」
「いいね」
「とっとと済ませるぞ」
ふんっ、と力を込めて、鉄の柵を握った。
「へへ……こりゃ、強いものですよ。だが、わたしの手にかかれば――」
「206番、構えろ!」
「行くぞ!」
それ!
ピッーーー‼
「206番、405番、691番、就寝時間だ! 早く寝なさい!」
「ちょっと、看守さ~ん」
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