ベランダから

ぽふ、

第1話

この世の中に、死にたいと思う人が、一人いました。

その人は自宅のベランダから飛び落ちました。

ベランダの手摺りに足を掛け、バランスを崩しながら、えいっと手摺りを蹴り上げました。

一瞬後、宙に舞い、次の瞬間には、もう重力が体を、ぐいと引き寄せました。

ズサササッ、ドサッ。

途中、下の木立に引っ掛かりながら地面へと体当たりしました。

ぐぬぬぬぬ。

うめき声を上げましたが、まだ死にません。

小雨が顔を打っていて、少し寒い気がします。

その人は、毛布が恋しくなりました。

けれど、ここには毛布はありません。

仕方なく、その人は、自宅へ帰ることにしました。

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