〈ワンピースを脱ぐ必要がありますよね〉
キッチンから肉を焼くいいにおいとじゅうじゅうと焼く音。
ミコッチがパスタちゃんと持ってきた肉を焼いている。自分で肉を買って焼くということはあまりないので、嗅覚はここぞとばかりに脳髄を刺激する。
そんな私は夏バテなのだからリビングでソファーに座る。
「つばが洪水のように溢れる。そしてひたすらにそれを飲み込む。なんてことを言ったら米村はどう思う? 引く? 私は肉が好きな人間なんだ――ああ引くというのはね、人間界で『不気味だな』というような意味なんだけれども」
私の胸ポケットに膝まで入れて身を寄せる米村に視線を落として言う。どうしてこのようになったのかは定かでないけれど、妖精に理屈を求めてはいけない。
「人間さんは大きいですからね。どこかお皿にでも出していただければ米村は泳げるんじゃないかと思いますよ。どこに出しますか?」
「いや出さないけれども」
「えっと……そうですか」
なんだか落ち込ませてしまったかもしれないのだけれど、米村を私の体液で泳がせると言うのは、なんだか悪趣味の極まるところに思える。
それはそれとして、やはり米村の妖精としての思うところに興味がないわけではないので、少しばかり訊いてみることにする。
「米村は……私が米村を食べると言ったら恐ろしいよね」
「もしかして、やっと米村を食べる気になったのですか」
「いや、そういうわけじゃあないんだけれど」
「煮え切らない態度は女の子を退屈させますよ?」
「うーん、仮定、仮定としよう。私は米村を食べたい、と仮定した話だ。私は米村をすごく食べたい。そういうように考えてくれ」
「仮定する場合、仮定の定義はしっかりさせなくてはいけませんね? そうですよね。そうなんです。あなたが米村を力いっぱい食べたいということがどういうことなのか、しっかり定義してください」
私に身を寄せた米村は両手をぱたぱたとさせる。
しまった。軽く訊いたつもりなのに米村のスイッチが入ってしまった。米村は妖精ではあるが、人間の私をいとも簡単に思考の渦へ招き入れる。
「いや、ちょっと待ってほしい。私が米村を食べたいと仮定するにあたっては、米村がどのように食べられるかを先に定義しておかなければいけないと思うんだ」
もはや無理がある言い返しであったがどうだろう。
米村は、むむむと私を見ると少しだけ考えるように視線を落とした。
「米村はまず食べやすいようにワンピースを脱ぐ必要がありますよね」
ちょっとだけ頬を赤らめる。
「いや、そういう下ごしらえのようなことではないのだけれど」
米村は素直だった。
素直なゆえに私を困惑させた。
なんなら米村の全部は水浴びのときに見ているので今更ではあるのだが、私が遠回しに何かを求めているように思ったのかもしれない。
もじもじとする米村を見てどうしたものかと考えるのであった。
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