<米村のほうが一緒ですよね?>

 まるで雪の島だった。

 ダイニングテーブルには平皿や茶わん、ボウルやスープ皿、それからガラスのコップがいくつも並べられ、そのどれもに盛られているかき氷が生み出す光景は連なる雪山を連想させるようだった。

 そんなわけで私はミコッチと向かいの席に座りかき氷を食べている。

 ミコッチはメロンとコーラとブルーハワイのシロップを混ぜて名状しがたい色になったかき氷を一口食べ、スプーンを私に向けて言う。


「いっぱいあるから好きなだけ食べてね。食べ放題だから。頭がキーンとしたら休んでからまた食べられるし、お腹が冷えても休んでからまた食べられる。解けても飲めるし氷はまだまだある。さあさあ食べた食べた」


 自由なのか自由じゃないのかよくわからない。

 ほどほどに食べることにした。

 米村はさきほどからテーブルの上でパスタちゃんと走り回っている。並べられた皿の隙間をうように腕を振って走る。走る。米村はお米の妖精ということで全体的に白いのでかき氷との保護色になり見分けづらくなる。私はいちごシロップをこぼしてかけてしまわないように細心の注意をはらいながら食べた。


「ミコッチよ。私はさっきから気になっていることがあるんだが、うどんさんは眠っているんだろうか」


 うどんさんは平らな四角い皿の上で仰向けになって目を閉じていた。首から下はかき氷に包まれている。白い砂浜でいたずらされてしまった人のようだと思った。腕の代わりに使ったりする乳白色のうどんのような髪も今はほとんど氷に埋まっている。


「うどんさんは水の代わりにかき氷で体を冷ましているらしいんだな。さっきうどん食べたんだけどね、茹でたあとに水浴びするかきいたらこっちがいいって。もしかしたら眠っちゃったのかもしれないね」

「冬眠しちゃってないといいのだけれど。うどんの妖精が冬眠するタイプなのかはわからないけれども」

「きっと大丈夫だよ。最近湯切りが気に入ってるみたいだから、また起きてくるんじゃないかと思ってる。……そういや、ここのところ、うどんかかき氷しか食べてないような気がするな」

「ずいぶん極端なタイプの不摂生だな。もっといろいろ食べないと夏バテしてしまうんじゃないかい。人間は妖精ほど暑さに強くないんだ」

「だいじょぶだいじょぶ、焼き肉とかサラダとか入れてるから」

 どういうことだろう。

「まあ、どう見ても元気そうなのはわかる」


 ミコッチは二杯目のかき氷を食べ始めた。いちごシロップの上から赤色が見えなくなるまで練乳クリームをかけて頬張る。

 山を食らういにしえの巨人の末裔まつえいなのかもしれない。

 そんなことをぼんやり思っていると、パスタちゃんがそばまで走ってきてこちらを向いて止まった。金色のカールしたショートヘアが揺れる。パスタちゃんは雪山の中では目立つかもしれない。

 私を見てにこりと笑って口を開く。


「ヒゲ」


 そう、私はヒゲメガネをかけていた。

 もうずっとかけていた。

 今日はかけたり外したりしていたけど、だいたいかけていた。

 正直に言うと、気に入っている。


「そうだよ。ヒゲの妖精だよ」


 パスタちゃんは「一緒だね」と小さく微笑みながら言い、また走っていってしまった。とはいってもテーブルの上をぐるぐるしているのでまたすぐ近くを通る。

 次に米村が私の前で足を止めてこちらを見て言う。


「米村のほうが一緒ですよね?」

 聞こえていたらしい。

「米村にヒゲは生えてないだろう?」

「そういうことではありません」

「え」

「そういうことではないのです」

「あ、はい」


 妖精ごころは難しい。

 私はかき氷を一口食べた。

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