<イチゴジュースが出る>
洗濯物を干し終わると部屋に戻った。
カゴを脱衣所に戻してからソファーに戻り、取り込んだ洗濯物を畳む。
私がソファーに腰を下ろしたときには、すでに米村はソファーの上に寝転んでスイーツ紹介雑誌を読んでいた。米村に洗濯物の匂いがどうだったかを訊こうかと思ったが、ずっと匂いに執着していると思われるのも恥ずかしかったので話題を変える。
「何かよさそうなものはあったかい?」
手元を見ながら隣の米村に訊く。
「いいものは、いっぱいあるのですが……」
小さなため息が聞こえた。
手を動かしながら「どうしたの」と先を促す。
「どのお菓子もカラフルだったり、いろんなトッピングがあったり、大きかったり、大量のソースがかかっていたりいるのですが、やはり米村も身長が高かったり、お洒落なほうがよかったりするのでしょうか?」
どちらかと言えば自信家なタイプの米村にしては珍しく、自身の見た目について何かを考えているようだった。
「うーん……」
私も考える。
妖精である米村は人間から見ると小さい。同じく妖精のパスタちゃんやうどんさんよりも少しばかり身長は低く、華奢な体型をしている。そしてお米の妖精であるためか、髪や肌が白く、気に入っているワンピースも白い。
話題のスイーツのような見た目のインパクトは無い。
米村は「イチゴを頭に乗せるとか?」と言う。
「私はそこまでお洒落に気を遣うほうじゃないから相談向きじゃないかもなぁ。服も髪もいつも同じような風だし、体も大きいと言えるほど大きくはない。もしかすると私も頭にイチゴを乗せたりとかしたほうがいいのかもしれないなぁ」
米村が隣で「ふふ」と噴き出す。
想像されたのかもしれない。
「ええ、私はイチゴは似合わないかい?」
手元を見ながら言うと米村は笑いをこらえながら答える。
「いえ、そういうわけでは。イチゴのアクセサリーではなく、イチゴをそのままのっけるんですね」
言われてみればそうだ。イチゴは米村にとって両手に抱えて持つような大きさだが、私にとっては一口サイズでしかない。
「うーん、アクセサリーはあまり身に着けないし、イチゴ柄の服を着るか。……いやしかし会社や買い物に着ていくのはちょっと気が引けるような」
なぜかイチゴを身に着ける方法を考える。
手を止めて目を閉じ考えていると、太ももに触れる感触がある。
視線を下げると米村が私の太ももに手をついてこちらを見ている。
どうしたのだろうかと首を傾げると、米村は目を細めて微笑みながら言った。
「大丈夫ですよ。イチゴがなくても米村はあなたが好きですから」
胸の奥がぎゅっとした。
きっとイチゴが詰まっていればジュースが口から出るくらいに。
思わず顔がほころぶ。
「よかった。このまま考えすぎてイチゴまみれの生活になるところだったよ。それにそのセリフは私が先に言うべきだったと後悔している」
「米村のことが大好きということは、イチゴよりお米まみれがいいですね」
「うーん、炊いてあると、うれしいな」
後悔はすぐに爽やかな余韻となった。
私は洗濯物を再び畳み始める。
米村はまた雑誌を読みに行った。
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