【ラーメン】

<あめころがし>

 考えながら鎖骨の辺りを触る。みこっちの心をおにぎりに包んでおくことはできないだろうか。名目は雨宿りということで。


「でも、何食べるの? おにぎり以外にときめかない身体になってるよ、今」

「そりゃあ――いやまだ決めてないけど。大丈夫! 行ってみればときめくものがいっぱいあるはずだから!」瞳を輝かせてこちらを見ている。


 あ、これ一緒に行きたがってるな。こういうときのみこっちは「別々のものを食べよう」とか「一人で行ってくる」といったことは言わない。ひたすらに世界のどこかは必ず晴れているから、と熱心に誘うのである。

 ――聞いてなかったけどスーパーに行くんだよね?


 すーっと視線をテレビに向ける。情報番組のクイズコーナーは二、三問で終わったようで、今は最新のニュースが読み上げられている。机上の三人娘は中心を向くように座り、さきほどのクイズについて議論しているようだ。

 身振り手振りを伴って熱心に。米村は力こぶを作るように腕を曲げ、上腕二頭筋の辺りを指さして何かを二人に説明している。こぶがないから力を込めているのかは判断できなかった。

 すーっと視線をみこっちに戻す。まだ私を見ていた。もしかすると目を開けたまま眠っているのかもしれないな。起こしては悪いので、もう一度視線をテレビに向けようとしたときのことだ。肩に手を置かれ、「ひ」と声が漏れる。

 みこっちはにこりと微笑んで言った。


「出かけようか」


 ついに答えを求められる。どうしたものか。こういうときの私は「別々のものを食べよう」とか「一人で行ってくれば」といったことは言えない。なぜなら彼女が正しいからだ。なぜ正しいのかというと、一緒にいてつまらなかったことは一度もない。

 でも雨降ってるんだよなー。

 何か言おうと口を開きかけたところでパスタちゃんが「え!」と反応する。みこっちの言葉が聞こえたのだろう。「散歩」というワードを聞くと嬉しさを爆発させてしまう実家で飼っていた仔犬のように立ち上がってぴょんと跳ねる。

 そのまま飛び跳ねながらやってきて、みこっちの膝の上に飛び乗る。


「パスタもお出かけしたい!」

「いいぜ! 行こう!」みこっちが答える。


 パスタちゃんは両手を上げて喜んだ。

 うどんさんも机の端まで歩いてくると、見上げて「行く」と一言。短い言葉と視線から意思の強さを感じる。みこっちは「よし行こう!」と親指を立てた。

 米村はどうするんだろう。そう思いうどんさんの後ろを見ると、米村は私を見ていた。何かを言おうとしている様子ではない。私の開きかけた口が次にどう動くのかを見ていたようだった。

 ――気を遣わせたね。


「じゃあ私も行こうかな。そういえばラーメン食べたかったんだ」思い出したように言ってから、米村に手を差し出す。

「米村も一緒に行きます」晴れ間が見えたかのような、にこやかな顔になる。手のひらにぴょんと飛び乗る。


 結局みんなで行くことになった。

「ざーざーするかな」人差し指で米村とハイタッチ。

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