<ラーメン&ライス>
おにぎりを一口食べてゆっくり味わう。窓の外、梅雨空がライスシャワーを降らせれば、あした会社にいけなくても仕方がないのではないか、などと考えながら。
机上に座ってテレビを見る米村を拝んでみる。お米の妖精なら雨を米に変えられるのでは、という考えではなく、米村みたいに雨を楽しみたいから。
「なにしてるの?」となりから声がかかる。
「いや、なんでも」おにぎりを一口食べてから、「明日も雨らしいよね。どうしよう、たぶんびっちょりだよ、カバンとか服の裾とか。電車の中は蒸し暑いかもしれない」空いてる方の手をグーパーして湿度が広がる様子を伝える。
「そうさな、全部脱いじゃうと楽なんだと君も思うよな」頬張りながら言う。
「それは思わないけど。でも雨と仲良くなれるかもしれないな」
テレビに視線を向けると次回のラーメン特集の予告。
――そういえば。
「みこっちさ、テボ持ってる? あの湯切りするやつ」手で湯切りの素振りをする。
「うん、あるよ。もしかしてラーメン見てしたくなっちゃたの?」
「持ってるんだ。いや私がしたいわけじゃないけどね。というか私がされたいわけでもない。うどんさんが湯切りされてみたいらしいんだ」
「するする、毎日でもする! ――って、実は遠慮してるんじゃないのー?」肘でつんと押してくる。「いつでも貸してあげるからね。思いっきりすると気持ちいいんだよー。……あ、でも調子に乗って部屋びっちょりにしちゃだめだからね」指を立てて真剣な表情。
「したのか」
みこっちは頷いた。
とりあえず私も頷いておく。湯切り予定はないけど。
朗報ついでに知ったちょっとした秘密は握って食べてしまうことにして、それから朗報だけうどんさんへ伝えることにした。
情報番組のラーメン特集は次のクイズコーナーへ移っている。机上の三人娘はというと、並んで首を傾げていた。右へ、左へ、また右へ。妖精というのはラーメンにクイズと好奇心の幅が広いらしい。
人間界は広いぞ。まだまだ知らないことがいっぱいある。自分の部屋をびっちょりさせちゃう面白お姉さんだっていることだし。
「うどんさん」小声で呼びかける。「みこっちテボ持ってたって」
難問に直面していたうどんさんは口を結んだまま、目を見開いて振り向いた。
「あと湯切りしてもらえるみたい。それも望むなら毎日とのことだ」
「気持ち良すぎて、だめになったらどうしよう」大きな瞳から好奇心が溢れる。
「その前にみこっちが疲れそうなものだけど」
クイズで難しそうな顔をしている隣の人間に目をやる。
「家にあるみたいだから帰ったらだね」
「うん」うどんさんは頷く。そしてまたテレビの方を向くと、首を傾げた。
みこっちが唸る。
「どうしたの? そんなにクイズ難しい?」
「いや、昼ご飯なんだけどさ」
「そのことか。大丈夫、作れるよ、おにぎり」
「昨日の夜からおにぎりしか食べてないよね」
「ええ、作れるんだけども、おにぎり」
「何か買いにいこうかと思う」
「具とか?」
「いったんおにぎりから離れよう」
みこっちは雨の中、買い出しに行くと言うのだ。
せっかくおにぎりをうまく作れるようになったのに。
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