<reversi pancake>
休日、昼前――自宅
「裏を返せばだよ? 裏を返せば私はメシマズじゃない。料理について知識も経験もないだけなの。みんな子供の頃はだね、何にも知らなかった、何にも知らなかったんだよ米村」
「どうしたんですか急に」
「今日は初心にかえってパンケーキを焼こうと思います」
「あなたはもう大人です。それに、意外と難しいらしいですよ」
「そうなの? 混ぜて焼くだけでしょ」
「そういうところですよ……もう。作り方は調べたんですか」
「いや。パンケーキ用の粉の袋に大体書いてあるから大丈夫だと思う」
「――大抵の人であれば、ですよ。そういうのはシチュー作っててカレーが出来上がるような人には早いんです」
「……あれはだね、あれは美味しくなるかなって、気を利かせるついでにちょっとスパイスも効かせてみただけなんだけどね」
「お料理はまだ子供なのでそういう気を遣わなくていいんですよ」
「もう大人だよう……」
米村がニコリ。真珠光沢を放つ白い髪と白い肌、白いワンピースでまるで天使のようである。私が自分の料理で破滅しないよう導く、素敵な笑顔。
「えーっと、では始めまーす」
「卵・牛乳・粉、袋に書いてあるレシピ通り計量、ボウルに入れまーす」
「なんだか悪い予感しかしません」
「次に混ぜまーす……ん? 混ぜまーす……あれ?」
「……なんかダマになってますよ」
「足りぬか!? 混ぜるぞぉおお!!」
――Now Loading――
「これなんだろう。混ぜても無くならない」
「どうやら材料を一気に入れてしまったからのようです」
「――おいおい米村よ、知ってたの?」
「いえ、スマートフォンで調べました。私はスマートフォンも使いこなせる大人の妖精です」
「え、米村大人だったの?」
「ちょっと今更ですか!? これでも妖京大学をちゃんと卒業している立派な大人の妖精なんですよ!」
「なんか衝撃の情報がいくつかあったせいでよくわからないわ」
「パスタと比べてちょっと背が低いからですか!? ちょっとだけ体型が慎ましやかだからなんですか!? それならそっちだってミコッチさんより――」
「よし生地を焼くぞぉおお!!」
熱したフライパンに油を注ぎ、生地を――それっぽい分量落としてみる。
ミコッチが頭に浮かべながら。
『おーっす!』
恨めしや。
やつはなかなかのわがままボディの持ち主だ。
「それで、これはいつごろ焼きあがるものだろう」
「なんて受け身のクッキング!……調べますね」
「ごめんね」
「……なるほど、コツがわかりました。えっとですね、泡のようなものが出てきて、穴が消えなくなってきたらひっくり返すタイミングらしいですよ」
「もうできてるよ?」
「……ひっくり返してください」
「どうやって?」
「もう! 一度教えてもらうと以降完全に受け身になるのやめてください!」
「わかったわかった! ごめんよ……頼りになるなと思ってつい、ね」
「……そうですか」
「――それ!」
パンケーキをひっくり返してみる。なかなか綺麗な小麦色だ。
これは、成功したと言えるだろう。
「やった! いい感じっぽい!」
「おお、やりましたね」
「これだよ! そう、裏を返せばね、私はメシマズではない。こういうちょっとした知識や経験がないだけなの」
「勝手に意味不明なアレンジをすることの説明にはなっていません」
「それはだね、さらに裏を返せば『上手くいけば知識になる、失敗すれば教訓になる』というような、経験を得るための、そういう考えがあっての行動なのです」
「裏の裏は表です!」
「ところがどっこい、裏の裏を見るころには、既に元の裏の姿はないのだよ……なんの話だっけ――あ、ところでこれさ、今度は泡とか穴ができないんだけど、いつ返せばいいの?」
「いつまでひっくり返す気ですか!? 早く皿に出してください!」
「――やべッ!」
というわけで、半分成功、半分失敗。
成功も失敗も米村と分け合っていければ、焦げて苦い失敗も、挟めばひっくり返って美味しくなるような気がする。
うん。ということで、絶対勝ちなのだ。
「『いただきます!』」
「……あっ――これはイケる」
「もしかして味覚オン――」
「はいはい米村あーん!」
「もう……」
「どう?」
「……おいしい、かもしれません」
「よっしゃッ! 二人分の材料で生地用意しててまだ一人分あるから、次はもっとうまくやろう!」
「……それ、私が一人分食べる計算じゃないですか?」
「あれ?」
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