第8話 通り雨の向こう側
私はお昼過ぎになって
あんなに激しく降った雨は嘘みたいに止んで雲の間から陽が差し込んでまるで天使が降りて来るみたいだった。
「あれって天使の梯子」
菜保子が言ってた。
私は菜保子に借りた漫画を返すという表向きの理由を持って出掛ける。
ホントの理由、ただ菜保子の顔を見たかった。
菜保子ん家に行くためのきっかけが欲しかったの。
菜保子の顔が見たかっただけ。
私は菜保子に会いたい。
慰めてあげたい。
菜保子の家のお好み焼き屋さん『菜の花』の前で青い自転車に乗る大地君がいた。
「大地君」
「花園……。菜保子ん家に遊びに来たのか?」
「そう。菜保子に借りてた漫画を返しに来たの」
私は大地君に漫画を見せた。
ほら嘘じゃないでしょ? そんな顔をしながら。
大地君は菜保子に会おうかどうしようか迷ってたみたいだ。
昨日の菜保子と同じ表情。大地君も苦しそうな顔をしている。
「大地君。菜保子に告白したの?」
「なんで花園が知ってるんだよ。まあ俺は菜保子に友達でいたいってあっさり振られたよ」
私は胸が張り裂けそうだった。
菜保子が今も泣いてる気がしたからだ。
「見ちゃったの私。二人が抱き合ってるとこ」
「そうか。俺が無理矢理抱きしめただけだから。菜保子の為にも他の奴には言わないでやって」
そうだ。
二人はこうやってお互いを想い合ってる。
自分自身の事より菜保子も大地君も相手を想うんだ。
「ごめん大地君。私のせいだ」
「なんで花園が謝るんだよ?」
私は大地君が羨ましかったから。
私は真っ直ぐに大地君を見た。
大地君は力強い目をしている。
菜保子を見るみたいな親しさは私には向けない。
だって、それは……。
「私が大地君を好きだって菜保子に言ったから」
大地君は驚いていた。
びっくりした
「あのさあ。花園が好きなのは俺じゃないだろ? 花園が好きなのは……」
「うん、菜保子だよ。大地君には気づかれてると思ってた」
私と大地君は睨み合っていた。
私は女だけど菜保子が、菜保子の事が好き。
私は大地君が憎い。
大地君は私にとって恋のライバルだから。
通り雨の向こう側には虹がくっきりと見えていた。
私と大地君はじっと無言で視線をぶつけ合っている。
大地君が好きな人と私の好きな人は同じだ。
私たちは同じ人を好きになった。
純粋で優しい佐藤菜保子という人を本気で好きなんだ。
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