ガンダムとは、Betamaxである
宇枝一夫
記録と記憶の物語
1981年のあの日。私の家に訪れたモノ。それは
『SONY SL-J1(以下J1)』というβのビデオデッキと、
地元名古屋テレビで放送された、『機動戦士ガンダム(以下ガンダム)』というアニメであった。
この物語は当時高価なビデオテープに、いかにしてガンダムの世界を記録したのか、中三の兄と小五の筆者の血と汗と、リアルタイムにカット編集した親指の物語である。
いつの世も、流行に敏感なのは子供である。
一回目の再放送が行われたガンダムは、プラモデルとの相乗効果で、当時の男子達のトレンドであった。
我らが名古屋テレビは、その空気を感じ取り、すぐさま再々放送を決めた。
私たち兄弟は緊急会議を行い、満場一致で全話録画の決が下されたのであった。
準備として前話の最後までテープを進めておき、ビデオデッキのポーズボタンを押しながら録画ボタンを押す。
こうすることで有線リモコンのポーズボタンを押すだけで、すぐさま録画が開始されるのである。
しかし当時一本数千円もするビデオテープに、ガンダム全四十三話を録画するなぞ不可能に近い……と思う。
そこで兄と私はテープを節約する為、ルールを作った。
録画モードは当然βⅢだ。
その一:CMはもとよりOP、EDはカット。
あたりまえである。
その二:予告編カット。
仕方ない。
その三:アパン(タイトル前のプロローグ)もカット。
どうせコロニーが落ちるシーンの繰り返しだから……って甘かった。
意外と本編のエピソードが入っていたのである。
それを知ったのはレンタルが出回る十年後だったのはいうまでもない……。
さらに!
その四:Bパート直前のアイキャッチもカット。
ここまで!? と思うかもしれないが、実はこれ、意外と重要なのである。
ちなみにAパート終了時のアイキャッチは録画したままだ。
これはCMが終わりアイキャッチが始まることによって、録画ポーズを解除するBパートが始まるタイミングをとりやすく、ストーリーも『Aパート→アイキャッチ→Bパート』とスムーズに進むのである。
では、未だ私の脳内に残っている、βテープコレクションをご覧下さい。
第一巻:第一話~第三話のAパート。
話数が少ないのは録画時間がβⅢで四十五分の『L-125』だからである。
第二巻:第三話のBパート~第十二話のAパート。
ここからテープは『L-500』だったと思う。
実は第十一話の冒頭が(イセリナがガルマの部屋に入る辺りまで)カットされているのである。
本編が始まりポーズを解除し忘れたのかは不明。
第三巻:第十二話のBパート~第二十三話
ここで皆様に謝罪しなければならない。
テープを節約する為、名作(迷作?)と名高い、『再会、母よ』と『ククルス・ドアンの島』はカットしたのであった。
さらに第二十三話の最後の辺りでテープが終了した為、ラスト十数秒が録画されなかった。
ちなみにJ1は録画中にテープが終了すると、テープを収めるカセットホルダーが”ガシャン!”と盛大な音を立てて”上に”飛び出すのであった。
その音を聞いた兄と私は「あ~あ~」と深いため息をつくのである。
第四巻:第二十四話~第三十二話途中。
兄とテープの残量を計算した結果、どうも第三十二話の途中で再びビデオテープがなくなるとの結論に達した。
もちろん当時のデッキにテープ残量表示があるわけがない。
パッケージに記されている録画時間に本編の時間を割っただけである。
よって新しいテープを準備し、本編を鑑賞する。
WBとキャメル艦隊との戦闘中に再び”がしゃん!”とホルダーが勢いよく跳ね上がった!
”それっ!”と兄が新しいテープに入れ替えて、ホルダーを押し下げると、すぐさま私が録画ボタンを思いっきり押す!
うん、見事な連係プレーだ。
ちなみにホルダーも録画ボタンも押すのに結構力がいるのである。
第五巻:第三十二話途中~第四十一話。
再び計算した結果、このまま録画を続けると三度”ガシャン!”となる。
もうあきらめた。
幸いにもララア最期のシーンまでは録画できた。
第六巻。
第四十二話~第四十三話。
これもビデオテープは『L-125』。
お疲れ様である。
改めて読み直してみると馬鹿の極みである。
当時の私ではない。
五十に手の届く私が、三十五年以上前の、しかも今は存在しないビデオテープの中身を詳細に書き記すことができたことである。
ガンダムはよく『宇宙戦艦ヤマト(以下ヤマト)』と比較される。
しかし両者には決定的な違いがあることを私はここで断言する。
蔑む気は毛頭ないし、時代背景が違うから一概には言えないが、果たしてヤマトには、本放送でも再放送でもいい、視聴者一人一人が録画しながらCMカットする方がいたのだろうか?
『アニメ新世紀宣言』。
それはテレビ局から垂れ流されるアニメを、漠然と視聴していたアニメファンが
『アニメを録画する』ことと、
『記憶に刻みつける』世紀の始まりと言っても過言ではない。
ガンダムとは、Betamaxである 宇枝一夫 @kazuoueda
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