夢中




「、、、はあ」





「んっ、、はあっ、好きだよ」






「あっ、、やっ、、んん、、はああっ、私、、も、、」








体中に熱が走る。

彼の吐息と自分の吐息が混じり合って、溶けてしまいそうな感覚。





そして次第に無くなってしまいそうな程きつく胸が締め付けられる






「千夏、、、どうした?」








ーーーー






4月1日

せっかくの入社式なのにどんよりとした天気。最悪。





苛立ちと不安を誤魔化すように思いっきりパンプスを脱ぎ捨て、茶色の病院みたいなスリッパへ履き替えた





あーあ。

めんどくさい。





入社式、早く終わらないかなあ

不安を消すように1人で強がる千夏。





広いオフィスに静かな部屋。

だんだんと同期も集まってくる。

みたことのない人ばかりで鼓動はどんどん高鳴って行く。

けど千夏は平気なフリをして手元に配られた資料に手をつけた。






ペラペラと見てるフリ。

内容なんて全く入ってくるはずがない。

緊張マックスだから。






と、1人緊張している千夏を横目にどかっと知るはずもない男がとなりに座った






「うわ、可愛い子全然いねーじゃん。シケてんなあ」






(え??こいつ何言ってんの??)






私は驚きを隠せなかった。

周りを見渡すなりそう言い放つ男。

さっきの言葉が気になって彼の方を見ると、ちょうど目があってしまった。

はっきりとした目鼻立ち、きちっとしたスーツ、スタイルも文句なし、完璧なルックス。

、、、むかつく。





「なっ、、」






動揺した自分を隠すこともできず

ついに言葉に出てしまった。

すると男はにやりと悪魔みたいな顔で笑った。






「これからよろしくね」







出してきた手を握ることはなく私もニッコリスマイルをした。

自分では全力のつもりだったのに彼からしたら酷かったんだろう。

出した手を引いて悪魔のような笑みが消えて真顔になった。






不穏な空気、、

やば、どーしよ







そんな時ナイスタイミングで髪の少ないバーコードのおじさん社長がマイクで話しはじめた






「えーー、おはようございます、この度は御社に入社していただきーー」






長々と始まるおきまりの言葉の数々に私は目を閉じた。






。。。








「おいっ」






ん?







ゆさゆさと身体を揺らされ目を開くと時間が止まったかのごとくみんなの視線が私1人に集まっていた。







ただ、まずい







「もっ申し訳ございませんでした!」







やられた






ーーー






式は無事終わり。





「お前すごいな!入社式に足組んで最前列でいびきかくって!」






隣にいた男がずっと笑いながらひたすらバカにされる。






「いや、、いつのまにか気失ってて。」






男は笑いながら自販機に小銭を入れ、私の方を見てコーヒーを指差した

それに私は首を振り、






ピッ ガシャン





イチゴミルクのボタンを押すと男は驚いた顔をしてまた笑った






「似合わないな」







八重歯がチラつくかわいい笑顔に少しどきっとする。

私は彼からイチゴミルクを奪い取った。






「ありがとう」





今度は私も負けないくらいニカッと笑うと、彼は嬉しそうに大きくうなづいた






「愛だよ」






「、、え?」






愛??

キョトンとする私に少しめんどくさそうな顔をしたが、また笑う






「俺の名前だよ。中山愛」








「男の子なのに愛って初めて聞いた」







「なかなかいないでしょ。まーそのほうがいーよ。覚えてもらいやすい。」







彼はスーツの胸ポケットからタバコの箱を取り出そうとしたけど私の顔を見てまたポケットにしまった






「吸う?」








「吸わないよ」







即答

なぜなら私はタバコが大嫌い。

両親、祖母祖父みんな吸ってたから幼い頃からいい記憶なんてない。

けどそれは自分が吸いたくないだけであってその他大勢の喫煙者を嫌がってるわけじゃないんだ。






「気にしないから、吸っても平気だよ」





そういうとまた嬉しそうに笑ってタバコを取り出し、吸いはじめた。

この人本当にいい笑顔で笑うなあ。

中山愛、いい同期に出会えたかもしれない。






彼のタバコの煙が空いっぱいに広がった。















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にじいろの世界 @chichisato3

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