第3話
目を冷やし終えると、ぐびっと一杯やった。ボールを追っかけていた、あつい身体が、胃の辺りが、すこーんと涼しくなる。そんな中、1番大きな赤いつつじは水をくれと言わんばかりに見えた。「清涼飲料水は」私のモノだからあげないよと、つつじに主張する。やはりどこかまいっているのだろう。つつじに主張するなんてね。と、笑っていたら、赤い色が好きな理由に、匕背ヒロシのCMのメインカラーが似た色をしてることに気がついた。透き通るかの様な朱色に赤いつつじ。相変わらず、水をくれと、言わんばかりだ。涙なら、あげてもいいよと、とびっきりのことを思いついた。お父さんが泣かした匕背ヒロシで、お母さんが泣いた私の涙を赤いつつじにあげた。これで完璧。このつつじが切り落とされるまで、1番大きな赤いつつじは、ヒロシと私の子供だと私は笑った。誰も知らない1本の赤いつつじと私の内緒のお話。したら、元気がわいてきた。つつじと一緒にサボタージュもいいけど、保健室で目を冷やし終えたら、間に合う授業にでよう。失恋は痛いが『母』は強しなのだから。私は目だたないさまに緑のフェンスに添って、校舎に戻った。音をたてないように保健室を目指す。保健室の先生が誰かと話している内容が聞こえた。「匕背くんが失踪したからって」どうして教室でリストカットするの?と先生が怒っている。同類というよりは、病状の進行度が高めの子も居たんだ。と、興奮していた気持ちが萎えた。けど『母』は強しなんだから、私は逃げずに保健室のドアを開けた。「すみません。目を冷やす氷のうか濡れタオルとベットを」貸してください。と、言えた。
私はリストカットの女子を見ないように気をつけながら「どうかしたの?」と聞く保健室の先生に「涙が止まらなくって」と本当の話をした。先生が私の赤い目を見ながら「こすったわね」と呟き氷のうと濡れタオルを用意してくれた。その(仕事なんだが)優しさに、またうるりとするのを堪えて、私とヒロシの子供になった1番大きな赤いつつじを思った。「泣くのはアソコでだけ」と、思った。
ヒロシのせいでリストカットした女の子を心と体の病院に付き添ってくるからと、保健室の先生は保健室の鍵を机の上に乗せた。そして、女子をガミガミ注意しながら、保健室を出ていった。取り残された私は濡れタオルを両目にあてて、その上に氷のうを乗せた。痛くて気持ち良い感触に『くすり』と笑う自分がいた。嗚呼ぁ、昨日失恋したな、子持ちだけどと。
了
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