第37話王太子の処遇とロレーヌ公爵家

 ドレーブ公爵がカトリーナの婚約者辞退をした後、ロレーヌ公爵は王に呼ばれた。


「ロレーヌ公爵、忙しい所急に呼び出してすまない。

ミーナ公爵令嬢が婚約者候補になっている王太子エドモンドの事について話したいのだ。


 エドモンドは学校でとある令嬢にあい、恋に落ちたそうだ。エドモンド本人が恋に落ちたと言った映像もある。その後迷惑がられているにもかかわらず彼女を追いかけ回して逃げられていた。勿論その映像もある。

 教師達は彼女が逃げる時間を稼ぐために、エドモンドのクラスの時間を少しずらすなどの対策をした。その事によって、学校の生徒達や学校にも多大な迷惑をかけてしまった。

 側近候補のダニエル伯爵子息は王子を止めようと諫めていたが、ジャンは王太子と一緒に彼女を追いかけ回していた。避けられても逃げられてもな。

 ダニエル伯爵子息は、側近候補を辞退していたんだ。伯爵と一緒に登城して、エドモンドを止められない自分は側近候補とに相応しくないという理由で。


 エドモンドは王女達に比べると能力が低い、人望もないしな。

婚約者の決定後、余計な争いの種は摘む為にも王太子は廃嫡、王都から離れた伯爵領で暮らす事になる予定だったんだ。


 だが学校でのエドモンドの言動で、生徒達と親、学校関係者や貴族達、大勢の人間にエドモンドの醜態が広まってしまった。一番の被害者は、エドモンドに告白され、ドレーブ公爵家の養女になる事が決まった男爵令嬢とその家族達だ。彼らは国外へ逃げた。

 王族が自分の欲の為に権力を使い、その結果男爵家に家を捨てさせた。養女に迎えると言った責任を取って、ドレーブ公爵も引退してしまった。


 エドモンドは今城にいるが、そのまま学校は行かせず退学させた。そして王太子廃嫡にし、平民として子爵家で監視されながら暮らして行く事が決定された。

 この事を公表する前にミーナ公爵令嬢は婚約者候補を辞退するんだ。そうしないとエドモンドの婚約者候補として、最悪一緒に子爵家送りになるからな。


 側近候補のジャンに関しては、お前に任せるよ。」


 ロレーヌ公爵はミーナの婚約者候補の辞退申請をし、その場で認められた。

 その後ロレーヌ公爵はジャンが側近候補として王太子を諫めるばかりか自分も一緒に男爵令嬢を追いかけ回していた事の責任を取るとして公爵を辞任し、弟に当主を譲って引退した。

 ジャンもまた爵位は取り上げられて平民として生きて行く事になった。王太子が平民になるのだから当然だろう。ジャンは剣の腕を活かして、万年人手不足の国境沿いの騎士団に入団する。そこで1人の騎士として生涯を終えた。


 王と王妃は、王太子と王女達を呼ぶと王太子に話し出した。

「エドモンド、お前が学校で令嬢を追いかけ回した事で多くの方に迷惑をかけ、周囲からは侮蔑されていた事は知っていたか。追いかけていた令嬢本人にも、嫌がられて避けられていた事はどうだ。


 お前が、令嬢に告白をした為に、男爵一家は国を捨てて逃げる事を選択した。王族の強引なやり方で、貴族に家を捨てさせたんだ。この後貴族達から王家に抗議がされるだろうし、王家に反発心や不信感を持つ者も出るだろう。

 3公爵家の令嬢達も婚約者候補を辞退した。公爵家の後ろ盾を失ったんだ。もうお前を守ってくれるものはいない。


 お前は王族の権力を自分の欲の為に使った。それは決して許される事ではない。

よって、廃嫡し平民の身分にする。この後は子爵家で生涯監視されながら生きていくんだ。

 学校は退学させた。お前は今から王家の一員ではない。」


「エドモンド、あなたは王族だったのよ。自分の言動が周囲に与える影響をきちんと考えなければいけなかった。


 そもそも嫌がられている相手をしつこく追いかけ回すなんて、王族だろうと誰だろうとするべきじゃないわ。恋愛は自分の気持ちだけじゃなくて、相手の気持ちも考えないと。


 誰もが両想いになれるわけじゃないのよ。彼女にとってあなたは迷惑な存在だったの。

権力のない王族ならはっきりと断って終わるわ。でも王族に対して、自分や男爵家の事を考えたら迷惑だなんて言えないじゃないの。


 だから態度で示したんでしょう。嫌な相手だから逃げて避けていたのよ。どうしてそんな事すらわからなかったのかしら。」


 悲しそうに自分を見ている王と王妃、自分が嫌われているという自覚のなかったエドモンドは呆然としていた。そのまま何も言えずに、近衛兵が来ると黙って出て行った。


 王はため息をついた。その後、王女達に話しかける。

「暫くは、慌ただしくなるだろう。2人とも王家の信頼回復の対応をよろしくな。

落ち着いたら、2人の婚約を考えて行かないといけないな。」


 王がそういうと、王妃が苦笑いをして第2王女を見ている。

「ああ、あなたの他国へ嫁ぐ話は白紙に戻ったわ。

エドモンドの件に対する私達の対応の仕方等、国の状況を見てから判断したいそうよ。」

 嬉しそうに笑う第2王女を見て、今は白紙になだけだがなと王は呟いた。


 王達と話し終えた後、そのまま馬車へと連れていかれたエドモンド。

 子爵邸では屋敷の横にある小さな小屋を与えられた。

 平民として生きていくという事はすべて自分でやらなければいけない。子爵家はあくまでエドモンドの監視役だという説明を受ける。

 掃除や洗濯に食事等、やり方を教わり徐々にできるようになっていくエドモンド。周囲の評価も陰口も聞こえないこの環境は、エドモンドにとって幸せだったようだ。

 窓から見える風景を紙に書き溜めているのを見た子爵は、エドモンドに画材道具を贈りエドモンドは殆ど一日中絵を描いて過ごした。


 その様子を両親から聞いた第1王女は、エドモンドは王族にさえ生まれなければ幸せな暮らしを出来たのかもしれないと思う。

 自分の能力が足らないと思って苦しみ、乗り越える努力をせずに逃げる位なら、もっと早く自ら王族の継承権を捨てて生きる事を選べばよかったのに。

 彼がやった事は、王家の信用に傷をつけ男爵家を潰し2公爵を引退に追い込んだ。他にも様々な人に迷惑をかけただけ。そんな彼は、今は絵を描いて幸せに暮らしている。

 第1王女は考え込んでいた。


 数日後、マリーが今暮らしている国が分かった、男爵家とは別行動で街の中で苦労しているらしいという手紙がエドモンドの小屋に投げ込まれた。

 最近では監視も緩くなっていた為、エドモンドは身の回りの物を持つと小屋を抜け出し、マリーのもとへと向かっていった。

 子爵の屋敷を抜け出したエドモンドは、そのまま行方不明となった。

 

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