第35話王太子の告白とマリー達の逃亡

 王太子は学校に着くと、マリー嬢に話があると学園の応接室に呼び出した。

王太子からの呼び出しにさすがに無視は出来なかったマリーは応接室へ向かう。


「忙しいところ、呼び出してすまないマリー嬢。今日は君に話があるんだ。

とりあえず、座ってくれ。」

「いえ、このままで結構です。どういったご用件でしょうか。」


「レティシア・バレット公爵令嬢が俺の婚約者候補を辞退し、カトリーナ・ドレーブ公爵令嬢が婚約者候補辞退の申請をしたのは知っているかな。

 バレット公爵令嬢は、ルーサー・ページ伯爵との婚約も発表したな。


後はミーナ・ロレーヌ公爵令嬢だけだが、彼女はロレーヌ公爵家の人間だからこちらが辞退するように言えば辞退するだろう。王家に忠誠心の厚い家だから。


 実は内内に、ドレーブ公爵が俺達の事に対して支援してくれるそうだ。マリー嬢を公爵家の養女に迎えてくれる。これで身分の問題も婚約者候補達の問題も解決した。


 マリー嬢、俺と結婚を前提につきあってほしい。」


 青ざめるマリー、さすがにここで嫌だとは言えない。今出来る事は、少しでも長くこの後の時間を稼ぐことだ。


「突然の事で驚いています。少し考えさせてください。家族とも相談したいですし。」

「そうだな、分かった。ではまた違う日に時間を設けて話し合おう。

ただ、俺の気持ちが真剣だという事はマリー嬢に分かってほしかったんだ。」

「はい、失礼いたします。」

 退出するマリー。部屋を出ると急いで男爵家へと向かっていった。


 突然の帰宅にどんな厄介ごとがあったんだろうと思う男爵家。

青ざめいているマリーが真剣な表情で男爵家一家に話し出す。


「先程、王太子に結婚を前提につきあって欲しいと言われました。俺の真剣な気持ちを私に分かって欲しかったとも。

公爵家への養女話も、ドレーブ公爵がすでに王太子に話しています。王太子はご存知でした。」


「養女にもなってないのに、いきなりつきあって欲しいというなんて。しかもまだ婚約者候補は2人も残っているじゃないか。マリーはなんて答えたの。(ここまで馬鹿だとは思わなかった。王達は一体どんな教育をしたんだ)」

 疲れたような表情をしたダンは、マリーに聞く。

「少し考えさせてほしいと。他に思い浮かばなかったので。」

 申し訳なさそうに答えるマリー。

「まあそうだよね。他に答えなんて思い浮かばないよ。」

 ダンが、両親を見ると2人は頷いた。


「マリーは学校は諦めて。愚図愚図している暇はない。今すぐ逃げるぞ。

マリーの休学届も出す余裕はないな。

 マリーはすぐに学校に向かうんだ。転移陣や地図等の逃げる準備は整えてあるね。

馬車の中で転移して逃げるんだよ。学校につく前に転移するんだ。

 王太子が監視していて身動きが取れなくなる可能性が出てきたからね。


 俺達もマリーが家を出たら直ぐに転移する。マリーの祖父母にも知らせが届くだろう。

この家の人間もマリーの祖父母達も皆いなくなるからね。


 気を付けて。マリーなら逃げ切れるだろうが充分に注意して行くんだよ。

マリーの今後の人生が幸せであることを願っているよ。元気で。」


「マリー、私達も君の幸せを願っているよ。体に気を付けてな。」

「元気でねマリー。マリーの人生に祝福がありますように。」

 抱きしめ合うマリナとマリー。


「今まで、お世話になりありがとうございました。

最後まで私の事を大切にして下さって本当に感謝しています。

 私のせいで男爵家の皆様に家を捨てさせるような事になり本当に申し訳ございません。


 皆様の今後の幸せを、願っています。お元気で、さようなら。」


 そういうとマリーは家を出て行く。男爵家の皆も外に出るとにこやかに声をかける。

「マリー嬢、おめでとうございます。こちらは準備を進めるから安心していいよ。

これからドレスや何やら色々準備しないといけないな。」

「ありがとうございます。男爵家の皆様のお気持ち嬉しいです。」


 家の前で、喜びあう男爵家の姿を周囲に見せるとマリーは馬車に乗り込んだ。

マリーを見送ると早速ダンはマリーの祖父母に、マリーが王太子に告白されたと伝える。喜び合って話を終えると使用人を集めた。


「以前マリー嬢が公爵家の養女になる話をしたと思うが、今日マリー嬢が王太子殿下に告白された。公爵家への養女話が進むことになる。忙しくなると思うが皆準備を頼む。」

 モコノ男爵が話すと、使用人達は全員頷いた。

誰が聞いているか分からないので逃亡する時に話す言葉をあらかじめ知らせていたモコノ男爵。


 モコノ男爵の話が終わると皆自分の部屋へと向かっていった。荷物を纏めた男爵家一家と使用人達。

 全員広間に集まると、男爵家一家とついていく使用人達は、転移陣を使って国内の隠れ家へと飛ぶ。何台かの馬車に乗り込むと、こっそりと国境を越えて行った。


 男爵家一家と使用人達を見送った後、残った使用人達はすぐに4台の馬車へと乗り込む。この時の為に中古の馬車を用意していた男爵家。

残っていた使用人達は全員実家に帰るのだ。次の仕事も男爵家の紹介ですでに決まっている。

 使用人達が乗り込んだ馬車は、囮の意味もあったので、一度国境近くまで行った後にそれぞれの実家へと向かっていった。


 マリーの祖父母もすぐに移動した。店はすでに別の人間に売却済みだ。祖父母達は不安な気持ちを押し殺し観光に行く老夫婦のように国境を超えると隣国へ入国した。

 自分達の商会へ着くと、隠れ家に転移する。

「どうか、マリーが無事にここまでたどり着けますように。」

 2人ともマリーが来るまで祈り続けていた。


 マリーは馬車の中で準備をすると直ぐに転移した。マリーの転移した先は国境近くの森の小屋だ。ダンが盗賊の避難地として準備していた小屋だが、今まで使う機会はなかった。

 マリーは服を着替えると髪の毛をきった。

「私達が逃げたと知られるまで、時間が無い。」


 マリーは全力で走っていた。森は隣国の国境に接しているが検問所がある。

検問所の前で、マリーは待機していた祖父母の商会の若い夫婦と落ち合う。マリーはこの夫婦の娘のふりをして無事に隣国へと入国した。

 入国すると直ぐに隠れ家へと向かう。無事に祖父母と再会できたマリー。3人は再会を喜び暫く抱きしめ合うと別の国へと向かうためにすぐに出発した。


 マリーの乗った馬車が学校に着く。暫く待っても降りてこないので不審に思った御者が馬車の中へと声をかけた。返事がない事に不安になるが、御者の身分で勝手に開ける事は出来ない。

 馬車を裏へと回すとメイドを呼んでもらって、馬車を開けてもらう。

 そこには誰もいなかった。すぐに学校に知らせると、なぜか王太子が走ってきた。


「何があったんだ。マリー嬢が消えたと聞いたが、どういう事か。」

「分かりません。馬車には乗られたんですが、学校に着いた時には乗っていなかったんです。」

 すぐに御者が調べられ、馬車の走ったところも捜索された。男爵家へ使いの者達が向かうが門が閉められていて誰も出てこない。


「マリー嬢は見つからないのか。」

 苛々している王太子に、治安維持部隊の隊長が報告する。

「マリー嬢を載せた馬車が通った所は人通りの多い道だけで、誰も馬車が襲われたりマリー嬢が馬車を降りる所は見ておりません。馬車はどこにも止まりませんでしたし、人の目があるところなので不審な事があれば目撃情報が上がっています。

 男爵家も門を閉ざし誰も出てこないのです。男爵家に立ち入るには貴族の方の許可が必要ですが。」

 そういうと、書類を何枚か差し出す隊長。それにサインすると王太子が命じる。

「男爵家への立ち入りを認める。早く手掛かりを見つけ出せ。後、ドレーブ公爵にも知らせろ。」

「はい。ドレーブ公爵ですか、同じ派閥でしたね。男爵家と。」

「そうだ、マリー嬢はドレーブ公爵家に養女に入って俺と婚約するはずだったんだ。未来の王太子妃だぞ。全力で捜査しろ。」


 つまり、マリー嬢は王太子が嫌で逃げたのか。事態が分かり途端にやる気をなくした隊長達。どうせ貴族が出てくるんならゆっくり捜査するか、時間稼ぎをしてやろう、そう思った隊長達は、ゆっくりと男爵家まで歩いて行くことにした。


 男爵家へと着くと、出来る限り時間を稼ぎながら中へと入っていく治安維持部隊。屋敷内を探索するも誰もいない。家具も必要最小限になっており高価な物は1つもなかった。

「隊長誰もいません。男爵家は家も身分も捨てたようですね。この後どうしますか。」

「きちんと丁寧に捜索しろ。ドレーブ公爵家の私兵か王太子殿下の家来に引き継ぐ事になるんだからな。引継ぎの兵が来るまで、屋敷内の捜索だ。」

「わかりました。丁寧に捜索します。聞こえたな。引継ぎまで丁寧に捜索だ。」

 治安維持部隊は、引継ぎまでのんびりと屋敷内を歩き回った。


 知らせを受けたドレーブ公爵は、すぐに王太子の所へ駆けつけた。

「マリー嬢がいなくなったと伺いました。今捜索はどうなっていますか。」

「男爵家に入った治安維持部隊からは、誰も人がいないので不審な点が無いか丁寧に捜索していると報告された。馬車でも移動中も不審な点もなかったというし、どこへ行ってしまったんだマリー嬢。俺が告白してすぐに消えてしまうなんて、きっと攫われたんだ。」


 叫ぶ王太子を無視しながらドレーブ公爵は真っ赤になって怒っていた。(逃げたな。男爵家の令嬢が我がドレーブ公爵家の養女になれるんだぞ。それなのに逃亡するとは、当家に恥をかかせたあいつらは絶対に許さん。絶対に捕まえる。)


「王太子殿下、国境に知らせは送りましたか。」

「いや、そうか賊が国境を越えてしまうかもしれないな。すぐに国境を封鎖しろ。」

「恐れながら、国境封鎖は王の権限が必要です。

おい、国境の兵士達にマリー嬢と男爵家の事を伝えて探させろ。隣国と面している森などの捜索もだ。王太子殿下私は捜索に向かいますので失礼します。」


 公爵が自ら捜索に向かうと聞いて、王太子は公爵に感謝するとともに、自分も何かできないかと考える。こういう時に助けてくれる人がいない事を悔しく思いながらも、自分の護衛達にマリー嬢の捜索を命じた。護衛の大部分を捜索に出した為、王太子は王宮へと戻っていった。


 公爵家の私兵と王太子の護衛達が捜索するも男爵家の人間達は誰も見つからなかった。

「分かったのはこれだけか。マリー嬢のような少女が若い夫婦の娘のふりをして隣国に入国した可能性が高い事。マリー嬢の祖父母がその少し前に観光旅行として隣国へ入国。

祖父母の商会と家はほかにも複数の国にある事。現在行方不明。

 男爵家一家と使用人達も隣国へ入国。その後は行方不明。一部の使用人達は実家へと帰っているがロレーヌ公爵家の領の人間には手が出せないじゃないか。

 他に何か良い情報はないのか。」


 怒った公爵が何かをたたき割った音がした。別室で話を聞いていたドレーブ家の子供達。

「いよいよだな。準備はいいか、いくぞ。」

 3人とも頷いた。


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