第27話王太子達とマリー 中等部入学
いよいよ今日は、王太子とマリー達が中等部に入学する日だ。
これからの3年間でレティシアが人質として他国に送られるかどうかが決まる。
レティシアは、朝から緊張していた。部屋で1人でぶつぶつ言っている。
「この私が人質なんかになってたまるもんですか。
私達が入学するまで、マリーを苛めたりしないように、交流会で貴族の差別意識を消し、派閥の仲も良好になるようにした。王太子達にはかかわらない様に注意して、彼らの振る舞いはすでに上の方で問題になっている事もさり気なく伝えてあるし。
それに、マリーの評判を聞く限り映像のような子じゃないのよね。むしろミーナ様の方が似ている気もする、まあミーナ様は今は良いのよ。
準備は万端、後は注意深く見守って、軌道修正していくしかないわ。」
映像と同じなら、今日の入学式で王太子とジャンがマリーを見て一目ぼれするのだ。
そして、王太子がマリーに自己紹介して名前を聞く。そこから2人は恋に落ちて、2人で一緒に過ごすようになる。それを不快に思った私達がマリーに嫌がらせをしたり苛めたりする。
そして、最後卒業式の時に、私達婚約候補者は、マリーへの虐めの責任を取らされて婚約は破談。私達は他国へ人質として送られ、王太子とマリーが結婚して幸せになる。
映像を思い出し、なんだか苛々してきたレティシア。一通り心の中で悪態をつくと、スッキリし落ち着きを取り戻す。
数日前レティシアは、中等部の派閥の子供達を招いて、彼らの考え方や振る舞い貴族との関わり方等を細かくチェック、最終確認をしたのだ。
そして今日レティシアは、中等部に親戚の子がいるメイドを入学式に参加させていた。準備は万端。彼女からの報告を待つだけだ。
中等部の入学で、久しぶりにジャンに会えた王子は、嬉しくて少しはしゃいでいた。
「ジャンが謹慎させられるなんて間違ってる。俺の力が足らないばかりにすまない。
あの件は俺の評判を落とす為の罠だったんだ。王女達の評判が上がったのが証拠だな。」
王太子が自分達の考えが間違っていたという事実を認められず、自分の思い込みを事実であると思っている事が周囲の人間に伝わっていく。
ダニエル・トーン伯爵子息は、正直王太子はもう駄目だと思っていた。支持する相手を間違えたが、決めたのはトーン伯爵だ。どうしようもない。
「殿下、ここは人目があります。そのような事をここでおっしゃって、他の生徒が巻き込まれたら可哀想ですよ。」
「そうだな、本当にダニエルは優しいな。この話はもうやめよう。」
王太子達は話しながら歩いてると、前にきらきらと輝く金色の髪の少女がいるのに気がつく。魅かれるように少し早足になって追いつくと、金髪の長い髪と金色の目の美しい少女マリーだった。思わず見とれるが、すぐに話しかけようとした王太子。
その時マリーは、何か思い出したような表情をして慌てて去っていった。
「なんて可愛らしい子なんだ。あの子と一緒に過ごしたい。これが恋か。」
同じように少女に見とれているジャンと、あきれ返り固まったダニエル。
そしてそれを目撃し、しっかりとその映像を魔道具に収めたレティシアのメイド。
王太子達に気付いたマリーは焦っていた。
初等部を飛び級して中等部に入学した為、問題児の王太子とジャン・ロレーヌ公爵子息が同学年だとダンから聞いていた。ダンにはなるべくかかわらないで欲しいと言われた。
勿論、関わるつもりもなかったし、王太子や伯爵子息と男爵令嬢が関わることなんてないと思っていた。でも王太子達の自分を見る眼差しから、好意を抱かれたのではないかと思ったマリー。まさかと思うが、相手は王太子だし念の為男爵家に知らせる事にした。
知らせを聞いた男爵家では、どんよりと重い空気が漂っていた。
「何か嫌な事が起こるのではないかと思っていましたが、予感的中ですね、お父様、お母様。
王太子の身分で男爵令嬢に見惚れられても、マリーにはトラブルにしかならないのに。
あの王太子ですから、万が一、王太子がマリーとの婚約を望んだらどうするのか、対応を考えなければいけないと思います。
マリーが婚約を望むなら他家への養女で可能になると思いますが、望まない場合は最悪、皆で逃げるしかありません。マリーの祖父母の力も借りた方が良いでしょうね。」
「そうだな、まずはマリーの気持ちを確認しよう。」
同じ女性同士話しやすいだろうという事で、マリナ男爵夫人が話をしに学校に行くことになった。いきなり行くと目立つから、1週間後に面会を申し込むことで決まった。
レティシアは帰ってきたメイドから報告と映像の魔道具を見せて貰う。
メイドを下がらせたレティシアは喜びの余り口に手を当てて叫んだ。そして魔道具をもって両親の元へと凄い速さで歩いて行った。(公爵令嬢レティシア、大声を出したり走ったりはしない)
「お父様、お母様。とても嬉しいお知らせです。」
「そうでしょうね、よく分かるわ。レティシアを見れば。」
「フフフ。冷静でいられるのも今だけですわよ。これはとても驚くと思います。」
不気味な笑いのレティシア。少し引いている両親は、レティシアから魔道具を渡され王太子がマリーに恋に落ちる映像を見る。
「これは、よく言ってくれた。凄いじゃないか、王太子殿下。さすがだな。(残念王子)」
「確かに、レティシアが大喜びなのも納得ですわ。素晴らしい(馬鹿)ですわ。」
「そうでしょう、そうでしょう、フフフ。」
家族3人思わず手を取り、笑いながら喜んでいる。
「王太子殿下の恋ですものね、当家は辞退して王太子殿下の幸せを。ね、ハワード。」
「ああ。早速、これを王に見せて、婚約者候補の辞退を再度申し込まないとな。」
「ええ、例え又駄目でも、王太子殿下がこのような事を積み重ねてくれたら、思ったより早く辞退できそうですね。あなた。」
「これからの、王太子殿下に期待だな。彼ならきっと、何かやってくれる。
こんなに彼に期待するのは初めてかもしれん。」
「でも、ジャン殿も恋に落ちたような顔でボーっと立っていました。
それと私は、ダニエル・トーン伯爵子息がどう動くかが気になりますわ。」
「ジャン殿と王太子殿下で恋のライバルとして、対決するかもしれないな。今後は注意深く様子を見守らないと。あの女の子とダニエル・トーン伯爵子息の事は何か知っているかな。」
レティシアは両親にマリーの初等部でのトラブルの話と解決した手腕に飛び級、新しい友人達とマリーの可愛らしさが原因で女性の友人と上手くいかずに疎遠になった事、現在のマリーの友人関係等を説明。
「マリーさんの対応は貴族令嬢として素晴らしいと思いますわ。
確か、従兄のダン様も飛び級していて、騎士を目指す子供達の為に騎士志望の友人と初等部に訪問していたと聞きました。大人気だそうですよ。少ない魔力でも戦術と剣で、模擬戦では負けなしだそうです。
後、ダニエル・トーン伯爵子息ですが、ミーナ様の幼馴染で小さい頃はよくジャン殿も一緒に3人で遊んだそうです。彼は優しく皆に好かれる人物で、ミーナ様が騎士団に入りたがっているのを知っていて応援してくれているそうです。」
「ダニエル・トーン伯爵子息は、王太子の横で目立たないが、策略家タイプだな。前回のパーティーでも彼がいたら、王太子がジャンの加勢に行くことは止められたかもしれない。
だがなぜ彼がミーナ様の応援をするのだろう。言葉だけなのか、それとも何かほかにあるのか。調べてみるか。」
「あなた、マリーさんの事はどうするの。当家としては彼女と王太子が婚約しようとしなかろうと、どちらでもいいのだけれど。」
「あそこの家は余り近づきたくはないんだよ。彼らの事は王弟に投げて当家は関わらないようにする。
レティシアは交流会でお友達から話を聞き、お友達には彼らに関わらずに放っておかせるように。遠くから見守るだけにさせるんだよ。
彼らに関わると王太子かトーン伯爵子息が、何か罠をしかけて、婚約者候補達との婚約予定を反故にするのに利用するかもしれない。マリーさんに嫌がらせをして襲わせたと糾弾するとか。
派閥内に、行動には細心の注意を払い警戒するように連絡を回すか。この3年間は特に気を付けないとな。」
「それが良いわ。話は変わるけれど、レティシア。魔法研究の方は順調かしら。」
「はい、お母様。騎士団やルーサー様のご協力のおかげで、中等部卒業の頃に発表できますわ。飛び級の準備も順調です。不安だった模擬戦も騎士団の方のおかげで自信がつきました。」
「それは良かったわ。私達の方は、隣国で家と商会を購入したから、後は予備の家と商会をもう1つ違う国に購入するわ。まだこの国ほどの利益は出せていないけれど、私達なら小さいな商会からでも何とかなるものね。」
「後、カトリーナ様のお兄様達が家に戻られたそうです。辺境領はすっかり生まれ変わったようですね。
カトリーナ様が言うには、お兄様達は王太子殿下との婚約には反対の立場との事で、公爵と対立しているそうですわ。」
「そうか、暫くは双方膠着状態だろうが、こちらも注意深く観察せねばな。
となると、婚約候補者がミーナ様だけになって、ミーナ様が婚約者となるかもな。」
話が終わると、ハワードは王への謁見と派閥に連絡をする為に部屋を出て行った。
メリーナとレティシアも、自分達の部屋に戻っていった。
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