第25話レティシアの研究と戦闘訓練

 中等部からは戦闘の実技授業があり、模擬戦の授業も含まれる。模擬戦では生徒同士の魔法や武器を使っての戦闘となる。勿論大きな怪我等しない様に、その際は騎士や医師が派遣され万全の準備がされる。


 婚約者候補達は、普通に戦闘授業だけ受けるのならば問題ない。だが模擬戦の際に、婚約者候補達が万一怪我でもしたら、彼女達にとっても大変な事になるし、怪我をさせた方も学校の授業だったとはいっても別の所で何かしらの被害は受けるだろう。


 王族の都合で同学年より1年年下となる彼女達が模擬戦で不利にならないように、騎士団の指導者を模擬戦用に派遣することになった。


 レティシアは飛び級するつもりだったし、飛び級には戦闘試験もある為、騎士団との訓練があれば確実に合格できると喜んでいた。 


 だが、騎士団の訓練は想像を絶する辛さだった。彼らは模擬戦で怪我をしない様に彼女達を鍛えるようにと王に言われている。

 中等部になると進路を決めて騎士団にはいる為に個別に練習している者達もいる。実力者が出てきても余裕をもって対応できるくらいの力が必要だ。


 教官達は、念の為騎士団の1年目と同等の力をつけさせることにした。

幸いにも彼女達はマナーや社交等の時間は大幅に短縮できる。護身術の時間は基礎訓練の時間に変更され、対戦練習や戦術講義等の時間も追加された。


 騎士になりたいミーナと飛び級したいレティシアは、辛い訓練に負けずどんどん実力を伸ばしていき、2人に何とか追いつきたいカトリーナも必死に訓練をこなしていった。


 魔力量が普通のレティシアは、魔力を込める炎を小さくして威力を上げた炎を造る。

炎をいきなり目の前に出し、目くらましで隙を作り剣で攻撃。

感知されにくい小さい炎を、突然相手にぶつけ動きを鈍らせると、フェイクで剣を振り火魔法で攻撃する等。様々な戦術を考えながら訓練している。


 カトリーナは剣が苦手な分、魔力量が多いので土魔法を使い壁や石礫を出し相手にぶつける。突然土を相手の足元に出し、バランスを崩させ上から石で潰す等、魔法を重点的に戦っていた。だが教官に、戦術が単純すぎると言われ悩む。

 レティシアに相談すると、苦手な剣をフェイクにして短剣を隠し持って戦ってもいいのではないかとアドバイスされる。レティシアも剣だけだと不安でコッソリ短剣の練習をしていたのだ。幸い短剣はカトリーナに扱いやすく、すぐに馴染んで魔法と剣と短剣を組み合わせた戦術で訓練をしていった。


 ミーナは幼い頃から剣に慣れ親しみ、剣だけは新米騎士にも負けない。だが魔力量が少ないため魔法攻撃ができず戦術の幅が広がらずに悩んでいた。

教官達は剣では問題ない為、魔力量に関してはどうしようもないと考え何も言わなかった。

 レティシアに相談しても、戦闘はミーナの得意分野なのでアドバイスは出来そうもないと言われてしまう。レティシア達が、フェイクや目くらましを使うのを見て有効な策だと分かっていたが、騎士の家に育ったミーナは卑怯に感じてレティシア達の戦法を使えずにいた。


 そこに、1人の教官が話しかけてきた。自分の派閥のリーク・バーナー伯爵だ。

「我々騎士は守るべき方を助ける為には何でもするんですよ。

 勿論表向きには正々堂々と戦っているように見えるでしょう。だが、相手の足をひっかけたり、態勢を崩させて後ろから攻撃する事もあります。戦い方が汚いとか卑怯だの言ってやれることを全てやらないで負ける人間なら騎士にはなれませんよ。

 汚い仕事であろうと自分の信念より主を優先する事も必要になることがありますからね。

 ミーナ様も勝つ為に、出来る事を全てやられた方が良いのではないでしょうか。そうしないと今にレティシア様やカトリーナ様に負けると思いますよ。(令嬢という立場や汚れる事など気にせずに、傷だらけで訓練を続けてるあの2人。すでにミーナ様を抜いていそうだ。)」


 そう言われてもなかなか踏み出せずにいるミーナ。同じ派閥で尊敬する公爵の娘であるミーナの為に、バーナー伯爵はレティシア達とミーナとの試合をする事をレティシア達に伝えた。


「バーナー伯爵はミーナ様の派閥の方ですものね。不調なミーナ様の為に、他の派閥の公爵家令嬢たちを踏み台として利用させようと考えるのは当然ですが、どうかしら。」

 そういうレティシアに、バーナー伯爵は皆の実力を見る為で騎士として皆を同等に接していると説明する。

「実力を見るのなら相手は騎士でしょう。私達がミーナ様と試合をしても、私達にとって何の利益になるのでしょうか。バーナー伯爵の顔を立ててあげて貸しを作れるという事以外に。」

 カトリーナも負けずに言う。図星を指されてすぐに反論できずにいるバーナー伯爵。


 この派閥って皆似ているけど大丈夫なのかしら。ミーナが卑怯な手を使いたくないのなら自分で何とかするべきだと思う。そもそも勝つ為に必死な自分に向かって卑怯などと思っている相手の為に動く気はない。少し不機嫌になるレティシア。


「カトリーナ様、私はバーナー伯爵に貸しを作っても、意味がなさそうですわ。

バーナー伯爵、私、分刻みのスケジュールで忙しいんですの。

 1人の令嬢のみの為に行いたいならば、あなたが使える方を用意するべきです。私はあなたに使われる立場ではございませんの。」

「使うなどというつもりはございません。ただ、少し時間を割いてほしいだけなんです。」

 続けて言おうとしたバーナー伯爵を遮ってカトリーナも話し出す。


「私もレティシア様と同意見ですわ。あなたの態度は公私混同ですわ。教官のあなたが1人の令嬢の為に他の令嬢を利用する。しかも中立であるべき騎士団の教官。

 ロレーヌ家の派閥はロレーヌ子息と言い随分と横柄で傲慢な方が揃ってますのね。ジャン様は、無実の令嬢に立場と権力を利用して謝罪を強要したとか、王太子殿下まで巻き込んで。


 まあ、それはともかく。バーナー伯爵、私があなたの本心を気付けない相手だと思い、私の事を馬鹿にしているのかしら。」


「バーナー伯爵、私達は必要だから休憩しているのです。脳と体を休めて体力気力を回復しなければ動けませんもの。休憩しなければ集中力が減り、良い結果が出ません。


 街への遊びもそうですわよ。街や他国の流行を知る事は情報を得るうえで重要です。

例えば今年は街でお菓子が流行っている。それは砂糖等が豊作で値段が下がっているから、つまり砂糖を生産している領が裕福になり力を増す事が分かる。

レストランでメニューを見れば、市場にある食物の量や出荷している領の状態が分かる。

物価高で品物が売れないとなれば、我々が買い物をしてお店を維持させる事もする。


 誰にでもわかる例を述べましたけど、色々な情報を得る為に私達は街に出て見聞します。

遊びにも全て意味があるのです。

 息抜きや遊びにこういう事を含めなければいけない程、時間が無いとも言えますが。

ですが、決して不満に思っているわけではありません。多くの貴族の子供にとってそれは当たり前の事ですから。」

 レティシアの迫力に押されて、何も言えなくなってきているバーナー伯爵。


「休憩が終わりますわ、レティシア様。バーナー伯爵、私達はミーナ様と試合は致しません。」

 そう言うと2人とも練習に戻っていった。


 2人は特に不満を訴えなかったのでバーナー伯爵は、そのまま教官として訓練の指導を続けたが、自分が何を言ってもミーナの為なのではと思われて信頼されなくなったと感じていた。

 レティシア達は自分達に取って良い意見だと思えば取り入れていたのだが、バーナー伯爵は最後までそこに気付かず、後で同僚から教わることになる。


 ミーナは結局、剣のみでしか戦う事が出来ないまま訓練は終了した。


 レティシアとルーサーは、途中から魔力量研究は研究中として内容を他の人には一切漏らさなくなった。レティシアとルーサーは相談した結果、レティシア達が卒業した後に、研究の成果を発表することにした。


 騎士達からの報告を聞いた王と王妃は、自分達の予想より彼女たちが強くなっていることに驚いた。騎士を目指すミーナの事は強くなるだろうと思っていたが、レティシアとカトリーナは勉強は得意だが戦闘の方は普通だと思っていたのだ。

 それが、騎士団の1年目と互角に戦えるまでになってしまったのだ。

一体なぜ、彼女たちはそんなに必死になったのだろう。まさか、あの二人までも騎士志望に変わったのかと王と王妃は複雑な気持ちになり、相談した。


 起こった事は仕方ない、悪いわけではないがこれ以上は強くならないでほしい。


 これなら、入学試験の際の戦闘試験を、在学中一度だけの模擬戦参加にしてしまおう。

彼女達は婚約候補者として危険な立場でもある。戦闘の能力を、何度も見せて敵に攻略されるのを防ぐ為、戦闘の授業の成績は、入学試験の模擬戦で判断する事にしよう。

 模擬戦も何度もすると事故が起こる確率が上がる。


 中等学校にこの決定を通達、模擬戦の相手を3年生から選ぶように指示した。つまり、レティシア達は、中等部ではこの1回の模擬戦で戦闘授業は終了する事になった。


 この事を聞いたレティシアは、戦闘授業の飛び級と同じ扱いにならないのか、ハワードに確認してもらう。話を聞いたハワードは、飛び級ではなくて授業卒業にして貰おうと思い、王と王妃に学校関係者達から模擬戦後戦闘クラスを卒業する許可を貰った。


 ハワードからこの事を聞いたレティシアは、婚約候補者教育で皆に知らせる。どうせならもっと鍛えて、文句を出させないくらいに強くなろうとカトリーナと決意した。

「3年生なら、ミーナ様のお兄様ジャン様位の実力者が出る事もあり得ますわ。今のように1年目の騎士団と互角では勝てないかもしれません。」

「そうですわね、もっと頑張らないと。」

 3人とも中等部入学までに、出来る限り実力をつけたいと、今まで以上に熱心に取り組み強くなっていった。


 カトリーナはレティシアのアドバイス通り両親を説得して、また薬学の先生に勉強を教わる事が出来た。お礼にレティシアを薬園に招待する。


 レティシアとメイドは薬園を見学した後に、メイドから少し離れて2人で話をしていた。


「レティシア様が仰っていた、交流会の解決案に少し変更して試してみました。

 テーマを決めた討論会を行ったんです。結果互いに知らなかった事を学べたり、まだ協力関係には遠いですが、お互いの存在を認めあえるようになりつつあります。


 レティシア様、ありがとうございました。婚約候補者がレティシア様で良かったです。足を引っ張り合うより、協力すれば自分を高める事にもなりますし、何より一緒に苦労して乗り越えるのって楽しいですね。」

「会の問題が解決しつつあるのは、私の言葉ではなくて、カトリーナ様の努力の結果です。

私も、カトリーナ様のような素晴らしい方が婚約候補者で良かったですわ。カトリーナ様、きっとこの訓練は楽しい思い出になりますわ。」

 微笑み合う2人、レティシアの帰宅までそのまま楽しそうにお喋りしていた。


 レティシアは薬園の様子を両親に報告すると、一緒に行った薬草等に詳しいメイドと両親達の話し合いが始まったので、部屋へ戻った。


 映像と随分違ってきている。カトリーナ様とも距離が近くなっているし、私の研究やカトリーナ様の薬に私達の戦闘授業免除。

 私が飛び級したら結構変わると思うんだけど。

無理だったら、最後は他国へ留学ね。あの2人は学科の飛び級するのかしら。


 後は、カトリーナの兄達は左遷された後戻ってきてないから、彼らが戻ってくればさらに映像と違う未来になる可能性が高くなる。でもこれは私には無理だわ。

 せめて、カトリーナ様にお手紙を出してもらって、早く帰ってきてとお願いしてもらおう。


 レティシアはカトリーナに次会う時に伝えようと思いながら眠りについた。



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