第24話婚約者候補達

 婚約候補者教育が始まって暫くたつと、3人とも随分打ち解けてきた。

 レティシアとミーナがカトリーナと積極的に話していたからだろう。休憩中は2人でカトリーナを間に挟み、互いの興味や好きな事等お喋りを楽しみ、護身術の訓練にもカトリーナは参加することになった。


 1年を過ぎた頃、カトリーナから派閥の子供達との接し方について相談を受けた。2公爵家が交流会を開催している事とマリーの件で派閥内がごたごたしているので、ドレーブ公爵に交流会の開催を命じられたのだ。

 交流会は、腹の探り合いでお互いに出し抜くことを考えているし、親が下の者が上に従うのは当然と考えている為、子供達も同じ考えで、貴族と平民の子の関係があまり良くないのだ。

「レティシア様達の派閥の子供達はとても仲が良さそうですよね。羨ましいです。どの様にして、纏めているのですか。」

 ミーナは困ったように言う。

「私は特に何もしていないんです。私の派閥は父の影響か清廉潔白が好きな方が多いんです。騎士になったり目指しているいる方も多いですし。

 皆の意見を聞いたり相談に乗ってくれる子達や仲良くなるのが得意な子等、皆自分の得意な事をして協力し合っているんです。私の足りない所をいつも助けて貰っています。」


 ミーナの話を聞いて、カトリーナは私には無理だなと思う。

優秀なカトリーナが助けを求める姿は想像できない。逆にミーナのように公爵令嬢として微妙だが人としては好印象を抱かれるような子は、周りの子供達がミーナを助けるために纏まるのね。参考にはできないわね。


 レティシアも話し出す。

「私の場合は意見が違う子供は1人だけでしたので、お話をしてその子が納得してから皆を集めました。最初に根本的なな意見は揃えておかないと後で崩壊しますから。様々な意見を話すのは、その後で良いので。

 自分がどんな目的で皆を集めたいのか、会を開く利点、他への影響、自分の目指す会にする為に必要な事等、色々考えて準備が完了したと思ってから会を開いています。

 最初にきちんと準備してから開いたので、その後は特に何もしていませんわ。問題が起きていませんので。」


 言葉に詰まるカトリーナ。父親に言われたから、婚約者候補として一人だけ交流会がないから等という理由が本音だがそんな事は言えない。

「同じ派閥で、交流を深める為ですわ。」

「出席者達は、交流を深めたいと思っているのかしら。

まあ、カトリーナ様の交流会なのですから、ご自分の好きな様に動けばよろしいかと。」



 不満そうな表情が出ているのを見て、態度に出すなんて珍しいなと思う。

レティシアは微笑みながら、一般的な例としていくつか対応策を上げる。

「ご不満そうですわね。カトリーナ様のお話の情報しか分からないので、実際行うかは分かりませんが、一般的な対応策をあげますね。

 互いを出し抜き合うなら、片方が得意分野を発揮できるテーマに取り上げ発表させ次は別の方にさせて、というように互いを高め合うように誘導する。

 貴族と平民の仲を深めさせたいのなら協力しないと負けるようなゲームからやらせみる。

 今簡単に述べましたけれど、お役に立てれば幸いです。」


 悔しそうにレティシアを見つめるカトリーナと、自分の友達は凄いなと喜ぶミーナ。

 それを見てレティシアは、カトリーナならこの位思いつくだろうに、どうしたんだろうと思う。ミーナと違い貴族令嬢として優秀なカトリーナ。


 少し考えて、レティシアは問いかける。

「カトリーナ様、この程度の事ならあなたなら簡単に対応できるはずですわ。(ミーナと違って)ほかに何かご心配な事がおありなのですか。(あなたの兄様達の事とか)」


 少し動揺するが、カトリーナは平然とした顔で否定する。カトリーナの動揺に気付き、レティシアは兄達の事かと思いつつ、私も表情には気を付けようと思う。


 気まずくなったので、レティシアは話を変えた。

「婚約者候補の勉強もうまく進んできて良かったですわね。これなら、中等部入学までには、中等部の勉強も終わりそうですわ。」

「ええ、飛び級は問題なさそうすわ。婚約者候補の教育自体、中等部より難しいですものね。

 王家も王太子殿下と婚約者候補を、本気で1年間学校で生活させるつもりだったのですね。模擬戦の為に騎士団の方達が出てくるとは思いませんでした。」

「騎士団の方達と一緒に訓練できるなんて嬉しいですわ。貴重な経験になります。

私騎士になりたいのです。婚約者が騎士でも構いませんものね。」

「ええ、ミーナ様訓練頑張っていらっしゃいますもの。騎士になれると良いですわね。」

「ありがとうございます。レティシア様。」


 2人を見ながら、婚約者候補が騎士になるのは無理じゃないのと思うカトリーナ。

「私魔力量が少ないので、レティシア様の研究を拝見させて頂いて、今父に見てもらいながら少ない魔力量を併用した剣での戦い方の練習をしているんです。

 魔法力の多い相手にも、同年代なら何とか互角に戦えるようになりました。」


「凄いですわね。レティシア様は研究の成果まで出されているなんて。」

「いえ、まだ実験段階ですわ。今魔法研究所と騎士団の魔力の少ない騎士に協力して頂いて様々なデータを集めているのです。」

「そうなんですか。(何も知らなかった 兄上達が僻地へ行ってから情報が集められない)」


「交流会もレティシア様に勧めて頂いて始めたんです。

 派閥の方達や平民の子達と交流しようなんて考えていなかったのですが、やってみたら色々な意見に触れられて勉強になります。初等学校のお話も聞けて楽しいですの。」


 ミーナの言葉によって、初等学校で派閥の子が何をしているのか把握できていない事も思い出す。カトリーナは焦り、頼れる兄達がいない事もあって徐々に追い込まれていく。

 ミーナが無邪気に(気づいているかは微妙)カトリーナを追い込んでいる。レティシアは助け舟を出す。


「今私は魔力量の論文に夢中なのですが、ミーナ様は騎士で、カトリーナ様は何に夢中なのですか。(あれ、助け舟というより追い打ちだったかも)」


 興味深そうに自分を見るミーナとレティシアを見て、カトリーナは負けじと言う。

「薬学です。私は昔から草が好きで、庭には全て草を植えているんです。

 両親には公爵令嬢らしくないと非難されますが、兄達は薬学はとても重要だし公爵家にとっても利益になるからと応援してくれているんです。

 いつか、研究を進めて安価で安全な薬を発売して、庶民達にも届けられたらいいなと思っています。勿論、こちらも利益を出す為に高価な薬と一緒に開発をして両方をバランスよく売りたいって思っています。」


 ミーナは利益の話が出るまでは素晴らしいと思っていた。ただ利益を得る話になると何だか嫌だなと思ってしまう幼いミーナ。


 逆にレティシアは興奮していた。即座に頭の中で纏め上げる。

凄い、カトリーナ様が薬学に通じているとは、薄利多売に高価な薬は王族貴族にお金持ち相手。どのあたりまで薬の開発を進めているのか、バレット家もぜひ加わりたい。

 お父様にすぐ報告だわ。薬に詳しいメイドを連れて、お庭を見せてもらわないと。

あれもこれもと思いながら、興奮状態を抑えて冷静になるレティシア。


 レティシアはカトリーナの両手を掴み、目をギラギラさせて言う。

「素晴らしいですわ、カトリーナ様。

 薬は高価な物が多い、庶民に薬が手に入るようになれば、彼らの人生が変わりますわ。具合が悪ければ薬を飲めばいい、体も楽になって動ける、辛くない、病気の子供とその家族も笑顔になる、勿論致死率も変わるでしょう。

 そして何より、貴族の令嬢がその事を行っていることに意義があると私は思います。

貴族令嬢が国や家の為に結婚するだけではなくて、他の事で成果を出していければ将来自由に色々な事を出来るようになるかもしれません。

 私達が今、こういった勉強を出来ているのも、前の世代の方々のおかげであるように。


 私達3人、魔力量研究、薬の研究、騎士でも成果が出せるように頑張りましょう。

お互い苦手な所を教え合い助け合えば、良い結果が出せるかもしれません。駄目でも次につながりますわ。」


 レティシアの言葉を聞いているうちにカトリーナも興奮してきた。

そうよ、一緒に頑張っていけばいい。こんなに心強い味方ができた。自分の事しか考えていな両親なんかより、私、レティシア様とついでにミーナ様と一緒に頑張っていく。


 盛り上がる2人と感動しているミーナ。


 レティシアとカトリーナは、落ち着いて話し始める。

「それで、カトリーナ様 ご実家の薬園と薬学の勉強はどのような状態なのですか。」

「中等部卒業までは、本と薬草と薬の基礎を家庭教師の先生に教わっています。

 薬園は、風邪と怪我の痛み止めや消毒等基本的な薬草を育てています。両親は反対していてお兄様達が援助して下さっているんです。」

「お兄様達がカトリーナ様を応援して下さっていて良かったですわね。」

「ええ、でも兄達が家にいないので先生が首にされてしまって。薬草は今までかかったお金を考えてそのまま残されているんですけれど。」


「そんなの酷いですわ。カトリーナ様が頑張っていらっしゃるのに。」

「ありがとうございます。ミーナ様。

ですが、両親には彼らの立場があり意見があるのです。酷いとは思いませんわ。私が働いて得たお金でもありませんから。」

「でも、公爵家はお金があるのだから、カトリーナ様の勉強に費やしてもいいと思いますわ。」

「公爵家にお金があることは関係ありません。何にどう使うかは、両親が判断する事であって、自分のお金でもないのに不満を言うのはどうかと思います。


 まして私達は他の人達より十分すぎる程、不自由のない暮らしをしていますわ。両親が私の希望に理解がないからといって、ミーナ様がこれ以上仰るのなら、当家への批判になりますよ。」

 カトリーナが思わずため息をつくと、ミーナはカトリーナの為に言ったのにと不満顔だ。


 なんかずれてるのよね、ミーナ様って。今思ったけれど、周囲を気にせず自分の気持ちを正直に言って周りに迷惑をかけたり、勝手な思い込みで周囲を批判して人の意見を聞かない、あの映像のマリーを思い出すわ。

 あ、意見は聞いていたわね。うーん。ミーナ様、要注意だわ。

段々とミーナの事が面倒くさくなってきたレティシア。2人の事は無視して話を続ける。


「何の話だったかしら。そうそう、薬草園は大丈夫そうですわね。現状維持ですもの。

 先生が首になったそうですけど、お兄様達に援助をお願いするのはやはり難しそうですか。やり取りはなさっているんでしょう。」

「いえ、兄様たちは今大変な時ですからお手紙などは出していないのです。」

「そうですか、こういった難しい問題は直接話さないと誤解を生むことがありますものね。

 婚約者候補としての対抗手段になるという説得の仕方でも無理でしたかしら。

現状を説明してより確実なものにする為にと。」

「なるほど、確かに今の所それ以外なさそうですわね。考えてみますわ。

レティシア様、ミーナ様、ありがとうございました。」

「いえ、認めてもらえるように祈っております。頑張って下さいね。」


 家に戻るとメリーナに今日の事を話す。

「カトリーナ様はお兄様達がいなくて大変なのでしょう。随分余裕がないように感じましたわ。情報も不足していましたけれど、候補者としての対応は、いつも素晴らしいですわ。

 私がお父様やお母様に助けていただけなかったら1人で出来るだろうかと思いました。もっと頑張らないといけませんわね。」

「そう、レティシアはカトリーナ様といい関係を気付いていけそうね。良かったわね、お互いに頼れる相手と思っているようだし、信頼関係を築けると良いわね。

ミーナ様とは、どうかしら。」

「ミーナ様は、周囲の人間を動かすのがお上手だと思います。

相手の立場や気持ちを推し量って行動せず、自分の思いを率直におっしゃってしまう事があるので、周囲がその事を注意したりフォローしています。

 派閥でも周りの子供達が上手くやっていて、ミーナ様を支える事で結束している印象です。」

「そう、素直で可愛らしいわね。やはり、ご家族は似るものなのね。」


 その後も、今後の対応等2人の話は続いていき、メリーナはハワードに話しておくといったので、レティシアは部屋に戻っていった。

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