エピローグ

 公園の木陰のベンチ。

 木もれ日のなかで、肩を寄せ合い、タブレットのアルバムをめくる。

 二十一年前の写真には、ふたりが公園で遊ぶ様子が残されていた。

 いくつも並んだ泥だんごに囲まれるかたちで、男の子と女の子が、砂場にしゃがんでいる。


 男の子は鼻の頭に土汚れをつけ、一心不乱に泥だんごを丸めている。

 女の子はそんな男の子の顔を、じっと見つめている。


 指でスワイプすると、次の写真が現れる。

 ふたりは高校生になっていた。

 観光地やカフェでの自撮りの写真がたくさん並んでいる。

 少年の屈託のない笑顔と、少女の、ちょっと曲がった控えめなピースサイン。

 ふたりだけでなく、金髪碧眼の美女と一緒に三人で写ったものもある。

 美女がペンギンの特大ぬいぐるみを背負わされ、両手に荷物を持たされて、複雑な表情をしている。

 アルバムを眺めるふたりは、この写真を見て楽しげに笑った。

 スワイプする。

 高校の卒業式で、証書の筒を手にしたふたりが、はにかんでいる。

 しばらく名残惜しそうに手を止めてから、次の写真に行く。


 大学の入学式の写真。海外旅行のときの写真。少年がこっそり撮影したと思われる、スナイパーライフルを構えた少女の写真。アルバムを進むたびに、いくつもの思い出が胸に去来する。やがて指先は結婚式のときの写真へと辿りつく。純白のウェディングドレスと、タキシードを着た、ふたり。来賓の金髪碧眼の美女が号泣している。三白眼で目つきの鋭い男が穏やかに口角を上げている。くすくす、とふたりは笑い声を立てた。木もれ日が揺れる。


「ぁ……」


 砂井さくらが、小さな声を出して、お腹をさすった。


「動いた?」

「うん……」

「笑ったのかもね」


 羽川兵太の言葉に、さくらは微笑む。


「幸せにしようね……」

「うん。僕らが、そうだったみたいに」


 さくらのライフルは人を撃たない。

 その代わり、最も撃ち抜きたいものだけは決して逃すことはない。

 ふたりで照準を合わせる。

 無限の未来をレティクルに捉え、願いの弾丸を静かに込める。






   〈おわり〉

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