第十話 光のもの
「おまえ、あのお方が見えるのか?」
十年前、天狗の師匠に弟子入りの土下座をした際、大地は木立の陰からこちらをじっと見つめている存在に気がついた。
「見えるだ。ほら、あの木立の陰にいる」
大地は指さした。
白い光に包まれた、子供とも大人とも、男とも女ともつかぬ人物が木陰から現れ、こちらに向かってくる。
その人物は天狗に歩み寄ると、鈴を鳴らすような声でいった。
「無門よ、面白そうな
光のものは天狗を無門と呼んでいるようだ。どうやら二人は師弟関係にあるらしい。
無門と呼ばれた天狗は懐から托鉢の椀を取りだすと、手のひらを開いて黒いサイコロを大地に見せた。
光のものが大地にいう。
「童よ、いまからこの無門がサイコロを振る。
出た目の数字をあてれば弟子入りを許そう。よいな、無門」
「お師さまのご
「では振るがよい」
どっかとその場に腰を下ろしてあぐらをかいた天狗は、椀に入れたサイコロを振って切り株の上に伏せた。
カラカラと椀のなかでサイコロの踊る音が聞こえる。
やがてその音が止み、静寂が訪れた。
(五の目だ)
根拠はない。ただ直感が五の目だと告げている。
「目をいえ」
天狗が押し黙った大地を促す。
大地の口が開きかけた、そのとき――
「弟子入りを許そう」
光のものがいった。
「よいな、無門」
「は」
「ちょっと待つだ、おら、なんもいってねえべ」
大地が抗議の声をあげた。出た目も見ないうちからそのようなことをいわれては、なんのためのサイコロ勝負なのか意味がわからない。
「おまえはいま、五の目を告げようとした。違うか?」
光のものが静かにいった。
「そんだ。なしてわかるだ?」
「こら、言葉使いに気をつけよ」
天狗が脇から注意する。
「椀をその手であけてみよ。どうやら、おまえは天運を持っているようだ」
そういうと光のものは滑るような足取りで林の奥に去っていき姿を消した。
大地は狐につままれたような表情で光のものを見送ると、切り株の上に手を伸ばして伏せた椀をあけるのであった。
(
二回戦の相手である巫女剣士――
師匠の師匠だから
――わしのお師さまは羽黒山の精霊であらせられる。
天狗の師匠はそう説明したのだが、実際、どんな存在なのか具体的にはわからない。あの巫女剣士もそういった摩訶不思議のものなのだろうか?
「ちょいと邪魔するで」
昨夜と同じ台詞を口にして、またもや太牙虎之介が大地の部屋に入ってきた。
「葛城暮葉について仕込んできたで」
性懲りもなく情報料をせしめようとの魂胆だ。
大地が勝ちを収め、しかも番付の上位に
断ろうとして大地は思い直した。暮葉を倒さなければ次に進めない。
「銭なら言い値で払うべ。なんでもいいから教えてけろ」
「待ってたで、その言葉」
虎之介は揉み手をせんばかりに身を乗り出すと、葛城暮葉について語りはじめた。
第十一話につづく
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