大江戸アルティメイタムⅡ烈風!天下無双武術会

八田文蔵

   序章



「おらを、おらを弟子にしてくんろ! お願げえします!」


 旅の剣客親子が去ったあと、大地は茂みから跳びでて天狗の前に土下座した。


「ダメだ。帰れ!」


 天狗の巨体が逆光のなかで大地を見下ろしている。野太い声はまるでいかずちのようで、大地は思わず首をすくめた。


 だが、大地はその場を動こうとしない。ここで逃げ出したら、若槻一馬と戦えない。この屈辱を晴らすことはできない。


「意地でも動かぬつもりか?」


「で…弟子にしてくれるまでは、おら、ここから一歩も動かねえだ」


「死んでもか?」


「死んでも動かねえ!」


「ならば、望みをかなえてやる」


 天狗が腰に差していた大ぶりの扇子を抜いた。一馬の父親を打ち負かした扇子である。

 殺気が押し寄せてくる。

 天狗は本気だ。本気で大地を殺そうとしている。

 天狗の巨影にすっぽり呑み込まれて大地は震えていた。

 扇子が頭上高く振りあげられた。

 たかが扇子ではない。

 逆光のなかに浮かびあがったそれは、鋭利な刃物のようにも見える。


「あ……」


 思わず命乞いの声をあげかけて、大地はあらぬ方を見た。

 だれかが、右手の木立の陰からこちらをじっと見つめている。

 自分と同じ背丈の人間だ。

 一馬がもどってきたのだろうか?

 いや違う。

 その人間は全体が白く輝いていた。

 天狗が視線をさまよわせた大地にいった。


「おまえ、あのお方が見えるのか?」


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