第39話 乗馬

 俺とムサシマルはソフィアを残したまま街を出て、罠を仕掛けてある森へ行く。

 今回は俺の乗馬の練習もかねて馬を一頭借りて出かけている。

 馬自体に乗るのにも苦労をしたが、ムサシマルの手を借りて何とか馬上の人となった。

 思っていたよりも上下に揺れるものだ。

 ムサシマルが手綱を引いてくれているが、初めての経験に力が入る。


「緊張するとその気持ちが馬に伝わるぞ」


 そう言われるので大きく深呼吸をして心を落ち着かせる。


「それでキヨよ。いくつか聞きたいことがあるんじゃが、まずあの女とお主の関係はなんじゃ?」


 あの女とはもちろんソフィアの事だ。


「俺に言われても困るんだけど、なんていうかな。言うなれば押しかけメイドかな?」

「めいど?」


 俺は身の回りの世話をしてくれる女性だと説明した。


「そうすると女中のことか? しかし、この世界は男が家のことをするのが普通なのにおかしな女じゃのう。お主、あの女に何かしたのか?」

「まあ、ちょうどいい。俺が身につけた魔法と関係があるんだ。ムサシマルには話しておくけど、いろいろあってまだほかの人には黙ていてほしい。レイティア達にも。今朝、部屋にいたソフィアにはもう話してあるから大丈夫だけれど」


 ムサシマルが興味津々な顔をした。


「お! 魅了とか服従系の魔法か? キヨの好きそうな助平な魔法か?」

「師匠、まじめな話だ。真面目に聞く気がないなら黙っておくけど」

「わっはっは。冗談じゃ。それでまじめな話どうだった」


 ムサシマルは馬鹿笑いから一転、真剣な顔になった。


「ちょっと特殊な魔法で、人に魔法を習得させる魔法だ。ソフィアはゼロだったけど、無事に魔法を習得させた。帰ってから魔法の状態や使い方の確認をする予定だけど、昨日の時点では無事に魔法は発動してた」


 ムサシマルは目を見開き驚いた後、考え込んだ。


「儂も魔法を習得することは可能か?」


 俺は昨夜の出来事を思い出していた。俺やライセンサーはあくまで魔法取得のトリガーを引くだけで、実際の習得の実権を握っているのは奴、集合的無意識体ではないかと推測している。奴の範囲がこの世界の人間のみの場合、異世界からきている俺やムサシマルが魔法を習得することができるかは未知数だ。しかしここでその話をした場合、俺が魔法を習得したということと矛盾が生じる。あくまで俺は魔法で魔法を習得させることにしておかないと魔法技術院がどう動いてくるか不明だ。


「おそらく可能だと思う。ただし俺の魔法自体が未知数で上に師匠は異世界から来ている影響がどこまで出るかわからない。師匠に魔法をかけるとしてもまだ時期尚早だと思う。時期が来てからでいいかな?」

「分かった。その時期はキヨに任そう。儂も不安がないわけではないんでな。まあ、儂に手伝えることがあれば言ってくれ。レイティア達にも黙っておるでな」


 ムサシマルは素直に引き下がってくれた。


「今日はせっかく馬を連れているんじゃ、猪か鹿くらいは捕りたいのう」

「蝶は不要か?」


 俺たちは軽口をたたきながら森へと入った。

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