曳き子森

明日香狂香

第1話 引き篭り

 引き篭り。自宅からほとんど出ない人間のことだが、この言葉がこの国から消えて久しい。それは、かれらが存在しないからではなく、多くの人間が外出する必要がなくなったから。つまり、国民総引きこもりだからだ。

 土地代が高いので、住居はすべて公共のマンションになった。ネット社会により、学校はもとより仕事のための出勤や出張も不要になった。食事も注文すれば各種冷凍惣菜が自宅の冷凍庫に届く。そこから指示を出せば、調理器が自動で暖めて、部屋に運んでくれる。食後に食器も洗う必要もない。

 生活雑貨類はマンション内のコンビニから届けられる。どうしても運動したい場合は、共有のトレーニングルームにいく。外食するにも店が無い。調理機の進化により、屋台のラーメン屋から高級レストランまで、すべてが注文配送になった。わざわざ並んで待たされることもない。

 旅行?何時間もかけてわざわざ移動しなくても、レンタルドローンからの映像が配信される。名物は若干時間がかかるが取り寄せることができる。VRでもLIVEでも、一人でも集団でも自由に旅の気分が家にいながら味わえる。


 家の風呂で入浴剤を使えば、酸欠で倒れる可能性や雨に濡れながら露天で震えるリスクもない。注意書きを無視した刺青のお兄さんたちに会う危険もない。ジムやプールだってマンションに設置されている。さすがに巨大スライダーはないが。


 外にいるのは、低賃金のブルーワーカーや、物好きなアウトドア派の連中ぐらいだ。スポーツさえもほとんどが記録が天候に影響されないように室内で行われている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る