第6話 ウォランの怒り

 ロードは鞄の中に備忘録を仕舞うと、改めて事件の被疑者達に頭を下げた。


「皆さん、ご協力ありがとうございました。皆さんのお陰で」


「犯人が分かったのかい?」と、コーマは指を鳴らした。「探偵君?」


「それはまだ。でも、ココの全員が『怪しい』と言うのは分かりました。アリバイの事を考えても。皆さんはやはり、事件の被疑者です」


「そ、そんな」


 ロードは彼らの動揺を無視し、ダグラスの顔に視線を移した。


「屋敷のマスターキーを貸して下さい」


 ダグラスは、彼の要求に目を細めた。


「それは、必要な事で御座いましょうか?」


「はい。犯人を見つける為にも。それは、絶対に必要です」


 ダグラスは、彼の目をしばらく見つづけた。


「分かりました、では」


 と言いつつ、ロードにマスターキーを渡す。


「どうぞ、お受け取り下さい」


「ありがとうございます」


「調査が終わったら、わたくしの方にお返し下さい」


「はい、必ず返します」


 ロードは「ニコッ」と笑うと、クリス警部の所に行き、小声で彼に話し掛けた。


「彼らの供述ですが」


「おう」


「警部の聞いたお話と同じでしたか?」


 クリス警部は無愛想な顔で、その質問に「ああ」とうなずいた。


「九割くらい同じだったよ。残りの一割は、新情報だがね。探偵のお前が聞くと、やはり」


 の続きを飲み込む。


「で、『これから』どうするんだ?」


 ロードは、ウォランの顔に目をやった。


「助手のお話はもちろん、聞いていましたよね?」


「ああ」


「なら、『そう言う事』です。オレは彼と一緒に、この屋敷を調べます」


「そうか」


 クリス警部は、被疑者達の顔に視線を戻した。


「俺達は、供述の裏を取るよ。あの連中の話が本当かどうか、色々と聞き込みしてくる」


「分かりました。気を付けて下さい」


「お前の方も、気を付けろよ」


「はい」


 ロードはウォランの前に立ったが、ウォランは彼の目を睨みつけた。


「時間、結構掛かったな」


「情報の収集は、大事だからね。どんなに些細な事でも、聞き漏らすわけには行かない」


「くっ」


「案内、頼むよ」


「ああ」


 ウォランは応接間の扉に目をやったが、マグダリアの怒声を聞くと、彼女の方に振り返り、不機嫌な顔でその内容に耳を傾けた。


 マグダリアは、テーブルの上を殴った。


「ああもう、最低! お父さんのお金が借りられないし、挙げ句の果てには!」


「犯人扱い、ねぇ」と、コーマが笑った。「クククッ。犯人扱いじゃなくて、本当に犯人なんじゃないのか?」


「何ですって!」


 マグダリアは、長椅子の上から勢いよく立ち上がった。


「そう言うアンタの方こそ犯人なんじゃないの? お父さんが死んだのにヘラヘラしちゃって。お父さんの死を悼む事も……」


 コーマは、彼女の動揺に溜め息をついた。


「死んじまったものは、仕方ない。どんなに喚いても、死んだ人間は生き返られないからな。今、自分が生きている事に感謝するしかない」


「コーマ兄さんは……」


「ん?」


「その事に感謝しているの?」


「ああ、物凄くしている。犯人様のお陰で、親父の遺産がたんまり入ってくるからな。感謝以外の」


「コーマ!」と、ドウダの怒声。「お前」


「ああん?」


「それ以上は、その」


「はい、はい、世間の皆さんが見ているってね。本当は、兄貴も喜んでいるくせに」


「なっ!」


「兄弟だから分かる。兄貴も俺と同類だ。どんなに上手く隠しても、その本性だけは決して誤魔化せない。俺達はあの、ジョン・アグールの息子なんだからさ。金に謙虚なわけがないよ」


 コーマは、妹の顔を睨んだ。


「な?」


 マグダリアは、兄の目から視線を逸らした。


「あたしは、くっ! 兄さん達とは、違う。あたしは、お金に!」


「もう止めて!」


 ユナ夫人は両手で、自分の顔を覆った。


「お願いだからもう! この家の財産は、みんなあなた達にあげるから」


 ウォランは、その光景に苛立った。


「どいつもこいつも、金、金、金! テメェらには」


「ウォラン?」


 ロードは彼の顔を覗いたが、ウォランは「それ」を無視した。


「ロード」


「うん?」


「行こうぜ?」


 ロードは、彼の気持ちを読み取った。


「ああ」


 二人はウォランから順に、応接間の中から出て行った。


 ウォランは横目で、隣のロードを見た。


「どの部屋から調べる?」


「ここから一番遠い部屋は?」


「長男の泊まった部屋だ」


「よし。ならまずは、その部屋に行ってみよう」


 ウォランは、その部屋まで彼を案内した。

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