第十一章:オペレーション・ダイダロス/04

「イーグレット隊、敵集団との近接戦闘に移行。続きファルコンクロウ隊、ノーマッド隊も突入します」

「レーアくん、敵の数はどうなっている?」

「エリアB‐3、H‐Rアイランド所属飛行隊が受け持つ作戦エリアの敵機撃滅数は既に三分の一を超えています。他作戦エリアも順調に推移。航空優勢の獲得はもう間もなくかと」

 極東方面司令基地『H‐Rアイランド』――――蓬莱島の地下司令室にて、レーアの淡々とした報告を聞く要は、腕組みをしながら小さく唸っていた。

「ここまでは予定通り……ということか」

「敵キャリアー・タイプの出現数が予想よりも多いといえ、こちらも相応の数を揃えています。それにESP機も多く投入されていますし、航空優勢の獲得は容易かと」

「ESP機か」呟き、要がチラリとレーアの方に目配せをする。「確かマルセイユ基地からも出ていたな、例の二人が」

 そんな要の問いかけを、レーアはデスクの液晶モニタに向き合ったままで「はい」と小さく頷いて肯定した。

「クロエ・アシャール大尉、シャルロット・エルランジェ大尉を始めとしたマルセイユ基地所属の飛行隊は、現在エリアS‐1にて交戦中。こちらの作戦エリアは既に三分の二以上の敵機を撃滅、もう間もなくエリア内の航空優勢が確保出来るようです」

「敵の真正面、一番の激戦区だというのに、随分と早いな……。流石は『マルセイユの女神』というワケか」

「……たった今、エリアS‐1から報告が入りました。当該エリアの航空優勢を確保、このまま敵キャリアー・タイプ、アルファ標的への対艦攻撃を開始するとのことです」

「もう攻撃機が到着したのか?」

 幾ら統合軍最強クラスのスーパー・エースが居る宙域といえど、幾ら何でも展開が早すぎる。

 不思議に思った要がそうレーアに問いかけたのだが、しかし彼女から返ってきた答えは「いえ」という小さく否定を示すものだった。

「アルファ標的への攻撃を担当する部隊は、まだ宙域に到達していません。攻撃態勢を整えてはいますが……まだ到着までに三〇〇秒はかかるようです」

「だとしたら、一体誰が攻撃を?」

「アシャール大尉、エルランジェ大尉の二機が攻撃を敢行するそうです」

「…………流石に常識外れだな、あの二人は」

 まあ、だからこそ唯一無二のスーパー・エースなのだが――――。

 あの二人の機体……確か技研のフランス支部が開発した≪ネージュ9000≫だったか。彼女らが装備した兵装の詳細こそ聞かされていないが、しかし彼女らの任務はあくまでも航空優勢の確保だ。対空戦闘を主目的とした装備内容で、決して大きなキャリアー・タイプに対して対艦攻撃が出来る物ではないはず。

 が、そんな状況下で敢えて自ら対艦攻撃を買って出たということは……つまり、余程の自信があるのだろう。これぐらいでなければ、地球人類で他に類を見ないレベルのスーパー・エースなんて務まらないのかもしれない。

 何にせよ、あの『マルセイユの女神』が担っている方面……アルファ標的の方は問題無さそうだ。放っておいても撃滅は完了するだろう。何なら、ドデカい対艦ミサイルを山ほど抱えた攻撃部隊が到着する前にキャリアー・タイプまで仕留めてくれるかもしれない。たった二機でなんて冗談みたいに聞こえるが、しかし何処か現実味も感じさせてしまう辺りが……あの二人、地球人類で最強クラスのESPパイロット、スーパー・エースの恐ろしいところだ。

「…………司令、報告します。エリアS‐1に続き、エリアB‐3の航空優勢確保にも成功したようです。作戦の第一段階を達成。これよりガンマ目標に対する揚陸艇の強襲攻撃を開始します」

 そう思っていると、レーアからそんな報告が飛んでくる。どうやらアリサたちイーグレット隊を始めとしる蓬莱島所属の飛行隊も、無事に敵集団を撃滅し宙域の航空優勢を確保出来たらしい。

 とすれば、今まさに彼女が言った通り作戦の第一段階は完了。作戦は次なる段階……本命のガンマ目標へと歩兵部隊を突入させ、キャリアー・タイプの拿捕を試みる段階へと移行する。

「…………よし、分かった。『オペレーション・ダイダロス』はこれより第二段階へと移行する。イーグレット隊、ファルコンクロウ隊は強襲揚陸艇が作戦エリアへと到着次第、その援護に当たれ。ノーマッド隊以下、他の部隊はそのままエリアの航空優勢を維持。奴らを揚陸艇に近づかせるな!」

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