第八章:This moment, we own it./12
――――勝負の結果は、まあお察しの通りだ。
一位がアリサで、二位がミレーヌというワンツーフィニッシュ。二人とも実力は拮抗していたのだが、最後のゴール前のストレートが長い造りのコースだったこともあり、チャージャーの馬力に物を言わせてアリサがぶっちぎったという幕切れだった。流石に国産最高の名機のひとつに数えられるNSX‐Rとて、スーパーチャージャー付きでナイトロまで吹かすアメリカン・マッスルの暴力的な力押しの前には敵わなかったというワケだ。
そして、三位と四位だが……まあ、こちらも予想通りに翔一、宗悟の順だった。流石に相手はフェラーリ、幾ら乗り手の宗悟のドライヴィング・スキルがこの四人の中の誰よりも劣っているといえ、マシーン自体の性能は凄まじいの一言。そんな相手に、翔一は思っていたよりもかなり苦戦させられてしまった。
だとしても、勝つには勝ったのだが。抜いて抜かされの熾烈な攻防戦の末に、実を言うと最後の方は未来予知の能力を使って宗悟の進路をブロックしていたことは……まあ、このことは敢えて本人には言わないでおこう。
とにもかくにも、そんな具合に『レーシングギア4』を全力で楽しんだ後は、ガンシューティングだったりUFOキャッチャーに興じたりと……割に長くの時間をこの場所で費やし。ゲームコーナーを出る頃にはもう、空が茜色に染まる夕暮れ時になっていた。
「ラストの締めにゃ、やっぱ定番のアレっしょ」
ゲームコーナーを出て、皆で夕暮れ空を見上げながら、そろそろお開きにしようかと話し始めていた頃。宗悟が最後に回ろうと提案し、ニヤリとしながら指差したのは――――傍にある大きな観覧車だった。
確かに、遊園地の締めに観覧車は定番中の定番だ。寧ろアレに乗らずして何の為に来たのかというレベルでド定番。だから皆は一度頷き合うと、快諾し。宗悟の提案に乗っかる形で、その大きな観覧車の方に歩いて行く。
どうやらこの遊園地の観覧車、高さは八五メートルと見た目通りに大きく、この地区では一番大きな観覧車だそうだ。そんな大きさだけに景色も最高で、かなりの評判らしい。昼は遠くまで見渡せる清々しい展望、夜は北の都市部や南の工業埠頭の夜景が美しく。このドデカい観覧車から望める、そんな景色を目当てに遊園地を訪れる客も少なくないそうだ。
その観覧車、ゴンドラの数は全部で四八台。その内の二台がシースルーゴンドラという……分かりやすい言い方をすれば、全面が透明になった特殊なゴンドラになっている。このシースルーゴンドラ自体もこの地区では初めて導入された物のようで、これを目当てにする者も多いとか。椅子も床も壁も、何もかもが透明なゴンドラというのは少しばかり怖そうだが……同時に、楽しそうでもある。とはいえ乗れるかどうかは順番次第で、完全に運だ。
で、だ。アリサに翔一の二人は、てっきりこの四人でひとつのゴンドラに乗り込むものだと思い込んでいたのだが――――。
「ちょっ、アンタたちどういうつもり!?」
「まあまあ、いいからいいから。なあミレーヌ?」
「ああ、そうだね宗悟。こういう時は別れて当然……だろう?」
順番が回ってきて、さあゴンドラに乗り込もうとした時。なんと宗悟たちは二人ずつに別れて乗ろうなんて言い出したのだ。
翔一とアリサは既にゴンドラに乗り込んでいてしまったから、もう出ようにも出られない。だから二人はそんなミレーヌらの勢いに押されるがままというか、策略にまんまとハマってしまったいうか。とにかく、二人きりで乗る羽目になってしまっていた。また余談だが、宗悟とミレーヌの二人はアリサたちのひとつ後ろのゴンドラに乗り込んでいた。
ちなみに、幸運なことに翔一とアリサが乗り込んだのは、前述した二台しかないシースルー仕様のゴンドラだったりする。その後ろのミレーヌたちは……残念ながら、普通のゴンドラのようだ。
そんなシースルー仕様に二人でおっかなびっくり乗っていたからというか、幸運にも巡り逢ったそれに二人して気を取られていたからというか。そんな風に翔一たちの気が逸れている間に、宗悟が観覧車の係員に小声で囁きかけて……五秒ぐらいで上手く丸め込んで。二人が乗り込んだ段階でバタンと扉を閉めさせると、そのままアリサたちを二人っきりでの観覧車の旅に送り出したというワケだった。
「や、やられた……!」
その後でちゃっかりと真後ろのゴンドラに乗り込む宗悟たちを恨めしそうなというか、物凄く微妙な顔でアリサは睨みつけ。しかし乗ってしまったものは仕方ないという感じで、やれやれと肩を竦めながら。既に座ってくつろいでいた翔一の真正面、対面のシートに腰掛けた。
そうしている間にも、ゴンドラは動き続けていて。アリサと翔一を乗せた二人きりの閉鎖空間が……ゆっくりと、緩やかな速度で上昇していく。
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